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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第70話 賤ヶ岳の戦い1―北ノ庄の巨頭、現る

天平11年(1583年)3月 北近江・長浜城 羽柴秀成

天正11年3月12日


近江の北端の空を覆っていた重い雲が割れ、そこから覗いた陽光は僅かに暖かく感じるようになってきた。


私は父と共に、田上山(たなかみやま)に築かれた陣屋の物見櫓に立っていた。


「……来たか」

隣に立つ父・秀長が、低く、押し殺したような声で呟いた。

その視線は鋭く、いつもの温和な父の面影はそこにはない。

父の肩に掛かる陣羽織が風に煽られ、バタバタと乾いた音を立てる。


北の峠から這い出してくる軍勢の先頭には、「二つ雁金(ふたつかりがね)」の旗印が翻っている。


柴田修理亮(しゅりのすけ)勝家。


織田家最強として畏怖されてきた男が、ついにその重い腰を上げた。

その数、およそ三万。


北伊勢で蜂起した滝川一益に対し、秀吉が数万を超える軍勢で徐々に押していく状況を見て、腰を上げざるを得なかったというのが正解かもしれない。


二月末、まだ雪深い北陸から雪をかき分けて、北近江へ進軍してきた。


北ノ庄を出陣した柴田勢は、北近江の最北端・柳ヶ瀬(やながせ)に到着するや否や、山々への布陣を完了させた。

勝家本隊は内中尾山(うちなかおやま)玄蕃尾(げんばお)城)を要塞化し、その前の行市山(ぎょういちやま)砦には甥の佐久間盛政が、その少し前方の別所山(べっしょやま)砦には前田利家が陣を張った。


彼らが発する殺気が、数里離れたこの田上山にまで届くようだった。


布陣図

※記号で表現するのに限界があり、正確ではない箇所もありますので、参考程度にご確認ください。


      【北:越前・近江国境】

           ↑

   ▲▲▲▲▲▲    : ▲▲▲▲▲▲

  ▲◎玄蕃尾城(勝家):北国街道 ▲▲▲

  ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲  :   ▲▲▲▲

  ▲▲▲▲▲▲▲▲   :   ▲▲▲▲

  ▲◎行市山砦▲▲▲▲ :   ▲▲▲▲▲▲

  ▲▲▲◎別所山砦▲▲  :  ●東野山砦(堀秀政)

  ▲▲▲▲▲▲▲▲▲    /(防衛柵)

  ▲▲▲▲▲▲   ●堂木山砦(山路正国)  

       ●神明山砦   :

     / ̄ ̄ ̄ ̄\     :

    /        \     : ▲▲▲▲

   |  余呉湖   | ●岩崎山砦 ▲▲▲▲

    \       / (高山右近):▲▲▲▲

    \_ ___/●大岩山砦 :▲▲▲▲▲▲

     ●   (中川清秀 ) : ▲▲▲▲▲

     賤ヶ岳砦 (桑山重晴) : ●田上山砦(秀長)

              ▪️秀長本陣

               ↓

           【南:長浜方面】



本来、私は長浜城の留守番になるところだった。

父からも伯父・秀吉からも、そのように強く言い聞かせられた。


しかし、この一戦に敗れれば、長浜城に籠っていてもしかたがない。

柴田勝豊の先例を見ても、長浜では大軍を防ぎきれず、すぐに攻め落とされて終わりだ。

それであれば本陣にいても同じではないか、逆に戦況が手に取るようにわかる本陣の方が対処がしやすい、本陣からは絶対に外に出ない。

そう力説して、本陣への帯同を許された。


父は絶対に許さないという態度であったが、秀吉が『さも豪胆なことよ!」と手を叩いて喜び、磯野員昌の一軍と藤堂高虎を筆頭にした馬廻りをつけ、彼らの指示に従うという条件で父を説得した。

そして、何かあればどんな手段を使っても安土まで連行するということで、父がしぶしぶ首を縦に振った。


しかも、この約束を守るために、秀吉の周りから私に人をつけてくれた。


一人は、片桐 且元(かたぎり かつもと) この時二十八歳。


羽柴家の子飼いの中でも最年長に近く、実直な若武者だ。

片桐家は元々は浅井家の家臣で主家滅亡後、秀吉に仕えるようになった。

お市の方や3姉妹と共に小谷城落城を経験している。

史実では、賤ヶ岳の七本槍の一人に数えられる武勇を持ちながら、石田三成らと共に戦線を支える奉行にも名を連ねる実務家肌の側面を併せ持つ。

血気盛んな若手と冷静な事務方の間を取り持つ、羽柴家中の兄貴的な存在だ。



もう一人は、黒田 長政 (くろだ ながまさ)


黒田官兵衛の嫡男。この時十六歳。

かつて、父・官兵衛が、謀反を起こした荒木村重の説得に向かった際に囚われの身となり、信長は、秀吉に人質の長政を殺すように指示した。

これを救ったのが竹中半兵衛とされている。殺したことにして密かに匿い、自領で養育した。

このような経緯から羽柴家への忠誠心は厚く、年の近い秀成を「若君」と呼ぶ。

秀成と年が近いことから、護衛兼側近として官兵衛から預けられた。



最後に、竹中 重門(たけなか しげかど)


