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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第67話 羽柴美濃守秀長

天正11年(1583年)2月 近江・長浜城 羽柴秀成

北近江の冬は、いつもに増して厳しかった。

凍てつくような寒さと強風、足がすっぽり埋まってしまうほどの大量の雪が、長浜を襲っていた。


極寒の外とは裏腹に、城内は熱に浮かされたような活気ととともに、蜂の巣をつついたような混乱が支配していた。

先月、滝川一益が北伊勢で蜂起したことで、羽柴軍は越前、伊勢、美濃という三つの戦線を抱えることになり、総動員体制で、事態の収拾に動いている。

ここ長浜でも、雪解けの季節を見据えて、柴田勝家との戦の準備、岐阜城の信孝への備えに追われていた。


そんな二月のある日。


安土からの早馬が到着したと聞き、私は長浜城の奥、父・秀長の居室へと足を運んだ。

襖を開けると、そこには数々の書状と地図が広げられ、その前に父が、その傍に小堀正次、桑山重晴、藤堂高虎の姿があった。


「秀成か。よいところへ来た」

父の声は穏やかだが、目の周りには夜通しの政務で蓄積されたであろう疲労の色が出ていた。


前に座った私に、父は一枚の書状を差し出した。

それは、朝廷より下されたの宣旨(せんじ)の写しだった。


「羽柴小一郎秀長、従五位下(じゅうごいのげ)、美濃守に任ず」


その文字に釘付けとなり、しばらく無言の時間が流れた。

「あっ父上、美濃守ご就任、おめでとうございます」

はたと気を取り戻し、大きく腰を折って父に祝辞を述べた。


「喜んでくれるか秀成。わしも突然のことでただ驚いていたところよ」

「ここにいる桑山や小堀、藤堂も、先ほどまで口を開けて書状をのぞいておったわ」

父はそう言うと、照れ隠しのように大きく笑った。


「美濃守」という受領名(ずりょうめい)が持つ意味は重い。

かつて信長公が「天下布武」を掲げた地であり、織田家の本領である美濃。

その守護の肩書きを、秀吉が朝廷に働きかけて父に用意したということは、秀吉が「美濃」を完全に掌握していることを意味する。


そして、朝廷もそれを認めたことを天下に知らしめる政治的な宣言とも捉えられる。


※作者注(受領名とは)

もともとは「地方官の役職名(官職)」のこと。上野介こうずけのすけ筑前守ちくぜんのかみがこれにあたり、朝廷により任命された。しかし、戦国時代になると、朝廷からの正式な任命がなくても、箔付けのために勝手に名乗る武士が急増した。

今回、秀長が任命された受領名は、朝廷による正式な任命である。



「これで父上の格は、織田家宿老の方々と同列となったということでしょうか」

私の言葉に、父は困ったように笑い、宣下の写しを引き寄せて膝に置いた。


「まぁそういうことになる。丹羽殿や堀殿と肩を並べるようになったわ」

「しかし、祝い事として喜んでばかりはおられん。これは、兄者から背負わされた『重石』とも言える」


桑山と小堀が静かに頷いた。


そして、父の言葉を引き継ぐように、小堀が低い声で言った。

「殿が従五位下の官位と美濃守の官職を得たこと、何よりも名誉であり、我々ら家臣一同この上なく喜ばしく思っております。しかし、なぜこの時期かを考えると、なかなか喜んではおられませぬ」

「この北近江で、柴田修理亮と対峙する諸将の顔触れをご覧ください。丹羽長秀殿、堀秀政殿、中川清秀殿、高山右近殿……いずれも信長公の時代からの百戦錬磨。一癖も二癖もある御方ばかり。殿は、北近江の主将として、彼らを率いていかねばなりませぬ」


小堀の指摘は鋭い。

特に、丹羽長秀は、清洲会議以来、秀吉を支持してくれているとはいえ、彼は織田家家老の一人。

秀吉にとっては、かつての上役であり、大恩ある人物だ。


堀秀政もそうだ。

信長公の最側近であり、清洲会議以降は三法師様の傅役として、織田家中で重きをなしてきた。


そんな諸将に対し、秀吉の弟である父が「総大将」として命令を下さねばならないのが、今の北近江の陣容だ。

官位という『箔』がなければ、軍の序列は容易に崩れる。

父に与えられた「美濃守」は、時流によって羽柴の家臣に落ち着いてしまった彼らのプライドを傷つけずに「従わせる」ための、朝廷公認の免許状という意味を持つ。


高虎が、いつもどおり、物怖じすることなく自分の考えを述べた。

「中川殿や高山殿も、筑前守様と肩を並べる同僚のようなもの。それが清洲の会議を経て、家臣としての立ち位置になっております。頭ではわかっていても、感情が認められらないということは十分にありましょう」

