●51
「入って」
喋りながら阿佐美に連れられて到着したのは、闘技場の中にある小さな部屋だった。
「ここは?」
「闘技者の控室よ。あんたはいつもギリギリに来るから初めてだろうけれど」
阿佐美がトゲを隠さない口調で言った。
「いつもギリギリで申し訳ない」
「本当よ。他の闘技者は良い子に控室入りしているというのに、あんたときたら」
阿佐美は慣れた様子で机に置かれた水を一本手に取って飲んだ。
「時間まであたしと一緒にいる? それとも一人で待機する?」
目黒との決闘のために精神統一もしたいところだが、阿佐美と二人きりで話したいこともたくさんある。
俺が口を開こうとした瞬間、一足先に阿佐美が言葉を放った。
「この控室には、闘技者がおかしなことをしないか確認するために監視カメラが付いているの。ついでに会話も筒抜けと思った方が良いわね」
余計なことは言うな、ということだろう。
「……じゃあ、今一度、決闘のルールを確認させてくれ。相手を気絶させる以外に勝つ方法はあるのか? リングの外に出た場合は反則負けになったりするのか?」
阿佐美は控室のドアを閉めると、水を飲みながら椅子に座った。
「リングの外に出ても負けにはならないわ。ただし、わざとリングの外を長時間逃げ回るなどの行為をした場合は、ペナルティが入る。ペナルティの内容は行為の悪質具合にもよるけれど、基本的には闘技場の匙加減ひとつで決まるの。だから絶対にリング外を逃げ回らないで」
「相手を気絶させるしか勝つ方法は無いってことか」
「そんなこともないわ。相手に負けを宣言させても勝利になる。だから戦意を喪失させるような状況まで追い詰めれば勝てるわ」
頷きながら考え込む俺に、阿佐美が厳しい視線を送ってきた。
「まさか目黒さんにケガをさせずに勝とうとでも思っているの? 言っておくけれど、かなり強いわよ、あの子」
「そんなことが分かるのか?」
「基本的に、頑固な人の“想い”は強くなりやすいの。同じクラスだから知っているけれど、あの子って柔和なように見えて我が強いでしょ」
我が強い……そうかもしれない。
目黒は優しくて親しみやすいタイプだが、他人に流されはしない。そのことは、何度告白されても沢村と付き合おうとしなかった件にも表れている。
「誰に何を言われても絶対に叶えたい“想い”がある人の武器は強くなるわ」
「だけど俺の武器には仁部と沢村、それに仁部に負けた人たちの分の“想い”が乗ってる。対して目黒は目黒一人分の“想い”だけだ」
「前に言ったでしょ。強い“想い”は、数人分の“想い”に勝ると」
阿佐美はそこまで言ってから、ふっと息を吐いて肩をすくめた。
「ま、あの子がそうとは限らないけれど」




