世界の出口
「この家の裏の山をずっと進んでいくと洞窟があってな。ほんの数十メートルで出口がある、短い洞窟なんだが、そこを通るとたまーに人が消えちまう。不思議なことに、その洞窟は一直線で、人がいなくなる原因はまったくわからなんだ。だもんだから、そこにはもう一つの出口があると言われるようになった。洞窟ではない、世界からの出口。あそこには絶対に近づいてはならんぞ」
文字通りの山奥の田舎、そこに住む祖母は、楠木仁太が幼い頃からこの話を何度も聞かせた。
仁太とはまた別の県から帰省してくる佐々本礼介は仁太の古くからの友人で、幼い頃は二人で祖母の話に泣いたこともあった。
年をとるにつれ、仁太はこの話がいかに荒唐無稽なものであるかに気づいていった。幼子を怖がらせるための話、老人が好みそうなものだ。
それと同時に、子供を山へ近づかせないためのものでもある。あの山には、熊かなにかがでるのだろう。
そう断じた仁太は、小学生のころに礼介と共に山へと赴いた。
山に入って少し進んだところに、まさに祖母の話にそっくりな洞窟を発見した。早速中へ入ってみたが、何もないまま出口を抜けた。
やっぱりな、と得意顔の仁太と礼介が家に帰ると、仁太の祖母は普段見せたことのないほどの怒りをあらわにした。泣いて家に帰った礼介は、さらに彼の祖父母にこっぴどく叱られたという。
まったくもって不愉快だと仁太は思った。洞窟は村からさして離れておらず、熊が出るとすれば村まで下りてくるはずだ。しかし、この村で熊や猪を見たという話は聞かないため、つまりあの洞窟付近に獰猛な動物が出ることはないということだ。
となると、あの話は本当に子供を怖がらせるだけのものだということになる。だというのに、この叱り方は理不尽ではないだろうか。
きっと礼介もそう思ったに違いないと当時の仁太は考えたが、今考えてみるとどうやら彼は別なことを考えていたようだった。
数日後、礼介は父親と喧嘩をし、家を飛び出した。
山のほうに走っていく姿を見たという情報が入ったきりで、結局礼介は見つからずじまいの大騒ぎとなった。
「あいつは熊に食われたんだ」
仁太の父親はそう言って聞かせた。熊が出るなどという話は初耳だったが、父親が真面目な顔で言うのなら嘘ではないだろうと、仁太はその言葉を信じ、礼介の死に涙した。
あれから6年経った今、仁太は人を喰らう洞窟の前に立っていた。
6年の年月は仁太に知恵を与えた。あの時、激怒する祖母らの姿から礼介が考えたことが今ならわかる。
荒唐無稽なお伽話であるならば、なぜ怒る必要があるのだろう。実話だからこそ、言って聞かせたのだ。
礼介が父と何が原因で喧嘩をしたのかは知らないが、おそらくこの洞窟へ来たのだろう。こんな世界、その出口に。熊なんていやしない。
これらのことから仁太は一つの結論に達していた。この洞窟が人を喰らうのは、通る者が世界を拒絶している場合なのだという結論に。
今ならば、開く。確信があった。
何を躊躇うことがあろう。仁太は洞窟へと進み、そして─。
世界観を先に考え、そこに後から考えた人物をぽいぽい放り込み、あとは彼らが動く様を行き当たりばったりで想像していく。
そんな手探りな作品です。
作者の経験が少ないため、かなり不恰好な作品になると思います。
第一目標は完結させること、ということでお付き合いいただけたらなと。