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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第63話 天下の布石 ―安土拝謁

天平10年(1582年)12月下旬 近江・安土城 羽柴秀吉

 数日後


三法師を乗せた豪華な輿が、数千の羽柴勢による警護に守られ、雪の舞う安土に到着した。


御殿には、羽柴一門と重臣たちが居並ぶ。


上座には、わずか三歳の当主・三法師が、織田家の家督を示す装束に身を包み、静かに座っていた。

傍らで傅役の堀秀政が支えている。


「よくぞ安土にお戻りくださいました。ここはかつて信長公が築かれし織田の中心の城でございます」

「我ら一同、三法師様のお戻りを心よりお待ちしておりました」

最前列に座る秀吉がそのように口上を述べると、広間に並んだ百余名の家臣たちが、一斉に畳に額を擦り付けた。


秀吉は、かつての主君の孫に対し、深々と、そして芝居がかったほど丁寧に頭を下げた。

岐阜での「実力行使」は、正当な「当主救出」へと塗り替えられていた。


場が落ち着くのを待って、三法師の傍らに控えていた秀政が静かに前へ進み出た。

彼は三法師様の小さな手をそっと握り、あたかも幼き主君の心の声を、家臣たちに知らしめるかのように口を開いた。

「三法師様は、此度の羽柴筑前守殿の忠義、深く感謝されておられる。以降、織田家の統治という困難なる大業は、筆頭家老・羽柴筑前守を柱とし、池田恒興殿、丹羽長秀殿による合議によって、円満に進められるべし」

「それでよろしいですな?」

秀政が三法師に笑顔を向けると、予め教えられていた短い言葉を紡ぎ出した。


「はしばの、じじ、よしなにたのむ」


「……ははっ! 羽柴筑前守秀吉、身命をとして三法師様を盛り立てまする!」

秀吉は大声で承諾の意を発すると、再び深く平伏した。

それに合わせて「「はははっ」」と家臣達も深く平伏した。


頭をあげた秀吉の姿は、歓喜に震えているようにも、巨大な獲物を仕留めた獣のようにも見えた。

「三法師様の御名において、織田に不平を抱く者、越前の柴田とこれに与する不逞の輩は、この筑前めが必ずや成敗いたしましょう」

「織田の静謐、この命に代えても守り抜く所存!」



儀式が終わり、重臣たちが退出する中、秀吉は秀政と視線を交わした。

「堀殿、よう言うてくれた。お主の言葉で、わしの背には信長公がついたも同然よ」


「筑前殿……いえ、羽柴様。これでお膳立ては整いました。あとは、雪が解けるのを待つのみにございますな」

そう言うと、秀政は三法師様を抱きかかえ、奥の間に下がっていった。


秀吉は一人、御殿の窓から広大な淡海の湖を見下ろした。

かつて、信長が天下を夢見たこの場所で、今、秀吉は「織田を守る」という大義名分を得ることができた。


感慨にふける秀吉の傍に、秀長が静かに歩み寄った。

それに気づいた秀吉が言う。

「初戦は我らが勝ったな、小一郎」


羽柴は、正当なる織田の軍勢として、北の鬼を迎え撃つ準備を整えることができた。

しかし、いくら正当性があっても、力で勝てるとは限らない。

ここからが勝負であることを、秀吉も秀長もわかっていた。


秀吉は面前に広がる湖に目を向けたまま、話を続けた。

「越前の勝家が雪解けとともに動こうが、その時には近江より西はすべてわしの掌の上よ。北近江を小一郎が盾とし、久太郎が佐和山で脇を固める。勝家の南下を万全の準備で跳ね返す」


