表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
歴史の中へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/57

第47話 三つの匂い袋

天正10年(1582年)9月上旬 京・山崎城

山崎城の近くで桂川、宇治川、木津川の3河川が合流する。

その水面を撫でる風が、夏の名残を含みながら、涼やかな空気を城下に運んでいた。


山崎城の普請は、近隣の農夫を動員し休みなく進められている。

いつ、どこで、何をきっかけに戦端が開かれるかわからない中、羽柴の力を総動員して、京と摂津の間にある要衝・天王山が要塞化されつつあった。



あれから、十数日後


伊勢屋清兵衛が、再び山崎城を訪れた。


清兵衛が座敷の畳に手をつき頭を下げ、静かに言った。

「若様。柴田修理亮しばたしゅうりのすけ様との婚儀を済まされたお市の方の御一行が、今月中には北ノ庄へ向かわれるようです。

「その際、長浜へ立ち寄り、浅井家の菩提寺にも足を運ばれる、との噂」


私は、足元に置いた地図を指でなぞりながら答える。

「長浜は、勝豊殿の支配に移って一月。城下の支配もある程度目処がついたということでしょうか」

「一見、お市の方への配慮のようにも見えますが…」


清兵衛は目を細める。

勝家が、お市の心を慮る(おもんぱかる)。

新たに夫になった者が見せる情けではある。

しかし、もう一つ目的がある。


清兵衛は答える。

「浅井の名を使い…北近江を鎮める狙いと思われます」


「おそらくその通りでしょう」

「旧浅井の者達の胸中には、今もお市の方は健在」

私は短く言い切った。


「若様。この件、長浜の商人は如何いたしましょう」

清兵衛は今回の訪問の核心に触れる。


私は、清兵衛の顔をまっすぐ見て言った。

「今まで通りで構いません。長浜でしっかり商いを続けてください」

「目立つことも、こそこそする必要もありません」


話の流れで、この機会に試したいことを清兵衛に相談してみることにした。

「清兵衛、少し相談したいことがあります」

「もう少し、近くへ」


清兵衛は思いがけない流れに戸惑いながら、膝をずらしてにじり寄った。

そして、清兵衛が落ち着くのを見計らい、抑えた声で話かけた。

「長浜城主は勝家殿の養子にあたります」

「城下の商人衆から、婚礼の祝いを送ってはどうでしょう」


清兵衛は、相談とも思えない内容に、首を傾げながら小さな声で答える。

「長浜での商いをこれまで通り続けていくのであれば、城主に婚礼の祝いを献上するのは自然かと思います」

「声をかければ城下に店を構える商人は賛同すると思いますが...」


「そうか。父上がせっかく育てた長浜の商いを廃れさせたくない」

「よければ、当たり障りのない品でいいので、お贈りしてほしい」

私がそう答えると、清兵衛は不思議そうにぼんやりと答える

「承知いたしました」


そして、少し間をあけ、私が切り出した。

「そこで、もう一つお願いしたい」

清兵衛は、なるほどこちらが本題かと合点した顔で頷く。


「侍女への心づけと合わせて、姫様方に、色糸を変えた匂い袋をお贈りしたい」

「…姫様方はまだ幼い。戦のせいで何度も家を移ることになるのは不憫」

「せめて香りだけでも、安らぎになればよいと思うですが」

「京の大店で美しい品を見繕っていただけませんか」


思いがけず子供らしい発案に、清兵衛は目を丸くして答えた。

「そういうお心遣いであれば、問題はないように思います」

「それは、若様からの贈り物ということで?」


「長浜の町衆からでお願いします。それなら勝家殿の耳に入っても角は立たないでしょう」

「短くていいので、北近江の者が姫様方の無事と幸せを祈っていると文を添えて欲しい」

私がそう答ると、清兵衛が納得した声で答えた。

「若様はお優しさしゅうございます」

「承りました。しかとお届けいたします」



清兵衛が退出した後、控えていた本多俊政が声をかけてきた。

「竹若様。長浜の商人からの祝いの品はわかりますが、姫君への贈り物の意図はなんでしょうか」


私は、不本意な表情を浮かべ答えた。

「純粋に姫様方の心が軽くなるようにと思ってのことです」

「私がすること全てに、裏があるように思われるのは心外です」


「いやっ、そういうつもりではございませんが...」

「しかし、これまでは大概そうでしたので...」

「若様が、意味のないことをされるとは思えず...」

俊政はそう言って、じっと私の顔を見つめた。

なにやら隠し事をする子供をたしなめる家人のような顔つきだ。


別に隠すようなことでもないので、正直に話すことにする。

「お市の方は幼い娘3人を連れての再婚。しかも縁もゆかりもない北国へ赴くことになります」

「本人もご不安でしょうが、何より姫君のことが心配で仕方がないと思います」

「長浜に、姫君のことを気にかけている者たちがいると知れば、少しは不安が和らぐかもしれない」

「そう考えてのことです。長浜は大切な土地だと思ってもらえればよい」


そう言うと、俊政はなるほどと大きく頷き、

「若様の優しいお心づかい、俊政、感服いたしました」

と大きな声で答えた。


私は、俊政が「やはり裏はあった」と得心している顔を見ながら、密かに思った。


(その裏に、もう一つの意味がある)

(上手くいくかはわからないが、お市の方そして3姉妹に、北近江にゆかりを持つ私の存在を知ってもらえればいい)

(羽柴の血にも、北近江と結びつき、浅井のことを気にかける者がいることを)


これが今後の展開にどう影響するかは不透明だ。

だが、打てる手は打っておく。



羽柴の将来を創ろうとする者と、乱世に翻弄される三姉妹。

その縁が、細い絹糸のように、静かに結ばれようとしている。


香は、やがて風に乗る。

その香りが戦国の世をどう巡るのか—それはまだ、誰も知らない。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本作は連載を続けながら、表現や構成を見直しつつ推敲を重ねています。


ブックマーク・評価・感想をいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これで本命の茶々でなく、お江の方やお初に心寄せられたら、路線修正が大変(笑)
 まあ、猿顔の老人の側室よりは真っ当な縁だよ。
この時期の市たちの羽柴への評価は最悪な事が多いけど、どう変わるか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