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神隠しの庭  作者: シルフェまたさぶろう
第一章 異界
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その十一



 誰かに話を聞いてもらえるというのはそれだけで嬉しいものだ。あまりにもランジャが楽しそうに聞いてくれるので、調子に乗った仁太の話は日本史に突入した。

 ゲームの受け売りな戦国武将知識披露からうろ覚えな源平合戦などを経て、いよいよ石器時代の説明に入ろうとしたところでホルドラントが扉を叩いた。

「待たせたな。少しトラブルがあったが、もう大丈夫だ。こっちへ来てくれ」

 いまさらだが、目が覚めてからずっと部屋の中にいたことに気づいた。よく考えてみればここが誰の家なのか、どのくらいの規模の建物なのかもわからない。

 仁太の中にふつふつと、まるで初めて登校した学校の中を探検したくなった時のような、そんな好奇心が沸き上がってきた。

「行こうぜ、ランジャ」

「えー。僕は仁太の話のほうが・・・」

「いいからいいから。魔術だぜ、魔術。魔法もあるってさ!」

 乗り気ではなさそうなランジャを無理やり説得すると、仁太たちは部屋を出た。


 部屋の外は廊下だった。洋風の建物で、扉の数から考えるに規模は宿屋くらいだろうか。仁太は小さいころに家族旅行で訪れた民宿を思い出した。

 廊下の突き当たりに階段があった。この上にも階があるようだ。ホルドラントに付いて下の階に降りた。どうやら、先程まで仁太たちがいたのは二階のようだった。

 ホルドラントに付いて一階の廊下を進むと食堂らしき場所に着いた。巨大な木製のテーブルの上には食事が並べてある。木の食器にパンとスープ。ホルドラントに促され、仁太とランジャは席に着いた。

 実のところ、異世界に行くにあたって仁太が危惧していたことの一つに食事があった。普段仁太が食べている野菜や肉、魚といったものが、異世界においてもポピュラーであるという保証はどこにもない。大体、仁太の世界の中でさえ味覚のズレが問題となることがあるくらいだ。外国の食事が口に合わなかったという話など珍しくもないし、旅番組で先住民が生きた虫を食べているのを見たのはちょっとしたトラウマになっている。

 それが異世界と来たものだ。人面野菜のサラダから得体のしれない動物の耳の刺身、「食べないでくれ」と懇願してくる生きた虫を食わされる可能性さえ否定出来ない。そう思っていた。

 しかし、目の前に並んだ食事は色も匂いも普通だった。味までは分からないが、少なくとも仁太が想像していたゲテモノでは断じて無い。

「驚いてるようだな。もっと壮絶な、例えばゴブリンの串焼きとか、エルフの眼球入りスープとかを想像していたかね?」

「い、いえ、流石にそこまでは・・・。ただ、思ってたよりも普通で、その・・・美味しそうだなって」

「さっき話したように、ここの住人たちは皆、平行世界から来た者だ。まあ、二世、三世の者もいるがな。だから、食事は我々人間や亜人に合った物になっているのだ。ドラグラの私だって、食事の好みはそこらの人間と同じだぞ?」

 ホルドラントはここで待っててくれと言い残して食堂を出て行った。

 しばし暇になった仁太は、ランジャが食器に興味を示していないのが気になった。

「あれ、ランジャ。こういうのに興味ないの?」

「こういうのって、食器のこと?」

「そうそう。これも人間の道具の一つだぜ」

「あのね仁太」

「ん?」

「僕がナイフ使ってるの見たでしょ。チャカストだって食器くらい作るよ?馬鹿にしないでもらいたいな」

「え、あー・・・。ごめん」

 怒られてしまった。


 ホルドラントはすぐに戻ってきた。

 一緒に連れてきたのは三人の人間だった。見た目から推測するに20代半ばくらいだろうか、若い男性と女性が一人ずつ。そしてもう一人はいかにも豪快そうなオバ・・・お姉さんだ。相手は異能の術の専門家だ。うかつなことを考えると、心の中を読まれたりした際にまずいことになる。

「紹介しよう、彼らが専門家だ。こいつは魔術師のダムダ」

「よう、坊主。確か仁太だったか?足の調子はどうだ」

 ダムダと呼ばれた男性はキシシと笑った。

「あなたが治してくれたんですか。このとおり、バッチリ治ってますよ。ありがとうございます」

「そっか、そりゃ良かった。ま、俺の魔術に掛かればあの程度は楽勝だがな」

 得意げなダムダを見て、彼の二つ隣の席に座った若い女性が舌打ちした。

「足の一本や二本治したくらいで恩着せがましい男。器量の小ささが伺えるわね」

「へっ、なんだなんだ、嫉妬ですかぁ?俺の活躍がそんなに妬ましいんかね?うん?」

「なんですって・・・?」

「こらこら、やめないか。まったく、お前たちはいつもそうだな」

 ホルドラントが二人を遮る。さすが長老だけあって、二人の男女はフンとそっぽを向いて口を閉じた。

 やれやれといった様子で、ホルドラントは口喧嘩をしていた女性のほうを紹介した。

「・・・ゴホン。彼女はアルミラ。魔法使いだ」

「初めまして、仁太、ランジャ」

 さっきまでの態度が嘘のように、アルミラはニッコリと笑った。

「そして、彼女が精霊術師シルムーだ」

 険悪なムードの魔術師と魔法使いに挟まれても静かに座っていた中年女性だ。

「よろしくね、二人とも」

「時間も時間だったのでな。食事でもしながら色々と教わるとよいだろう」

 そう言うとホルドラントは仁太の隣に座った。

 ランジャは今にも食事にかぶりつきそうだった。それを見ていると、仁太の腹が「俺も俺も」と主張するようにグーと鳴る。

 それを聞いたホルドラントはハハハと笑った。

「よほど腹を空かせていたようだな。さあ召し上がれ。もう一人はまだ起きてこないようだが、彼には後で食事を持っていくとしよう」

 ホルドラントの言葉に引っかかるものを感じた仁太だが、勢い良く食事を頬張るランジャの様子に空腹を刺激され、まずは食事を優先することにした。



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