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【第一部完結】ちゃちな正義を語るなら、あんたの“想い”で壊してみせろ。  作者: 竹間単


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●41


 授業が終わるなり車いすで教室から出て行こうとする目黒を呼び止めた。


「どうやって家まで帰るんだ。まさか車いすで?」


 目黒の家がどこにあるのかは知らないが、前に高校から結構離れた位置にあると言っていた。車いすで帰るのは大変そうだ。


「ううん。お母さんが車で迎えに来てくれることになってるの。車いすで家まで帰るのはキツイだろうからって」


「そっか。安心したよ」


 昨日も目黒の母親が高校まで車で迎えに来たらしい。しばらく目黒は母親の送迎で登校することになるのだろう。


「でも迎えに来るのがちょっと遅くなるらしいから、時間までは剣道部に行こうと思ってるんだ」


「それは……」


 自分がケガをしている状態で、元気に活動する他の部員たちを見るのは辛いのではないだろうか。

 表情を曇らせた俺に、目黒はにっこりと微笑んでみせた。


「足は動かせないけど腕は動くから、素振りをしようと思ってるんだ。何もしないでいると、足だけじゃなくて腕の筋肉も落ちちゃうから」


「昨日の今日でそんなに頑張らなくても……」


 頑張ったところで県大会には出られないんだから、とはさすがに言わなかった。

 しかし目黒は何かを察したように、目を伏せた。


「頑張ってないと、辛くなっちゃうんだ。だから何かをしてる方がずっと楽なの」


「……そっか。ごめん」


「謝らないで。謝られたら、私が可哀想みたいじゃん」


 俺は何と言っていいのか分からず、車いすに手を置いた。


「武道場まで押すよ」


「いいの? ありがとう。実は登校するとき結構大変だったんだ」


 都心部の高校には車いす用のスロープやエレベーターがあることが多いが、この高校にはそういった設備が無い。校門から一階にある教室まで移動するだけでも、何箇所も段差がある。


「この高校は車いすに優しくないよな」


「車いすの生徒が通ってないから、あんまりバリアフリー化が進んでないんだよ、きっと」


 俺は目黒の車いすを押しながら、武道場を目指した。




 武道場に到着すると、目黒の姿を見た花林ちゃんが走ってきた。


「恵奈先輩、大怪我じゃないですか!」


「教室でも散々言われたんだけど、車いすは病院で押し付けられただけで、見た目ほどの大怪我じゃないんだよ?」


「見た目ほどじゃないって、ギプスもしてるのに!」


 花林ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしている。


「そうだ、花林ちゃん。私、せっかくギプスをしてるから、ギプスに寄せ書きをしてほしいな。早く治ってね、みたいなやつ」


「恵奈先輩への花林の気持ちを書いたら、こんな小さいギプスじゃ収まらないですよ!? A4用紙何十枚まで読んでくれますかっ!?」


「それはちょっと重いかな、愛が」


 目黒は苦笑しながらも、嬉しそうにしている。今のは花林ちゃんなりのジョークなのかもしれない。重い女ジョークみたいな感じの。


「じゃあ九枚! 九枚だったらどうですか!? 一桁ですよっ!?」


「それくらいなら、まあ、読めるかな?」


「余白は最小で文字は肉眼で読めるギリギリのサイズでぎっしり書きますねっ!」


「愛が重い」


 どうやら花林ちゃんは本気のようだ。ジョークではなく本当に重い女らしい。


「俺はもう行くよ」


 目黒が楽しそうにしている様子を見て安心した俺は、帰宅することにした。


「今日は剣道部を見ていかないの?」


「たまには早く帰ろうかと思ってさ。今週、ずっと遅くまで高校にいたからな」


 この一週間、放課後は剣道部と闘技場に入り浸っていて、あまり家族と話せていない。特に爺ちゃんと婆ちゃんは早寝だから、俺が帰宅して少しすると寝室に行ってしまう。だからこの機会に、孫として爺ちゃんと婆ちゃんの肩叩きでもしないと。


「そうだ、目黒。月曜の放課後は暇か? 仁部が俺の歓迎パーティーを開いてくれるらしいんだ」


「歓迎パーティー!? どうしよう。私、何も用意してない!」


「別に何もいらないよ。ただ一緒に騒いでくれればそれだけで嬉しい」


 目黒は、ぱあっと顔を綻ばせて弾んだ声を出した。


「どこでやるの!?」


「期待してるところ悪いけど、そんなすごいパーティーじゃないよ。お菓子を食べてビンゴをするだけだ。放課後の教室でやるちょっとした会。参加者は仁部と俺、それに目黒の三人だけだし」


「パーティーの規模なんて関係無いよ。こういうのは祝う気持ちが大事なんだから。じゃあ私も土日で何か用意しておくね。ビンゴの景品になりそうなもの!」


 目黒が楽しそうにしていることは嬉しいが、何を用意するつもりなのだろう。車いすの状態で買い物に行かせるのは気が引ける。


「相馬君。今、変な気を遣ったでしょ」


「えっ、いや、俺はただ……」


 目黒はエスパーなのだろうか。それとも俺は顔に感情が出やすいタイプなのだろうか。

 ……きっと後者だろう。これまでにもよく心の内を言い当てられている。


「景品の内容は秘密にしておこうかと思ったけど、月曜には分かることだから先に言っちゃおうかな。私、絵を描くのが好きなんだ。だから描いた絵を景品にしようと思ってるの」


「剣道が出来て、料理も作れて、絵まで描けるのか!?」


 こんなに出来ることが幅広いなんて、目黒は器用なタイプなのかもしれない。ちなみに俺は、剣道は出来るが料理も絵もからっきしだ。


「東京と違って、この町には遊ぶ場所が少ないからね。料理とか絵とかゲームとか、家で出来ることをして時間を潰す人が多いんだ」


「いいなあ。花林も恵奈先輩の絵を部屋に飾りたいです。誕生日に恵奈先輩の絵をおねだりしてもいいですか?」


 俺たちの会話を横で聞いていた花林ちゃんが、あざと可愛く両手の人差し指をくっ付けながら目黒におねだりをした。

 これは自分が可愛いことを分かっている人の仕草だ。そして効果は抜群だ。

 目黒は花林ちゃんに屈むように合図をすると、花林ちゃんの頭をこれでもかと撫で始めた。


「もちろんいいよ。大きな絵をプレゼントするね」


「わあ、ありがとうございますっ! 恵奈先輩の絵に今後高値が付いても、花林は絶対絶対売りません。花林だけのものにするんですっ」


 目黒はそんなに絵が上手いのだろうか。

 それともこれも、花林ちゃんの重い女発言なのだろうか。


「目黒の絵、早く見てみたいな。歓迎会がさらに楽しみになったよ」


「期待しててね。じゃあまた月曜に」


 俺は目黒や花林ちゃん、すっかり顔馴染みになった剣道部の面々に手を振りつつ武道場を出た。



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