●40
「僕は声を大にして言いたい。メガネはアクセサリーであって、人格形成には影響しないと!」
仁部が突然、椅子に片足を乗せて持論を述べ始めた。
「メガネキャラが全員真面目だと思ったら大間違いなんですよ。そもそもスマホやパソコンが普及した現代、視力の悪い人間がどれだけいると思ってるんですか! その人たち全員が真面目だとでも!?」
「一体何が始まったんだ」
「仁部君、メガネに関しては一家言あるらしいよ」
だからと言ってこんなところで急に演説をしなくても。
しかしよく見る光景なのか、教室内に狼狽えている生徒はいない。
「メガネを掛けた不真面目な人がいると『メガネなのに不真面目だね』って言うアレ。あれもおかしいんですよ。どうしてメガネキャラが真面目なことを共通認識の前提で話すんですか! 『みなさんメガネキャラが真面目なことはご存知ですよね』じゃないんですよ! それは偏見なんです!」
「仁部は誰に向かって演説をしてるんだ?」
「メガネキャラは真面目派の人たちに向けてかな」
よく分からないが、今後仁部の前では軽率にメガネの話をするのはやめておこう。
…………俺、メガネの話はしてなくないか?
「仁部君、一旦落ち着いて。血圧が上がっちゃうよ」
目黒も目黒で、高校生相手にそのなだめ方はどうなんだ。
「ハッ!? すみません。熱くなっちゃいました。何の話でしたっけ?」
「仁部君は考え過ぎないよねって話だよ」
仁部のインパクトで俺の頭からはもともとの話がどこかへ行ってしまっていたが、目黒はしっかりと覚えていたらしい。軌道修正、とても助かる。
「そうでしたね。ええ。考え過ぎることは、精神をすり減らすだけで何の役にも立ちません。テストだって分からない問題でいつまでも悩むより、さっさと次の問題に進んだ方が総合点は上がります」
メガネの演説が挟まったことでせっかくの主張が台無しになった気はするが、仁部の言う通りかもしれない。考えることは大事だが、考え過ぎることは、良い結果を生まないことが多い。
しかし同時に、そんな風に割り切れる人間は少ない気もする。
「人生だって、きっとそうです。考え過ぎないことが上手く生きるコツだと、賢い僕は考えたわけです」
「考え過ぎないことが上手く生きるコツ……考えたことがなかったかも」
得意そうに述べる仁部と、難しい顔をする目黒、そしてきっと目黒と同じ顔をしているだろう俺は、授業開始のチャイムによって、それぞれの席へと移動した。
授業中、前の席の生徒が手を伸ばしてきたと思ったら、こっそり小さな紙を渡された。
紙には『堀田君へ』と書かれている。紙を開くと几帳面さを感じる綺麗な字が並んでいた。
『仁部です。目黒さん、無理して笑ってますよね。ケガで剣道の大会に出られないそうなので当然かもしれませんが……僕たちで元気づけることは出来ないでしょうか? 目黒さんが車いすなので、出来ることは限られるとは思いますが』
俺も仁部に習ってノートを破り、仁部宛の手紙を書く。
『楽しいことをしたら少しは気が紛れるかもしれない。場所を放課後の教室にすれば、車いすでも問題ないはずだ。放課後の教室は誰もいなくなるから、割と何でも出来ると思う。だけど車いすのままでも楽しめることって何だろうな』
折り畳んで一番上に『仁部へ』と書いた手紙を前の席の生徒に渡し、仁部に回してもらう。すぐにまた仁部から新たな手紙が回ってきた。
『それなら堀田君の歓迎パーティーをしましょうよ。お菓子を食べたりビンゴ大会をする程度なら、座ったままでも出来ますから。堀田君、さっそく今日の放課後、一緒に歓迎パーティーの準備をしましょう!』
そういえば引っ越してきてから俺の歓迎会のようなものは行われていない。別にしなくても構わないが、パーティーを開く良い口実になりそうだ。
『俺の歓迎パーティーを俺に準備させようとするなよ。まあいいけど。準備は何をすればいいんだ?』
手紙を前の席の生徒に渡すと、前の席の生徒はさすがに迷惑そうな顔をしていた。俺から仁部に手紙を渡すのはこれで最後にしよう。
『うっかりしてました。堀田君は祝われる側でしたね。じゃあ準備は僕が土日で行なうので、堀田君は月曜の予定を空けておいてください。善は急げで、パーティーは月曜の放課後に行ないましょう。それと、目黒さんをパーティーに誘っておいてくださいね』
俺は仁部の手紙を読んでから、次の手紙はまだかと後ろを向いた仁部に向かって頷いた。これだけで俺の返事は分かるだろう。
俺の歓迎パーティーという名の目黒を元気づける会。上手くいくといいな。




