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【第一部完結】ちゃちな正義を語るなら、あんたの“想い”で壊してみせろ。  作者: 竹間単


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●31


「はあ? あたしを騙したってこと!?」


 阿佐美の眉間にしわが寄った。

 しかしそういう意味ではなく、むしろもっとまずい状況なのだ。


「俺の“想い”は、阿佐美を救うという『己の正義を貫くこと』かもしれないんだ。その場合、俺は願いを叶えてもらう代わりに、その後は己の正義を貫こうとは思えなくなるのかもしれない」


 俺の言葉を聞いた阿佐美は、眉間のしわを消す代わりに、自身の額に手を当てて天を仰いだ。


「どうしてそんな面倒な“想い”を……」


 どうしてと言われても、そういう“想い”を抱いてしまった。そうとしか言えない。


「抱く“想い”は自在にコントロール出来ないだろ。たとえ自分のものだとしても」


 感情を完璧にコントロール出来る仙人のような人なら可能なのかもしれないが、ただの高校生である俺には無理な話だ。制御しようとしても勝手に感情が湧き上がってくる。

 今回はそれが『己の正義を貫くこと』という“想い”だったのだ。


「ああ、本当に。まったく面倒な“想い”を抱いてくれたものね!」


「仕方ないだろ。こういう“想い”を抱くのが、俺なんだから」


 正義のヒーローになろうとする男が、俺だ。これが俺のアイデンティティなのだ。


「……はあ。ちょっと考えさせて」


 阿佐美は頭痛がするのか頭をさすりつつ溜息を吐いた。


「じゃあ俺はどうすればいいんだ?」


「普通に戦えばいいわ。あんたの武器にはまだ優勝者になるほどの“想い”は乗っていないから、願いを叶えてもらうのはまだ先の話よ。もちろん決闘で負けるのは“想い”が消えるからご法度だけれど」


 優勝者になってはいけないが、決闘で負けてもいけない。それが、今の俺が置かれている状況だ。

 それにしても、武器がどのくらいの大きさになれば優勝者になれるのだろう。いや、単に大きさだけの問題ではないかもしれない。武器の形状は闘技者によってそれぞれ違うのだ。“想い”が乗ることで軽量化される武器もあるかもしれない。

 具現者である阿佐美や闘技場のスタッフは、“想い”の武器の見た目以外に、優勝者を判断する基準を持っているのだろうか。


「あのさ。まだどうなったら優勝者と判断されるのかの明確な基準を聞いてないんだけど、そこのところはどうなんだ?」


 これに阿佐美は平然と答える。


「“想い”が最大限に武器に乗ると、武器を作る煙が金色になるのよ」


「それはまた、ずいぶんと分かりやすい基準だな」


 それなら俺でも見分けることが出来る。

 気になるのは、色がだんだんと金色に近付くのか、それとも“想い”が最大限に乗った時点でいきなり金色に変わるのか、だ。

 少なくとも、仁部の煙は対戦相手に勝つ前と後で色が変わった様子は無かった。武器である参考書が分厚くなって使える魔法は増えていたようだが。


「……って。話の腰を折っちゃったな。阿佐美は人間が嫌いで、闘技場は人間の欲望で出来た場所だって話だったな」


「ええ。ずいぶんと話が逸れたみたいね」


 阿佐美は一つ咳払いをすると、話の続きを口にした。


「本末転倒な叶え方ではあるけれど、願い自体は叶えるからマシよ。それよりも醜悪なのは」


「醜悪なのは?」


「……父が、優勝者から受け取った“想い”の力を使って何をすると思う?」


 阿佐美はすぐには答えを言わず、俺に回答を促してきた。

 何をするって……何をするのだろう。

 強い武器で誰かと戦うつもりだろうか。それともコレクション目的か。

 世の中には、死刑囚の描いた絵を集めるコレクターや、人体のパーツを集めるコレクターがいると聞く。他人の“想い”を集めるコレクターがいたとしても不思議ではない。

 理事長自らが武器を使って戦うよりは、こちらの方があり得そうだ。


「コレクション目的か?」


「いいえ。“想い”を使って、相手を意のままに操るのよ」


 阿佐美の言葉は、二つの予想のどちらとも違った。


「そんなことが可能なのか?」


「“想い”にはそれだけの力がある。一人分では無理でも、数十人分をまとめれば、可能になる」


「じゃああの闘技場は、理事長が他人を操る力を得るための場ってことか!?」


 どんな賭博でも胴元が一番得をすると言うが、本当にその通りだ。

 理事長は自分では戦うことをせずに、美味しいところだけを持っていくらしい。

 しかし、優勝者になれば願いを叶えてもらえる上に、ファイトマネーをもらっている闘技者からは不満の声が出にくい。むしろ不満が出ないようにするために、闘技者の待遇を良くしているのかもしれない。


「他人を意のままに操ろうなんて。本当、人間の欲望って醜いわよね」


 阿佐美が呆れたように呟いた。

 すべての人間の欲望が醜いとは言い切れないが、理事長の欲望が醜いという点では同意だ。他人の心を捻じ曲げて操ろうなんて、あまりにも傲慢だ。


「あんた、今日も剣道部へ行くつもり?」


「ああ。俺、剣道部に入ろうと思ってるから」


 阿佐美は俺のことを横目で見てから鼻で笑ってみせた。


「ハッ! そんな余裕があると思っているの? 部活を終えた、くたくたの状態で闘技場に来られても困るのよ。決闘は万全の状態で行なってよね」


「決闘では、単純な物理じゃなくて“想い”の力で戦うんだろ?」


「武器は“想い”から作成したものだけれど、使うのはあんたの身体よ。疲れていたら素早い動きは出来ないわ。そのことは前回の決闘で理解したと思っていたのだけれど?」


「……それはそうか」


 剣道部に入るにしても、決闘のある日は活動に参加できない。入部しても頻繁に休むことになりそうだ。そんな状態でも入部できるか確認をしておかないと。部活内の雰囲気は良さそうだったから、入部が可能なら嬉しいのだが。

 人間の醜さについて考えたくなくなった俺は、剣道部の面々を思い出すことで、嫌な考えを頭から追い出した。



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