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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第78話 北ノ庄ー勝家の最後

天正11年(1583年)4月 越前・北ノ庄城 

「権六……たとえ仮初の夫婦であったとしても、私は、夫となったあなたと共に参るつもりでした。それが、妻として何もして差し上げられなかったあなたへの、せめてもの償いとも考えていました」

お市の方は、傷だらけの姿になった勝家の傍らで、静かに、しかし毅然と言葉を紡いだ。


「ですが、子供たちの行く末を、柴田の名の元で見守ることができるなら、私が残ることで柴田の名を繋ぐことになるなら……それは織田を守ろうと奮闘してくださったあなた様へのお返しになりましょう」


勝家の無骨な顔が、震えた。

頬を伝う汗と煤を拭うことも忘れ、妻を見つめた。


「……お市様……あぁ! よくぞ、よくぞ決心くださった。それでよい。織田の華を、ここで枯らしてはならん。わしの命など、貴女と姫君たちが明日を生きるための(まき)になれば本望よ」


勝家は、節くれだった大きな手で、お市の方の細い手をそっと握り締めた。


「ほんの短い間だったが、あなた様と夫婦になれたこと、この権六の生涯最大の幸せであった。……お市様、どうか、わしの武功と生き様を姫君たちに語っていただきたい。鬼柴田は、最期まで織田への忠義を貫き通したとな」


勝家が声を絞り出すと、お市の方は堪えきれず大粒の涙を流し、その広い胸にしなだれかかった。

最後に心を通わせた夫婦は、互いの体温を確かめ合うように寄り添い続けた。


やがて、勝家はそっとお市の方を引き離すと、山路正国と使者に向かって、カッと眼を見開いた。



「山路正国!」

「はっ!!」


「勝豊に、柴田の行く末、妻と姫君を任せる。『柴田の名にかけてお守りせよ』と伝えよ。……それと、もう一つだ。『わしの思いはわしが冥土へ持ってゆく。お主は、お主自身の望むまま、自由にこの世を生きよ』ともな」


「はっ!確とお伝えいたします」

正国は、かつての主君の度量の深さに喉を詰まらせ、ただ一度、深く畳に額を擦り付けた。



 4月24日


柴田勝家の居城・北ノ庄城は、いまや羽柴軍数万の圧倒的な兵力によって囲まれようとしていた。


総攻撃の法螺貝が鳴り響こうとしたその時、天守から一筋の黒煙が立ち昇った。


それに呼応するように、重々しい軋みを立てて城門が開いた。

煙の中から現れたのは、十数人の家臣達に守られた、女性と子供の一団であった。


お市の方、そして茶々、初、江の三姉妹である。

姉妹の顔には、愛する母が寄り添ってくれている安心感と、最期まで誇り高くあろうとした義父との別れの悲しみがあった。

そして、彼女たちは、戦場には不似合いな、鮮やかな色の半纏(はんてん)を羽織っていた。

茶々が羽織っているのは、薄い青糸を通された淡海の湖面を思わせる色だった。


お市の方が一歩、また一歩とゆっくりと橋を渡り、ちょうど真ん中まで来たとき、はたと立ち止まって振り返った。そこには、城を包み込もうとしている大きな炎が見えた。



柴田修理亮勝家、享年六十。

信長の覇業を支えた「かかれ柴田」は、戦国の武者としての意地を貫き、壮絶な最期を遂げた。



 羽柴秀吉・本陣


「お市の方と姫君たちが、城を出てまいりました!」

伝令の叫びに、本陣の秀吉は跳ねるように立ち上がった。

その顔には、勝利の喜び以上に、安堵の色が混じっている。


「よくやった! 又左! 山路! 大金星よ! 姫様方を一刻も早く、ここへお連れせよ!」


ほどなくして、秀吉と秀長の前にお市の一行が到着した。

泥と(すす)に汚れながらも、気品を失わぬお市の姿に、秀吉は一瞬言葉を失った。

そして、一歩近づくと、満面の笑みを浮かべて言った。

「お市様、よう戻られました。これからは、この羽柴筑前守秀吉、命に代えて貴女様と姫君方を守り抜く所存にございます」


続けて、秀吉の横に立っている秀長が、

「修理亮殿……見事な最期にございました。戦国の漢としての意地、しかと見届けいたしました」

「お市の方、姫君にはお辛いことと思います。残った方々には決して無残な仕打ちは致しませぬ。ご安心ください」

そう言うと、兜を脱いで静かに頭を垂れた。


お市の方は、自分の前でにこやかに笑う秀吉に向かって、感情のない声で言った。

「戦国の習い、仕方がないことじゃ。兄上も同じように殺し、そして同じように散っていった」

「藤吉郎、そちも気をつけるのじゃな...」

「...一つだけ礼を言う。修理亮様の息子(義理)、勝豊殿を手厚く保護してくれたこと。それがなければ少なくとも妾はここにいなかった」


次に、秀長の方に顔を向けた。

「そちが小一郎か」

「奥方が磯野員昌殿の娘と聞いた。嫡男も北近江の者に慕われておるそうじゃな。二度の心遣い、感謝している。秀成と言ったか、嫡男にも確と伝えてほしい」


「はっ」

秀長は短く返事をして頭を下げた。


秀長は、お市の方と姫君達が、秀成が手配させた半纏を身に纏っていることに気づいた。


そして、越前にいたお市の方が、元服したばかりの秀吉の甥にすぎない秀成の名を知っているということ。

それは、息子の存在を意識しているということだと思った。

むしろ口調から、好意、いや期待を持っている可能性もある。


それが何を意味するのか今すぐにはわからないが、息子がより深く政に関わることになる未来に、身が引き締まった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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― 新着の感想 ―
お市様も、史実では茶々が秀吉の側室に、江が徳川秀忠の正室になっているのですから、生きていれば「実質的に天下を取った女」「兄の遺志を娘に継がせた女」「裏から天下を動かした女」とか呼ばれてもおかしくないん…
お市の方が下ってくれた事で、次の戦いで「織田の正当性」が強まりそうですね。そして、三姉妹はどんな子なのか。
これで勝豊が史実の様に早逝せず、羽柴家中柴田勢取り纏め役として重きを成せれば三姉妹の立場はずぅっと強くなるでしょうね
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