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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第55話 清洲の綻び

天正10年(1582年)10月 京・秀吉邸

京の秋の空は、高く、澄みきっていた。


10月17日

大徳寺にて織田信長の法要が営まれた翌々日。


早馬が一騎、秀吉の京屋敷の門前に止まった。

安土の堀秀政が飛ばしたものだ。


秀政は、今の織田家の当主三法師の傅役(もりやく)を務めている。

秀勝が喪主を務めた法要には、当然、三法師は参列しておらず、秀政も参列しなかった。

その秀政が、至急の書状を寄越してきた。


越前、柴田勝家からの書状だ。



先般の清洲会議において、三法師様を御当主と定め、家老が相談して政を執ることを決定したはず。

しかし近頃、羽柴筑前守はこの約定を顧みず、諸将を招き入れ、己の意のままに差配していると聞き及んでいる。

 

また、山崎の普請を急いでいるのは、山城・摂津を押さえ、諸将を威圧する企てに違いない。

筑前守が清洲の約定を反故にすることは、織田家のためにならず、天下静謐の道でもない。


堀殿におかれては、筑前守の挙動を抑え、清洲の約定に立ち返らせていただきたい。

我らは、ただ御家の安泰を願い、三法師様の御代を穏やかに守りたいと考えているのみ。


このままでは、やがて家中に紛争が起こることは必定。

その責は、誰が負うか明らかである。


三法師様傅役の貴殿の叡慮に期待するばかりである。



読み終えると、秀吉は書状を畳に置いた。

「わしが約定違反をしているそうだ」


秀吉の前には、いつもの2人が座っている。

 羽柴秀長

 黒田官兵衛

 

