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「目黒さんが欠席で残念ですね。せいぜい愛の込もっていないパンを味わってくださいね」
「パンだって工場の人の愛が込もってるよ、きっと」
購買から戻ってくると、仁部が当然のように俺の机の正面に座って弁当を広げていた。もちろん嫌ではないので、俺も自分の椅子に座って買ってきたパンを並べる。
「やっと金曜ですよ。一週間、この高校に通ってみてどうでしたか?」
「目まぐるしかったな、うん」
まだこの高校に通い始めて五日しか経っていないことが信じられない。
土日は家でゆっくり休もう。早くも息切れ気味だから、十分な休息をとらないと来週がしんどい。翌週の体力の心配をしたのなんて、いつ以来だろう。何よりも闘技場での決闘がヘビーだ。授業後に夜までアルバイトをしていようと、徹夜でゲームをしていようと、ケロリとしている俺がこの状態なのだから相当だ。
「放課後にどこかへ行ってみましたか?」
「今週はほとんど家と高校の往復しかしなかったな。その他で行ったのはコンビニと公園くらいだ。今度この町の案内をしてくれよ」
「いいですよ。と言っても、この町に大したものはありませんけど」
色とりどりのおかずの入った弁当を食べる仁部の正面で、購買で買ってきたパンをかじる。
パンはパンで好きだが、目黒の手作り弁当と比べると味気ない。工場の人には、もっともっと愛を込めてパンを作って欲しい。
「なあ、仁部」
「おかずはあげませんよ。このお弁当は完璧な栄養バランスを意識して作られているので、おかずの数が減ると困るんです」
「まだ何も言ってないだろ」
俺は別に仁部のおかずを奪おうと思ったわけではない。とはいえ、おかずの一つくらいくれても良いような気がする。友だち甲斐の無いやつだ。
俺がじとっとした目で仁部を見ると、表情から俺の言いたいことに気付いたのだろう仁部が、じとっとした視線を返してきた。
「なんだよ?」
「僕だって目黒さんの手作り弁当を食べてみたかったのに我慢したんですよ? 昨日も一昨日も、堀田君からおかずを一つもらえるかもと期待してたのに、堀田君は一つもくれなかったんですからね。その報いです。どのおかずと交換しようかそわそわしてたのに」
「そわそわしてたんだ……言われないと分からないって」
昼食時にそんなことを期待されていたなんて、全く気が付かなかった。
というか完璧な栄養バランスはいいのかよ。おかずを交換したらバランスが崩れるだろうに。
「……って、あれ。仁部は目黒のことが好きなのか?」
目黒の手作り弁当が食べたいということは、そういうことなのではないだろうか。
しかし仁部は表情を崩さずに首を振った。
「いえ、別に。でもミスコン出場者の手作り弁当は食べてみたいじゃないですか。知見を広げる意味で」
「知見を広げる意味で」
そんなことで知見は広がるだろうか。目黒が持ってきたのは普通の茶色い弁当だったのに。確かに味は最高だったが!
「……って、弁当の話はどうでもいいんだよ」
俺が仁部に話したかったのは、弁当とは全く別のことだ。
「仁部はさ……相手の“想い”を消すことは、してもいいことだと思うか?」
仁部は口に入れたおかずをよく噛んでから、俺に聞き返した。
「堀田君は昨日、沢村先輩と決闘をしたんですよね。何があったんですか?」
何があったというか、何も無かったというか。何も無いことが問題というか。
「決闘が終わった後で沢村に目黒がケガをしたことを伝えたら、俺には関係ねえ話だ、って言われたんだ」
「へえ。これまでの沢村先輩なら、チャンスとばかりに目黒さんに近づいたはずですよね」
「やっぱりそう思うよな。でも沢村は、本気で目黒に興味が無い様子だった」
今日だって俺たちの教室に沢村は現れなかった。目黒がケガをした翌日だから、教室に目黒の様子を見に来ても不思議ではないのに。




