●47
「堀田君、転校してきてくれてありがとうございます!」
放課後。目黒と俺が視聴覚室に入ると、仁部がクラッカーを鳴らした。
「ようこそ、そしておかえり、相馬君!」
目黒も車いすに乗ったまま、クラッカーを鳴らした。いつの間に用意していたのだろう。全然気付かなかった。
「おおっ、パーティーっぽいな!」
視聴覚室の真ん中には、いくつもの机をくっ付けて作られた大きなテーブルが用意されていて、その上にはジュースと紙皿に乗せられたお菓子が大量に置かれている。
さらに視聴覚室内の至るところに折り紙で作られた輪の飾りが掛けられていて、まるで子どもの誕生日会のようだ。
「これ全部、仁部が飾ったのか?」
「はい。早起きして頑張りましたよ。堀田君の歓迎会をしたいと言ったら、先生が月曜は早朝から視聴覚室を使ってもいいと言ってくれたので。それなら教室で小ぢんまりやるよりも、視聴覚室を飾り立てて盛大にやった方が良いと思ったんです」
「こんなに頑張ってくれるとは思ってなかったよ。ありがとう」
お礼を言われた仁部は、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「その顔が見たかったんです。頑張った甲斐がありましたよ」
「その顔?」
「相馬君、気付いてないの? すっごいニヤケ顔だよ?」
車いすに座りながら振り返って俺の顔を見た目黒が笑った。
「俺、ニヤけてるかな」
「堀田君って分かりやすいですよね。鏡見ます?」
仁部の言葉を聞いた目黒が、自身の鞄から手鏡を取り出した。
手鏡を受け取って覗き込むと、鏡の中にはだらしのない顔をした男がいた。
「さあ、早く真ん中に来てください。この町の紹介にもなるクイズを用意しているので、さっそく遊びましょう」
「そんなものも用意してきたのか」
「目黒さんは分かっても答えないでくださいね。この町に住んでる人なら簡単に分かるクイズですから」
「はーい」
俺が視聴覚室の真ん中の椅子に座ると、仁部は「本日の主役」と書かれたタスキを俺の肩にかけ、さらにパーティーで使われるキラキラしたとんがり帽子を頭に被せてきた。本当に誕生日パーティーみたいだ。
「分かったら手を挙げてくださいね」
「手を挙げてって、解答者は俺だけなんだよな?」
「こういうのは雰囲気が大事ですから」
クイズの司会者を意識しているのだろう赤い蝶ネクタイを着けた仁部が、この町に関するクイズを次から次に出題し、俺がそれに答えていった。
クイズは上手く作られていて、すべての問題を解いた頃には、この町のことがかなり理解できたような気がした。
俺が早く町に馴染めるように仁部が工夫して作ってくれたクイズだったのだろう。
「仁部君、すごいね。私もずっとこの町に住んでるのに、知らない問題があったよ」
「今回のためにこの町のことを調べ尽くしましたから。今なら町長よりもこの町に詳しい自信がありますよ」
「町長とは大きく出たな」
ちなみに俺はこの町の町長が誰なのかを、仁部のクイズで知った。
「この町のことが分かってきたところで、すごろくターイム! すごろくでこの町を巡りながら、ゴールを目指してくださいね!」
そう言いながら仁部がテキパキと自作のすごろくを広げた。
すごろくは町の地図になっていて、要所要所に神社や池、商店街の写真が貼られている。そしてすごろくのマスには、それぞれの場所で起こりそうな出来事が書いてある。
「これも仁部が作ったのか!? すごいな!」
「見て、このマス。『長話をしてくる佐々木さんに捕まったため一回休み』だって。相馬君はもう佐々木さんに会った? とっても話が長いんだよ」
「マスに書いてある文字を読むと、さらにこの町に詳しくなれる仕様です。僕の主観が多めですけどね」
とある写真を見つけた目黒が、ニマニマしながら写真を指差した。
「このマスの横に貼ってある写真は、駄菓子屋のみーちゃん。みーちゃんは看板猫なんだよ。すごく可愛いんだ。野良猫でもないし、雨が降ったらすぐに店の中に入っちゃうけどね」
「そのイジりは禁止。恥ずかしさで息が出来なくなっちゃうから」
「えー? 私は好きなのにニャア」
「なんですか、それ。僕だけ仲間外れにしないで、教えてくださいよ!?」
仁部が興味津々な様子で尋ねてきたが、絶対に教えない。
これ以上、雨に濡れた野良猫発言を知る者を増やしてなるものか!
「これは目黒と俺、二人だけの秘密なんだ。悪いな」
「二人だけの秘密!? えへへ。仁部君、そういうことだからごめんね」
目黒と俺の二人に秘密の暴露を断られた仁部は、渋々雨に濡れた野良猫の件を聞くのを諦めた。助かった!
「あっ、こっちのマスも見て。その隣のマスも……」
そして早くも目黒はすごろくに夢中のようだ。いろんなマスの説明文を読んでは、はしゃいでいる。
「では、さっそく遊んでみましょうか」
仁部のかけ声で、俺たちは仁部の作ったすごろくを始めた。
俺は例の佐々木さんマスに止まってしまい、やっと順番が回ってきたと思ったら『長話をしてくる野々村さんに捕まったため一回休み』のマスに止まり、さらに『長話をしてくる多々良さんに捕まったため一回休み』のマスに止まって、最下位になってしまった。
仁部曰く、俺の通ったあの道には長話三人衆がよく出没するらしい。あの辺りには近づかないようにしよう。
「相馬君、休んでばっかりだったね」
「まさか全部の一回休みマスに止まるとは思いませんでしたよ」
「俺もだよ」
ジュースを飲みながら目黒を見る。目黒は楽しそうにしながらお菓子をつまんでいる。
「そういえば、沢村のストーカー行為はその後どうだ?」
「相馬君のおかげで何ともないよ。今までのことが嘘みたい。校内で偶然、沢村先輩とすれ違ったんだけど、私のことは見もしなかったの」
「本当に目黒に対する“想い”が消えたんだな」
ストーカー問題が解決したのだから喜ぶべきなのだろう。
しかし、どうにも素直に喜べない自分がいる。ストーカー行為を肯定する気はさらさら無いが、沢村から“想い”を奪った罪悪感が心を蝕む。
「サイコロと駒はこの箱の中にお願いします」
「あ、うん」
仁部は遊び終わったすごろくをさっと片付けると、代わりにたくさんのビンゴカードを並べた。
「さあさあ、次はみなさまお待ちかねのビンゴ大会ですよ!」