秀吉は嘲笑の口ぶりで言葉を続ける。

「柴田殿は、今の状況に耐えられなくなったようだな」

「だが、先の法要を咎めもしない堀殿に書状を送ってくるとは、周りが見えていないのか」

くっくっくと低く笑う。


秀長が答えた。

「しかし、送り先は御当主傅役の堀殿しかいないのも事実」

「同じ文を池田殿、丹羽殿にも送っている可能性はありますが、今のところ連絡はありません」


官兵衛が頷く。

「清洲の約定では、三法師様を当主と定め、四宿老が補佐することになっております」

「自分一人がのけ者になっていることが、我慢できないのでしょうな」



「それを、我らの約定違反と言われてもな」

「小一郎、わしは、乱しておるか?」

そう言って秀吉が軽く笑った。


秀長が答える。

「我らは、乱してはおりません。三法師様は当主のまま。諸将と連絡を取り合うことは、そもそも約定で縛られておりません」

「山崎城の改修も、京を守るための必要な措置」


秀吉が大きく頷き、2人の顔を見渡してからゆっくりと話す。

「そうだ。乱しているのは、信孝殿」

「信孝殿は三法師様を岐阜城に抱え込み、“幼主の保全”を名目に動かぬ」

「我らが再三、三法師様を安土城へお移しするよう伝えておるにも関わらずな」


「主はおるが、政が止まっておる」

最後に、秀吉は静かに言った。


しばらくの沈黙。



秀吉が再び口を開いた。

「動かぬのであれば、前に話したとおり、名代を立てるしかあるまい」


室内の空気がわずかに変わる。

名代とは、当主が幼いときなどに立てる代行のことだ。

武田信玄亡き後の勝頼がその立場だったように、実質の当主のようなもの。

後見人とは質が違う。


秀吉が小さな声で、しかしはっきりと口にした。

「信雄殿を名代に」


秀長と官兵衛の息が止まる。

以前、秀吉の口から出た言葉ではあったが、改めて聞いてもそれが意味する重大さに体が固まった。


「信雄様は、嬉々としてお受けになるとは思います。それが織田家に何をもたらすのか考えることなしに」

秀長は、慎重な口ぶりで答えた。


一方で、官兵衛は謀略家の血が騒ぐのか、目を輝かせながら言葉を発する。

「信孝様は、絶対にお認めにならないでしょう。是が非でも阻止しようとされるはず」

「その時に頼るのは...柴田殿」

「これは、信孝様と柴田殿を一度に排する策...」

「柴田殿の焦りを利用して、一気に嵌めようというわけですな」

官兵衛の口元に笑みが広がる。


秀吉もにたっと笑いながら答える。

「信孝殿が反発し、当主の名代に兵をあげれば、すなわち逆賊。それに従う諸将も同じよ」


秀吉はすぐ次に移る。

「二家老を動かす」

「池田殿には、浅野長政を」

「丹羽殿は、小一郎に任せる」


官兵衛が補足するように言う。

「池田殿は、現実的な御方。羽柴が有利であること、こちらに味方する利を説けばよろしいかと」

「丹羽殿は、古くからの織田の重臣。家の形を重んじられる。今の織田家を憂い、新たな政の仕組みが必要と説けば納得はされましょう」


奉行として経歴の長い浅野長政であれば、利を説くのに適任。

しかも、穏健で羽柴との血縁も強い。


秀長は、秀吉の実弟、右腕として諸将の調整を数多くこなしてきた。

政の正統を唱えて、丹羽殿を説得するのはわけもない。


3人はお互いの顔を見合わせ、大きく頷いた。


 ご当主は三法師様

 名代に信雄様

 羽柴、丹羽、池田の三家老がそれを支える



勝家への返書は出さない。

この動きが、返答だ。



 羽柴秀成


その日の夕刻。

私は、父と秀吉の前に座っていた。

柴田殿からの書状の中身、本日の評議の結論を教えてもらっていた。


父が問う。

「こういう次第になった。秀成はどう考える?」


秀吉の目は笑っている。

私がどんな反応をするか楽しんでいるようだ。


私は、少し考えてからゆっくり答えた。

「清洲の会議から約4ヶ月。織田の政は止まったままです」

「後見人がお互いに牽制し合い、法要すらできないほどに」

「中から崩れる前に、後見人2人体制を改め、政の仕組みを再構築する必要があると思います」


秀吉と父が頷く。

特に驚くような答えではない。

先ほど説明された内容をなぞっただけだ。


「今は、三法師様は中立です。信孝様、信雄様のどちらも支持されていない」

「世間はそれを見ています。正統はどちらにあるか」


父が質問してくる。

「三法師様はまだ幼く、意思を示すのは難しかろう」


「はい、そのとおりです。しかも、後見人である叔父同士の諍いに、直接関与するのはよくありません」

「しかし、今のままでは、摂津と京、美濃と越前の間にある安土の旗色がはっきりしません」

子供らしく、安土は味方にできないのかと疑問を呈した。


秀吉は顎を触りながら、私の言葉を聞いていた。

そして、言葉を発した。

「良いところに気づいた、秀成」

「三法師様の態度は問題ではない。が、安土がどちらにつくかはっきりさせる必要がある」

「でなければ、軍を動かせぬ」


続けて、秀吉が父の方を見て言った。

「この際、堀殿にははっきりと羽柴方についていただこう」

「三法師様の傅役、亡き大殿の側近中の側近が羽柴につくとなれば、正統性がはっきりする」


父は小さく頷く。

「それがよろしいかと。すでに、堀殿の意向は伺っております」

「中国からの大返し以降、ずっと共にしておりますので」


秀吉がふっと笑う。

「流石、小一郎。よくできた弟を持てて、わしは果報者よ」


父の顔がゆるむ。

「私も、かような兄者を持って嬉しく思います」

口元に笑みを浮かべてそう言い、すぐに真顔に戻って言葉を続ける。

「ここぞという場面で、旗色を明らかにすることが肝要。今が、その時かと」


突然始まった兄弟愛の劇を唖然と眺めていた私に、秀吉が問いかけてきた。

「なにをぼうと見ておる」

「秀成、お主なら、この盤面でどう打つ?」


私は少し考えてから、静かに答えた。

「堀殿が、明らかに羽柴についたことを表明するのがよいと思います」

「例えば、羽柴の姓を名乗っていただく、とか...」


史実、このタイミングで堀秀政は秀吉から羽柴姓を送られて、使い始めている。

親族以外で羽柴性を名乗ったのは、秀政が初めてだ。


秀吉は、これ以降、一族以外にも有力な家臣に羽柴姓を名乗らせ、家への忠誠を示させるとともに、家臣団の結束と政権の安定化を図ろうとする。



秀吉は目を丸くしてしばらく沈黙した。

そして手を叩いて、大声で笑いながら言った。

「わははっ! よい案ではないか、秀成」

「わしに忠義を示す印として、「羽柴」を名乗らせるとは妙案よ」

「それは良い、全国津々浦々、羽柴だらけにしてくれるわ!!」


秀吉は何度も手を叩いて笑った。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本作は連載を続けながら、表現や構成を見直しつつ推敲を重ねています。


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― 新着の感想 ―
史実通りの堀秀政→羽柴姓ですが、『秀成が提案した』点だけ、史実から変わってると言えば変わっているんですよね。『羽柴家の跡目と目されている秀成公が羽柴姓を推挙してくれた』と聞いたら、名人久太郎さんの忠誠…
歴史をなぞっただけ…(´・ω・`; )の…ハズ? ですが《秀成くん》が提案したコトが…歴史にどのように影響するのか?…うーん…慎重過ぎれば歴史ゎ【豊臣】に染まらないし(´-ω-`)出過ぎると…(秀吉に…
秀勝クンの扱いも悩ましいよね 信長の子で秀吉の養子にして現嫡子扱い
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