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【第一部完結】ちゃちな正義を語るなら、あんたの“想い”で壊してみせろ。  作者: 竹間単


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●42


 武道場を出たところで、こちらに近付いてくる人物と目が合った。


「……阿佐美?」


「どうせここにいると思ったわ。このあと、時間はあるかしら」


 阿佐美はムスッとした様子で腕を組んでいる。


「なんでいきなり不機嫌なんだよ」


「話があったのに、あんたがさっさと教室を出て行くから、こんなところまで歩かされたじゃない」


「こんなところって。教室からそんなに離れてないだろ」


「離れているわよ。渡り廊下を歩かないと、教室から武道場には来られないんだから」


 そのくらいは普通に歩いてほしいところだ。全然全くそんな風には見えないが、理事長の娘である阿佐美はお嬢様気質なのだろうか。この前も俺の家から帰る際に車を呼んでいたようだし。


「これから闘技場へ観戦に行こうって誘いか?」


「違うわよ。今日この後の決闘は入っていないわ」


「じゃあ俺に何の用だ?」


「言ったでしょ、あんたに大事な話があるの」


 阿佐美は腕を組んだまま、あごを使って行き先を示した。


「公園へ行くわよ。その前にコンビニで夕飯を買うのにも付き合いなさいよね」


 またコンビニ飯か。

 やっぱり阿佐美は、お嬢様ではないかもしれない。




 夕方の公園で、ブランコに乗りながら買ったばかりのホットスナックを頬張る。


「またそのチキンを買ったの?」


「牛肉の方が好きだけど、鶏肉も好きなんだ」


 それに食べ慣れた全国チェーンのコンビニのホットスナックは、引っ越してきたばかりの土地でも安心感を与えてくれる。

 それにしても。

 俺は全国チェーンのコンビニのホットスナックを食べる、よくいる量産型の高校生だったはずなのに、なんだか遠いところに来てしまった気分だ。前に通っていた高校の友人に今の俺の状況を伝えても、まず信じてはくれないだろう。新しい土地に馴染めなくて、妄想をはかどらせていると言われても反論が出来ない。

 俺は今、それほどまでに奇妙な事態に巻き込まれている。


「あんたが受け取っていないファイトマネー、今渡してもいいかしら。二回分あるんだけれど」


 そう言いながら阿佐美が鞄を漁り始めた。


「ファイトマネーか。そうだ、また受け取り忘れたんだった」


 二回分と言っても、時間としては二回合わせて一時間も戦っていない。お小遣いがもらえる程度に考えておいた方が良さそうだ。


「はい、これよ」


「ありがとう……って、多くないか!?」


 阿佐美に手渡された封筒からは、一万円札が三枚も出てきた。


「高校生のアルバイト代と考えたら多いわね。ファイトマネーが貰えなくなることが理由で、勝者を恨む敗者もいるくらいよ。良い稼ぎ口を奪われたって」


「それはおかしくないか? きちんと戦って勝った相手は何も悪くないだろ」


「誰かを恨むようなやつの思考なんて、そんなものよ」


 俺はもう一度、封筒を眺めた。

 三万円あれば、これから高校で必要になる用品を買ってほしいと母さんに相談しなくても、ある程度は勝手に買うことが出来る。裕福なわけではないから、あまり母さんに金銭的な頼みをしたくなかった俺にとっては、ありがたい金だ。


「まだ最初の二戦だからこんな額だけれど、回数をこなして人気闘技者になったら、もっと貰えるわよ」


「こんな額って、一時間で三万円だぞ!?」


「三万円がこんな額に思えるようなファイトマネーが貰えるということよ」


 あの闘技場は賭博が行なわれているから儲かっているのだろうか。

 それとも理事長が“想い”を手に入れるために私財を投じているのだろうか。

 どちらにしても。


「そんなに気前よく金を渡して平気なのか? 三万円がこんな額に思えるって、相当のファイトマネーを闘技者に渡してるってことだろ」


「ファイトマネーを何百万円出そうとも、“想い”が手に入れば簡単に回収できるのよ。まあ闘技場の観戦料や賭博でも結構な額を回収してはいるんだけれど」


 なんだか悪いことに加担している気分になってきた。

 ……いや、違うか。加担している気分ではなく、実際に加担している。

 阿佐美を解放するという大義名分はあるものの、俺が闘技場に関わっていることは家族には言えない。ファイトマネーはバレないようにこっそり貯金しておこう。


「そうだわ。昨日も今日も、沢村は何もしてこなかったけれど、決闘疲れが抜けたら絶対に仕掛けてくるわよ、あいつ。だから、これからはあんたもボディガードを付けなさい」


「でもボディガードを付けたら、俺たちの会話が筒抜けになるんだろ?」


 具現者である阿佐美を闘技場から解放しようとしていることがバレたら、理事長の怒りに触れるかもしれない。

 俺が優勝者になってリングの上で阿佐美を解放してほしいと発表してしまえば理事長も阿佐美を解放せざるを得ないが、その前にこのことを知られるのはマズい。


「ボディガードを付けるタイミングは細かく選べるわ。会話を聞かれたくないなら、登下校の道でだけ付けることも出来るわよ。夜道が一番人目が無くて襲われやすいから、登下校で付けるのは必須ね。高校の中でも付けたいならそれも可能。休日に付けることも出来るわ。休日は夜に出歩かなければそんなに危険でもないと思うけれど。何も無くて見晴らしが良いからね、この町は」


「夜道に気を付けろ、って捨て台詞があるくらいだもんな。特に夜は気を付けないと。考えておく」


「考えておくんじゃなくて、今決めて。あんたが殺されたらあたしの計画は崩れるんだから。あんたが決めないなら、勝手にボディガードを申請するわよ?」


「待て。殺されるって……冗談だよな?」


 過激な単語に表情を引きつらせながら阿佐美を見ると、わざとらしいほど素敵な笑顔を返してくれた。


「この世の誰も人殺しをしないのなら、牢屋も処刑台も存在しないわ」


 闘技者になることにそんな危険が伴っていたとは。早く教えて欲しかった。


「……ボディガード、付けようかな。登下校の間だけでも」


「了解。あたしが申請しておいてあげる。料金はあたし持ちにするから心配しないで。相棒サービスよ」


 そう言って阿佐美はウインクを飛ばしてきた。



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