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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第74話 賤ヶ岳の戦い5ー埋伏の毒

天正11年(1583年)4月中旬 近江・木之本

天正11年4月17日


岐阜の織田信孝が再び挙兵し、秀吉は長浜に詰めてた本隊一万五千の兵を率いて美濃へと向かった。


秀長の本陣に早馬が到着したとき、黒田官兵衛、磯野員昌、私、そして近習の3名(片桐且元(かたぎり かつもと)、黒田長政、竹中重門(しげかど))が評議をしていた。


「信孝殿が挙兵したか...我らがけしかけたとは言え、悲しいことよ」

父がポツリと呟いた。


「そうですな、戦国の習い、人質として預かっている奥方と嫡子はそのままというわけにはいきますまい」

官兵衛が悲しそうな声で言った。


(いやいや、そういう絵を描いたのはあなただろう)

私は心の内でそう突っ込んだが、すぐに違う考えが頭をよぎった。


(立案した策から引き起こされることに不感症になるのはよくない)

(きちんと悲しめるというは、人の心を持っているということか)


「左様ですね。立つべき時に立たぬのは武士の矜持に関わります。信孝殿にとって家族よりも大事な大義の時が今ということだったのでしょう...ご家族も覚悟はできておりましょう」

私は、官兵衛と同じように悲しい表情で答えた。


父が引き締まった声で語る。

「すぐに柴田陣営にも同じ報せが届くであろう。動くぞ」

「源一郎、覚悟はできているか」

父の横顔は、鬼気迫るものがあった。


「はい!奇しくも山路殿が出奔した直後です。柴田側はこれ幸いと我が方の弱点を突いてくるしょう」

私がそう言うと、官兵衛の目が鋭くなった。

「若君の奇策、あたりましたな。これからの柴田修理亮殿の動き、手に取るように分かり申す」


私と官兵衛のやりとりが理解できない3人(片桐、黒田、竹中)がきょとんとしている。

それを見た父は、簡単に説明する。

「先日の山路殿の裏切りは、こちらの策ということよ」


「「「 !!! 」」」

三人は声にならない驚きの声をあげ、目を見開いた。

美濃守(秀長)様と秀成様の大恩を受けながら、ここぞという時に裏切るとは武士の風上にもおけぬ!と悪態をついていたので尚更だ。

それを思い出したのか、三人は顔を赤くして俯いてしまった。


私が続けて言う。

「すまんな。敵を欺くにはまずは味方からと言う。いままで黙っていてすまなかった」

「山路殿は密命を帯び、命をかけて裏切ったふりをしてくれているのです」


片桐且元が小さな声で答えた。

「いえ。源一郎様の言うとおり。味方を騙してこそ敵を欺けるというもの。謝罪は不要でございます」

「して、密命とはどのような?」


「こちら側の陣地、砦の弱点、連絡網、配置されている将、兵の数など軍事情報を敵に渡すことだ」

私がしれっと言うと、また三人は目を見開き固まってしまった。


竹中重門がおずおずという感じで質問してきた。

「それはいわゆる埋伏の毒というものでしょうか」


それに対して官兵衛が、ウキウキした声で説明する。

「そのとおり。情報を敵に渡し、弱点を攻めるよう誘導する。まさに身体の中に入った毒よ」


続けて黒田長政が質問する。

「父上、毒の中身を教えていただいてもよろしいでしょうか?」


「余呉湖の南側の賤ヶ岳砦と大岩山砦は後方ゆえ整備が甘い。余呉湖の東回りを警戒しており、西回りからの攻撃には油断している。こんな内容だな」

官兵衛が策の内容を明かすと、もう驚くことに疲れたのか三人は小さく頷き、総大将である父の方を見た。


父が最後を占めるように語る。

「そういうわけだ。得た情報を活かすには、我々が陣替えなどを行う前に、攻め込んでくるのが常道」

「そして、大垣城に詰めている本隊は、戦端が開かれれば即座に引き返す準備ができておる」

「動くぞ。各砦へ使いを出す」



織田家を誰が差配するか、雌雄を決する「賤ヶ岳の戦い」本戦の幕が開かれようとしていた。

そして、それは誰が天下を差配するかを決める天下分け目の大戦でもあった。



天正11年4月19日、深夜。 田上山砦・秀長本陣 羽柴秀成


北近江を包む闇は、不気味なほどに重かった。

私は、父の傍らで地図を凝視していた。

秀吉が岐阜の信孝様を討つべく一万五千の兵を率いて大垣へ向かってから、すでに三日が経過している。


「動かんな。ここまでしても動かんとは、柴田修理亮、慎重も度を越すと単なる臆病に成り果てるぞ」

父がぼそっと呟いた。