「しかも、これまで殿は、筑前守様のご一門という立場でしかございませんでした。これからは、美濃守の権威でもって、彼らを従わせよということ」


じっと聞いていた父が、いつもにも増して低く、そしてゆっくりと言葉を吐き出した。

「これまでわしは、諸将の『調整役』を期待されてきた。これからもその役割は変わらぬであろう。しかし、天下分け目の戦いを控え、否応なしに、新たな軍団の主将という重責を背負うことになる」


父の表情は、厳しかった。


天下一の補佐役と後世に謳われる父・羽柴美濃守秀長だが、その実態は、個性の強すぎる戦国大名たちとの仲介や調整という顔だけでなく、紀州、四国、九州攻めという大規模な戦の総大将という顔も持つ。

そして父のすごいところは、父が参加した戦いは負けなしというところだ。

兵、食糧、軍需品などのロジスティックを整え、手堅く堅実に戦いを進める父の戦い方は、組織が大きくなった羽柴の戦力を遺憾無く発揮させるものであった。


羽柴一門にあってここまで優秀な男を、秀吉が重宝したのは当然のことであり、あらゆる仕事が父に集中した。

これが私が以前から警戒した「父の体調を崩す要因」であり、これを抑止することが私の目下の優先事項でもある。


私は父の気を紛らわせようと、明るい口調で答えた。

「父上は羽柴の大黒柱。伯父上が出世すればする程、柱も太くならざるを得ません。私も細いながらも支柱の一つとして頑張りますので、一緒に伯父上を支えてまいりましょう」

そして、前々から何度も口にしている言葉を添える。

「どうかお身体にはお気をつけてください。新たな命のためにも」


父は破顔させて短く言った。

「またそれか。ふっふっふ、わかっておる。今倒れたらお初に合わせる顔がなくなるわ」

「秀成、頼りにしておる」


桑山が笑いながら言う。

「はっはっは!左様ですな。次のお子のためにも壮健でいてくださいませ」

「にしても、若殿の支えがあれば、羽柴美濃守のお家は百人力ですな!」

「若殿、頼みますぞ」


その言葉に、父も小堀、高虎も笑い声を上げた。



その夜、長浜城の一角で、ごく身内だけのささやかな祝宴が開かれた。


集まったのは、桑山、小堀、羽田、磯野、本多ら、秀長とともに長浜を切り盛りしてきた頃から、苦労を共にしてきた面々だ。


「さあ、美濃守様に乾杯だ! 飲め飲め!」

普段は厳格な羽田正親が、顔を真っ赤にして大きな盃を掲げている。


「あの小一郎様が、従五位下、美濃守とは……長生きはしてみるものだ」

桑山重晴が、しみじみと酒を煽る。


小堀正次も、珍しく少し羽目を外して笑っていた。

「若君、見てくだされ。この者たちの喜びようを。彼らにとって、殿の出世は己の誇りそのものなのです」


私はその光景を眺めながら、胸が熱くなるのを感じていた。

秀吉の天下取りは、目に見えない、こうした泥臭い絆の上に成り立っている。

そして父・秀長の「調整」という困難な役割も、彼ら忠義の士たちの支えがあってこそ報われるのだ。


宴の喧騒を離れ、私は父の隣に座った。

「父上。私の周りにはこれほどの家臣たちがついています。彼らの力を借りてお力添えしたいたいと思います。無理をなさいませんよう」


父は少し酔った目で私を見つめ、

「そうだな……秀成。お主たちを頼らせてもらおう。しかし、お前こそ無理をしてはならんぞ」

と言ってから、大きな手で私の頭を撫でた。

「お前が大人になる頃には、もっと良い景色を見せてやりたいものだ」


外では雪が降り続いていたが、城内には春の先触れのような温かな熱気が満ちていた。


「美濃守・羽柴秀長」の誕生


それは、迫りくる柴田勝家との決戦において、羽柴・北近江の諸将を一つにまとめる「お守り」のような気がした。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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― 新着の感想 ―
数年後には秀成にも別働隊の大将くらいが務まって欲しいですね。
こうしてみると秀長さんに実務が集中し過ぎてそら過労で倒れるわ。 いや、親会社を子会社が逆買収したらそうもなるよね。
叙爵で殿上人で貴族となりました、秀長パッパ。 このランクに位置すると、主上に拝謁できる昇殿が許されるんですよね。 この世界でも権大納言(大和大納言)にまで到達するのが楽しみ。
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