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【第一部完結】ちゃちな正義を語るなら、あんたの“想い”で壊してみせろ。  作者: 竹間単


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「ぜんぶ、ぶっ壊そう」


 自室の布団の上で、阿佐美の言葉を繰り返す。

 闘技場のルールに乗っ取って、優勝者として阿佐美を解放する願いを叶えてもらうなら、内心思うところがあったとしても闘技場側は何も言わないだろう。

 しかし理事長を攻撃してしまったら、俺は明確に闘技場の敵となる。

 闘技場という巨大組織の敵……正直なところ、気は進まない。

 阿佐美の話が本当なら、闘技場の主催者である理事長は、人体実験を行なうような倫理観の持ち主だ。そして人体実験すら隠し通すことの出来る金と権力を持っている。

 そんな恐ろしい組織を敵に回して、果たして俺は生きていられるだろうか。

 俺はただの高校生なのに。

 それに、俺だけの問題では済まないだろう。俺の家族も攻撃される可能性がある。母だけではなく祖父母も、住み慣れたこの土地を追い出されるかもしれない。いや、それだけで済めばいいが、命を奪われる可能性も高い。人体実験に利用される可能性だってある。拷問される可能性だって……。

 嫌な想像に鳥肌が立つ。


「ぶっ壊そうって簡単に言うけど、俺には大事なものがあり過ぎる」


 家族だけではない。目黒だって大事だし、まだ出会って数日だけど仁部のことも大事に思い始めている。引っ越す前の高校にも友人がいる。

 彼らを危険に晒すことを、俺はしたくない。


「阿佐美には大事な人がいないのかよ」


 阿佐美の口から母親の話が出てきたことはない。阿佐美の話が本当なら、阿佐美は実験のために生み出されているから、母親は金で雇われただけの人物なのかもしれない。

 その場合、産みの母は阿佐美が産まれた時点で金を貰って去った可能性が高い。たとえ産んだ後に阿佐美を育てていたとしても、金のために産んだ阿佐美に対してそれほど愛情は持たなかったに違いない。

 それに阿佐美は普段、誰とも仲良くしている様子が無い。大抵は一人で行動している。

 姉妹とは険悪ではないようだが、彼女たちは具現者だから、阿佐美が何をしようとも報復として闘技場に殺されることはないだろう。


「……身軽、なんだな」


 阿佐美自身が身軽でいようと心掛けているのか、それとも結果的に身軽になってしまったのかは分からない。

 分かるのは、阿佐美が刺し違える覚悟で理事長と敵対しようとしていることだけだ。


「俺は……簡単には決断できないよ」


 理事長は闘技場を利用して手に入れた“想い”で、自分の都合の良いように誰かを操ろうとしている。

 それは絶対に悪だ。理事長は確実に悪だと言い切れる。

 それなら、悪を正すのが正義だ。

 だけど……自分の大切な人を守ることもまた、正義のはずだ。

 それともこれは、理事長と敵対したくない俺の言い訳だろうか。


「はあ。『己の正義を貫くこと』が俺の“想い”なのに、正義を貫くことにこんなに葛藤するなんて」


 そこまで考えて、はたと気付く。


「だから、阿佐美は……?」


 もしかして阿佐美の提案は、俺が『己の正義を貫くこと』を“想い”にしてしまったことが発端だろうか。

 ルール通りに願いを叶えてもらうことで、『俺の“想い”が消えてしまうこと』を防ぐために、あんな提案をしたのだろうか。

 “想い”を差し出さずに願いを叶える方法として、理事長を倒そうと言っているのだろうか。


「ぜんぶ、俺のせい?」


 もしも『阿佐美を闘技場から解放すること』が俺の“想い”だったら、こんなことにはなっていなかった。願いが叶った後、『阿佐美を闘技場から解放すること』という“想い”が消えても、全く問題は無かったからだ。


「……なんであんな面倒なことを“想い”にしちゃったんだよ、俺」


 後悔しても仕方がないが、後悔してしまう。俺のせいで、事態は確実に悪い方向に進んでいる。


「ああもうっ!」


 脳内をうずまく自己嫌悪を、頭を振って追い払う。一人でぐるぐる考えていても落ち込むばかりだ。楽しいことを考えよう。

 月曜日には目黒と仁部が俺の歓迎パーティーを開いてくれる…………目黒、か。

 目黒が色を識別できなくなっているというのは、本当のことだろうか。

 しかも人間関係のストレスが原因だなんて。俺は少しも気付かなかった。

 目黒はいつも笑顔で、だから俺はバス停ですべてを諦めていた目黒のことを救えたものだと思っていた。

 それなのに、実際は何も解決していなかったなんて。

 今の目黒はいじめられてはいないようだが、腫れ物を扱うように対応されているらしい。そんな人間関係はストレスが溜まって当然だ。


「俺には一言も相談……相談されないと気付けない俺の方が問題だな」


 目黒が過去にいじめられていたことを知っているのに、上っ面だけを見てクラスメイトみんなと目黒が仲良しだと思い込むなんて。間抜けにもほどがある。


「こんな俺に、何が出来るって言うんだろう」


 本質を見抜くことの出来ない俺に、目黒を笑わせることが出来るのだろうか。

 俺は、今の目黒が本心から笑っていないことにすら気付かなかったのに。


「……それでも、目黒の世界に色を取り戻したい。世界が色付いて見えてた頃の目黒に戻してあげたい」


 きっと俺には、目黒を悩ます全ての事柄を解決する力は無い。

 だけど「それでも人生は楽しい」と思わせることなら出来るはずだ。

 たくさんの幸せを目黒に示して、不幸せよりも幸せの比率を上げるんだ。

 それくらいなら、こんな俺にでも出来る!


「まずは月曜の歓迎パーティーを良いものにしよう。目一杯盛り上げて、目黒を楽しませるんだ」


 きっと月曜日は、良い日になる。



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