「策を巡らしているのは事実ですから、戦の嗅覚が鋭いとも見えますが」

私がそのように評価すると、父は地図に目を落としたまま「まぁそうだな」と言った。


そんなやりとりをしているとき、北方の山から叫び声が聞こえてきた。

「始まったか!!」

父が大声で叫び陣幕の外に飛び出した。

私も父に続いて外に出ると、北の空、余呉湖を見下ろす大岩山の山頂から、一筋の火の手が上がった。


私は、記憶にある「あの時」が来たことを悟った。

山路正国の内通により防備の薄さを知った佐久間盛政が、一万の精鋭を率いて動き出したのだ。


「報告! 佐久間盛政、行市山より南下! 余呉湖の西を迂回し大岩山砦を急襲!」

伝令の叫びが、陣中の静寂を粉々に砕いた。


父はすぐさま使者に命じる。

「大岩崎山の高山殿、賤ヶ岳の桑山殿に即座に報せを。これは小競り合いではない、柴田の総力戦だ!」

「すぐに長浜へ使者を!兄者に知らせるのだ」


大岩山砦を守るのは、摂津衆を率いる中川清秀。

山崎の戦いでも先鋒を務め、歴戦の頼れる武将である。

しかし、敵は数倍の兵力。

しかも、待ちに待った突撃の時、「鬼玄蕃」こと盛政の軍勢は、まさに飢えた狼の群れと化していると想像できる。


「……清秀殿、踏ん張ってくだされ」

父は、火の手があがる大岩山を見つめ、そう呟いた。



柴田側が狙うのは大岩山か賤ヶ岳。

山路殿に持たせた情報からそこが弱点だと気づくはずだ。

そして、我々は急襲に備えて防備を強化した。

史実では、各砦に詰めていた兵は千人を超える程度だが、大岩山、岩崎山は二千人へ、賤ヶ岳砦は三千人まで増員してある。


大岩山砦に追加した一千を率いるのは、祖父・磯野員昌。

信長をも震え上がらせた「姉川の勇将」であれば、中川清秀を救えるはずだ。



 20日未明(19日の夜から3時間後、日が変わって20日) 


大岩山砦では、中川清秀が血煙の中で叫んでいた。

「これは天下分け目の決戦ぞ! この砦を落とされることは絶対にならん!」

「者の共、一人でも多く道連れにせよ!」


その時、清秀の背後からしわがれた低い声が聞こえた。

「獅子奮迅とはまさに貴殿の働きのこと、お見事」

「されど、そろそろ潮時。引き際を誤るのは名将とは言えませんぞ」


磯野が率いるほぼ無傷の一千が、中川の周囲に集まってきていた佐久間の兵を瞬く間に蹴散らした。

佐久間側に大岩山が油断しているように見せるため、増員した兵をぎりぎりまで隠していた。

その兵が一斉に動き出した。


「磯野殿、助太刀感謝いたす。しかし、もうそんな時分か。もっと槍を振るいたかったが...致し方がない」


本来であれば、この砦を文字通り死守するつもりであった中川清秀だが、ここを落とさせることが作戦の一つだと知れば、流石に死ぬのは犬死にだ。

しかし、秀吉本隊が大垣から駆けつけるまでの時間稼ぎのため、ぎりぎりまで奮闘する必要はあった。


「では、敵を突破しますぞ」

「目指すは、木之本。美濃守秀長殿の陣!」

磯野がそう言って声を上げるや否や、浅井家最強として北近江の地を知り尽くした磯野の兵は、一気に山を賭け下り、まさに「雷鳴」の如く引き上げていった。



 20日未明 羽柴源一郎秀成


北近江の空が白んできた頃、田上山にあった秀長本隊は、山を下り木之本の北国街道に布陣した。

ここであれば、賤ヶ岳や大岩山、さらに北国街道の先、堀秀政が守る最前線の砦・東野山へも兵を送りやすい。


ここから見える大岩山の山頂は、うっすらと炎に包まれていた。

断続的に響く鉄砲の音、そして風に乗って届く怒号。


やがて、その音が途絶えた。

最初に音を聞いてから、4時間以上が経っていた。


「大岩山が落ちたか...だいぶ粘ってくれたようだが...中川殿、磯野殿は無事だろうか」

父がそう独りごちた。


私は黙って大岩山を見つめていた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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― 新着の感想 ―
柴田本隊を賤ヶ岳で仕留める為に深入りさせるのかな?
前世の価値観を抱きつつも、この時代の当たり前の『ドライ』さも、しっかり兼ね備えていて、それでいて『人の心』を忘れていない秀成──きちんと活きた人間として感じられた今回の冒頭。 中川清秀殿が生還(?)…
史実だとこの時、人質である実母、つまり主君信長の妻を秀吉は磔にしたとか。知った時はドン引きです。え、それやっていいんだ?
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