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「目黒さんのこと、あたしは嫌いじゃないけれど。ただ、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなの。すでにとんでもなく面倒な闘技場に巻き込まれているから。もう手一杯なのよ」
「……俺に、何が出来るのかな。目黒の現状にすら気付けなかった俺に」
「あたしが知るわけないでしょ。自分で考えなさいよ。でも、そうね。目黒さんとこれまで通りに過ごしたら? あんたといるときの目黒さん、他のクラスメイトといるときよりも楽しそうにしているみたいだし」
そのことにも俺は気付かなかった。目黒は誰とでも楽しそうにしていると思っていた。
自分が情けなくて泣けてくる。
「それにしても。やっぱり正義って独善的ね」
「……俺、もう帰る。一人になって考えたいことがあるから」
「待って。もう一つ大事な話があるの。もう一つと言うか、これを話そうと思ってあんたを公園に連れて来たの」
まだ話があるのかと阿佐美を見る。
そういえば目黒の話はもともと俺が見当違いのことを言ったから始まった話で、阿佐美から持ち出した話題ではなかった。
「阿佐美の大事な話って?」
阿佐美はブランコを大きく漕ぎ始めた。錆びたブランコがキーキーと鳴る。
「あたし、覚悟を決めたの」
「覚悟?」
阿佐美はブランコを漕ぎながら、俺のことを見た。
ブランコの動きによって揺れる阿佐美の顔は、覚悟を決めているようにも、悪戯を思い付いた子どものようにも見える。
「あたし、あんたに賭けようと思う」
「それは今までと何も変わらないと思うけど」
「そうじゃないわ」
銀色の阿佐美の髪は、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。
そしてその輝きに負けないほど、阿佐美の目も輝いていた。
「父に反旗を翻すのよ」
「……どういうことだ?」
「あんたが優勝者になっても、父に“想い”の武器を渡さないで」
願いを叶えてもらうためには“想い”の武器を理事長に渡す必要があると言っていたのは、阿佐美だ。それを渡すなとはどういうことだろう。
「父は“想い”の武器を受け取る際にリング上にのぼるから、そのときに“想い”の武器で、父を倒してほしいの」
「理事長を……倒す?」
あまりにも好戦的な提案だ。しかし阿佐美にふざけている様子は無い。本気でこの提案をしているのだろう。
「あたしが解放されても、闘技場のシステムは変わらない。具現者はあたしの他にもいるもの。姉さんや花林だけじゃない。具現者はまだ何人もいるのよ」
もしかしてこの高校の闘技場は、氷山の一角なのだろうか。
もっといろんな場所に闘技場があって、たくさんの優勝者が“想い”の武器を理事長に渡して、理事長はその“想い”の力を使って他人を操作して……。
考えただけで寒気がしてきた。
「父の野望が無くならない限り、具現者は闘技場に縛られ続ける。あたしだけが解放されても、闘技場は何も変わらない。父は“想い”の力で、他人を操り続ける」
阿佐美はブランコの板の上で立ち上がると、さらに勢いを付けて漕ぎ始めた。
「だから」
何度か漕いで勢いが増したところで、阿佐美がブランコから飛んだ。
夕陽に照らされた阿佐美は、華麗なフォームで地面に着地する。
「ぜんぶ、ぶっ壊そう」
阿佐美はくるりと振り返ると、挑戦的な目を俺に向けてきた。
「二人で滅茶苦茶にしよう。闘技場も、父の願いも、何もかも!」