秀吉を天下へと導いた不世出の軍師・竹中半兵衛の遺児。

この時十一歳で、秀成とはわずか二歳違い。

これまで領地である東美濃・垂井(関ヶ原と大垣の間あたり)で一族により養育されていたが、秀成の参軍にあたり近習として付けられた。

また、(秀成は知らせれていないが)いざというときの影武者としての役割もあった。



羽柴軍は、秀吉を総大将に五万の兵力を擁している。


秀吉は、北伊勢での滝川一益の蜂起をほぼ制圧し、残す支城は鈴鹿山脈に張り付く小城・峰城だけとなり、一益を本城の長島に押し込むことに成功していた。


そして、柴田勝家の進軍の報を受け取るや否や、長島の包囲を蒲生氏郷と織田信雄に任せ、自身は本隊を率いて、急ぎ長浜に駆けつけていた。


今、木ノ本に秀吉の本陣、その北東の田上山には秀長が陣を張っている。


山々の砦では、賤ヶ岳に桑山重晴、大岩山に中川清秀、岩崎山には高山右近が入った。

さらにその北の堂木山(どうぎやま)には木下一元(ねねの親族か)と勝豊の家老・山路正国が、そして北国街道を見下ろす要衝・東野山には堀秀政が入り守りを固めた。



しかし、戦況は直ちには動かなかった。


今年に入ってから、秀長が賤ヶ岳周辺の山々と街道を要塞化した結果、柴田側が易々と攻め込むことができなくなったためだ。

そして、柴田側も負けじと自軍の陣地を要塞化し始めたことで、睨み合いの膠着状態に陥った。


両軍の間には、先に手を出せば食い破られるという緊張感が流れ、静かな対峙が続いていた。


「石田、大谷。兵糧はどうだ」

櫓から降りた父は、陣屋で書類を睨みつける二人――石田三成と大谷吉継に声をかけた。


彼ら「近江の二才」は、父・秀長の下で実務の担当者として、数万の兵を維持するための兵糧、武器弾薬の調達、手配を担っていた。


「配分は滞りありません。備蓄も十分です。しかし……」

三成が筆を止め、苦虫を噛み潰したような顔をした。

中川清秀(なかがわ きよひで)殿が、また吠えております。筑前殿はなぜ攻めぬのか。我々は穴掘りのために出張ってきたのではないと」


その言葉に重ねるように磯野員昌が言う。

「おそらく、中川殿だけではないであろう。程度の差はあれど、皆焦りを覚えておるはずだ」

「鬼柴田を目の前に、いつどこから攻めて来るかわからない敵をじっと待つより、攻め出たいと思っておろう」


吉継も静かに頷く。

「中川殿は、山崎での先陣の功を自負されております。今回も自分が一番槍をつけるのだと息巻いておられるようです」


ふうっと父がため息をついた。

「困ったお方だ。此度の戦は山崎の戦とは違う。要塞化された砦をいかに守るのかという戦いだ。急ぐ必要はない。奴らは遠く越前から、限られた兵糧を背負って来ているのだ」

「我々畿内を抑える羽柴と北陸の柴田では国力が違う、時間が経てば経つほど我らが有利になる。こちらが焦れる必要はない。相手を焦らして隙を出させるのよ」


藤堂高虎が父の戦略を要約して言った。

「……要は、どちらが先に『痺れ』を切らすか、という我慢比べにございますな」


この言葉に、石田、大谷が頷いた。


話の流れで、私は父に提案してみた

「清秀殿に、陣中見舞いとして酒でも持参してはどうでしょう。重要な大岩山砦を任せられるのは貴殿しかいないという文とともに。藤堂殿であれば使者に適任でしょう」


父は、鼻の穴を大きくして腕を組んでいる藤堂を方をチラッと見て、

「そうだな。膠着したまましばらく動かんだろうし、高虎であれば猪武者とも気心を通じるのもうまい」

「高虎、行ってくれるか? ただしお前まで飲んだくれてはいかんぞ?」


「はっ!わかっております」

高虎はキリッと答えたが、逆にそれが面白く、周囲の笑いを誘った。



<次回に続く>


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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― 新着の感想 ―
オリジナティがあって面白い。 主人公が次何をするか、豊臣がどうなるのか想像できないから毎回ワクワクしながら読める。
「全国Q地図」というサイトで、高精度の赤色地図が見られるのですが。 このへんの山の峰には大量の古墳と砦の跡。 山を削って形を出した古墳の跡を利用して、当時は砦や寺社を作ったんだろうな…というのがわかっ…
その後の歴史に名を連ねる武将が続々と出てきますね。 この人材層の厚さがあっても、史実の豊臣家は崩れてしまった・・・(´;ω;`) 片桐且元殿、この世界では二つの家の間で板挟みになることはなさそうε-…
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