秀長が一言だけ添えた。

「しかし、信孝殿はまだ健在ですぞ」


「此度は、三法師様を手中に収めるのが目的よ。それ以上を望むと足をすくわれるわ」

「しかし、次は甘くするつもりはない」

秀吉はそう言って、秀長の方に顔を向けた。

そこには、冷徹な策謀家の笑みが貼りついていた。

「今回は信雄殿を使っておらんが、次は後見人同士でやり合っていただこう」

「織田家一門に、わしが手を出すのは流石にまずいのでな」

そう言って、ふっふっふと低く笑った。



 翌日


再び、諸将が本丸御殿の広間に集められた。

今回の戦勝への論功行賞である。


正面に座る秀吉が、白い歯を見せて豪快に笑った。

「皆、ようやってくれた。此度の長浜の奪還、そして美濃攻略。これほど鮮やかに事を成し遂げたこと、皆の奮闘のおかげだ」


秀吉の横には、織田家当主・三法師様が静かに座っていた。

幼い当主は、事の重大さを理解せぬまま、無垢な瞳で並み居る諸将を見渡している。


この場に集まった諸将は、その意味をわかっている。

三法師様を『救い出した』と言うが、それは同時に、織田家という錦の御旗を、秀吉が完全にその懐へ収めたということだ。


そんな諸将の思いを知った上で、今回、秀吉は巧妙な演出を仕掛けた。

後見人であった織田信孝から救い出された当主・三法師様からの「恩賞」という形をとった論功行賞である。


清洲会議で獲得した領土から上がる年貢、各地の鉱山から産出する銀、そして京や堺の豪商たちから献上された膨大な財宝。秀吉は、それらを惜しみなく家臣たちへ分配した。


「高山右近、中川清秀、前へ」

秀吉の声が響くと、奉行衆の手によって、盆に乗せられた銀が次々と運ばれてくる。


「今回の戦では新たな領土を切り取ったわけではない。ゆえに、三法師様の名において、此度は銀にて報いる」

「右近、清秀、各々に銀2百枚。これにて兵を養い、武具を揃え、来たるべき春に備えよ!」


居並ぶ諸将から「おお……」と地鳴りのような溜息が漏れる。


銀2百枚ともなれば、当時の換算で6百石相当の価値を持つ現生げんなまである。

土地という実利を今すぐに与えられぬもどかしさを、秀吉は圧倒的な現金の力で黙らせたのだ。

銀の重みは、そのまま羽柴家への忠誠心へと形を変えていく。


「次に、堀秀政、前へ」

秀吉が、秀政を呼ぶ。もはや、以前のように敬称はつけていない。

完全に配下としての扱いだ。


「貴殿は早々に我が陣営に味方し、近江をまとめるとともに、軍事作戦の主力を担ってくれた」

「加えて、三法師様の救出にも多大な貢献があった。よって、銀3百枚を与える。今後も忠勤に励んでほしい」


「ははっ」

堀秀政が銀がつまれた盆を受け取り頭を下げた。


この一幕を見た諸将は、秀政が完全に羽柴配下になったことを理解した。



「そして、小一郎」

秀吉の目が、最愛の弟、秀長に向けられた。

「長浜はわしの城。かつてわしが信長公から賜り、一国一城の主としての第一歩を刻んだ地よ。そして、北国街道の喉元であり、柴田の猛攻を受ける盾となる場所だ」


秀吉の表情から笑みが消えた。

「この地を任せられるのは、わしの半身であるお主しかおらん。長浜城主として、北近江を固めよ」

「越前の雪が解ける前に、勝家が絶望するほどの防備を築くのだ」


「謹んで、お受けいたします」

そう言って、秀長が静かに頭を下げた。


「秀成」

次に、秀吉が私を呼んだ。

「お主も父と共に長浜へ行け。陣地をどう築き、兵をどのように動かすか。小一郎の横で、戦というものをしっかりと学ぶがよい」


「……はっ。承知いたしました」

私は深く頭を下げた。

冬の間、長浜城の近くで戦がはじまることは、まずない。

戦略的に重要な大合戦に向けた準備を、最前線で肌身をもって学んでこいということだろう。



秀吉が勢いよく立ち上がり、秀吉は一歩、前へ進み出た。

そして、広間に集まる諸将を見下ろした。

その眼光は、もはや「猿」と呼ばれた陽気な男のものではない。

乱世の頂を掴み取ろうとする、冷徹かつ猛々しい戦国大名のそれであった。


「皆の者、よう聞けい!」

腹の底から響く大声が、広間の空気を震わせた。


「柴田勝家は強い。古き織田の象徴よ。だが、奴は雪に閉じ込められ、過去の中に止まっておる」

「しかし、わしらは違う。この冬、近江を固め、北近江を奪い返し、御当主をお救いした。勝家を上回る力を、大義を得た」

「春が来れば、勝家を、その古臭い自尊心ごと押し潰してやるわ!」


「おおおっ!」

諸将から地鳴りのような声が上がった。


秀吉の熱、そして迫り来る戦への高揚。

それらが渾然一体となり、広間が熱気に包まれた。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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― 新着の感想 ―
滝川の動きはこれからですかねー
秀吉は喧伝上手というか、求められる役割に徹するのが上手なんだろうな。次は裏方の実践指導か。
最近新説(秀吉が合戦に間に合わなかった?)が出ていましたが──山崎の合戦しかり、今回の賤ケ岳に至る流れも然り、秀吉は『正当性』を得ること技量に──他の当時の武将の中で頭一つ抜きんでて──『秀でて』いる…
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