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ビンゴ大会を宣言した仁部は、パタパタと視聴覚室の端へと向かった。真ん中のテーブルにばかり目が行っていて気付かなかったが、視聴覚室の端には布を被せられた小さな山があった。
「じゃじゃーん! これがビンゴ大会の景品です!」
仁部が両手で持ってきたのは、ボトルシップと額に入った絵画だった。
「このボトルシップは、僕が愛を込めて作ったものです。堀田君は、ボトルシップは好きですか? その前にもちろんボトルシップは知ってますよね? このようにボトルの中で船を組み立てた芸術品のことです。プラモデルとどちらを渡そうか悩んだのですが、プラモデルよりもボトルシップの方が制作者が少ないので喜んでもらえるかと思いまして。こんなに魅力的なのに不思議ですよね。どうしてボトルシップは爆発的な人気が出ないのでしょう。昔は大人気だったので、時代が回った今、そろそろ流行り始めると思うのですが」
仁部はいつもよりも饒舌にボトルシップの説明を始めた。
しかし申し訳ないが、素晴らしい出来である仁部のボトルシップよりも、俺の目は目黒が描いたのだろう絵画に釘付けになっている。
「この絵は私が描いたんだ。力作なんだけど、どうかな?」
目黒が誇らしげな様子で絵画を指差したが、これは……何の絵なのだろう。
かなり独特なタッチのイラストだ。デフォルメが効いていて、元のモデルが誰なのかは予想も出来ない。それに人間の顔のようだが、髪の色も肌の色も俺なら塗ろうとは思わない色で塗られていて、見ていると不安な気持ちになってくる。
「相馬君の似顔絵を描いてみたんだ」
「えっ!? これ、俺なの!?」
嬉しさよりもまず驚愕が襲ってきた。
「似てないかな?」
「似てる似てない以前に、目黒には俺がどう見えてるんだ? 俺の顔が赤と青と金色で塗られてるんだけど……」
「うん。相馬君が怒って赤い顔をしてるところと、困って青褪めてるところと、あと金色の部分はキラキラ輝く笑顔を表現してるんだよ」
「そ、そうなんだ?」
困惑する俺の肩を仁部が小突いた。そして耳元で囁く。
「目黒さんの感性は独特なんです。美術の授業でも、通常の枠組みでは評価できないと先生に言われているくらいですから」
「天才ってことか?」
「天才なのか、滅茶苦茶なのかは、僕たちが生きてる間には判明しないかもしれません。芸術とはそういうものですから」
そうか、芸術か。確かに芸術的と言われれば、うん。
俺は芸術が分からないから困惑してしまったが、独特なタッチなだけで下手な絵というわけではない。
それに……目黒が色を識別できていないのだとしたら、この絵のおかしさに気付いていなくても不思議ではない。
……いや、待て。絵具には文字で色の名前が書いてあるから、赤色だと分かって赤色を塗っているはずだ。目黒自身も、怒りを表現して赤色を塗ったと言っていた。他の色に関しても分かって塗っているようだった。
やっぱり目黒は、独特な感性を持つ画伯なだけかもしれない。
色だけではなく、目黒の描いた俺の顔には目が四つある上に、あごから手が生えているし。
「はい、ビンゴ大会のルール説明をしますよ」
目黒の絵から目が逸らせなくなっている俺の前で、仁部が手を叩いた。
「堀田君が僕たちよりも先にビンゴになったら、この二つの景品を進呈します。ビンゴは堀田君が勝つまでやりますからね。心配しないでください。ビンゴカードはたくさん用意してあります」
「ビンゴってそういうゲームだったっけ?」
「仁部君も私も相馬君のために景品を用意したからね。相馬君に貰ってほしいんだ」
それなら普通に渡してくれればいいのではないか、というのは言ってはいけないのだろう。ビンゴも頑張って用意してくれたゲームだ。楽しませてもらおう。
「ビンゴの番号はスマホのアプリで抽選します。最近は何でもアプリがあって便利ですよね」
「私はアナログのビンゴマシーンの方が好きかな。玉がじゃらじゃらする、商店街の福引みたいなやつ」
「あれは味がありますよね。ただ今回は用意できなかったので、アプリでやりましょう。好きなビンゴカードをどうぞ」
「じゃあこれにしようかな」
一枚のビンゴカードを手に取り、カードの真ん中に穴を開ける。
「リーチになったらリーチって言ってくださいね。リーチを宣言せずにビンゴになっても無効ですからね」
「ビンゴってそういうゲームだったっけ?」
「ローカルルールじゃないかな」
なんだかUNOとルールが混ざっている気もするが、まあいっか。




