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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
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第45話 お市という布石

天正10年(1582年)6月下旬 尾張・清洲城 羽柴秀吉

清洲城、奥の間。


蝋燭の火が、三人の影を揺らしていた。

羽柴秀吉

池田恒興

丹羽長秀


織田家を実際に動かす三家老が、静かに向かい合っている。


秀吉は、ゆっくりと頭を下げた。

「山崎の折は、誠にかたじけない。このとおり感謝申し上げる」

その声音は低く、丁寧だった。

「また、ご両名の支持なくして、三法師様を当主に立てることは叶わなかった」

「重ねて、お礼申し上げる」


池田恒興が鼻を鳴らす。

「御当主は信長公の嫡孫。それが筋」


丹羽長秀も、穏やかに続ける。

「信孝殿では、家が割れる」

「信雄殿では、家が立たぬ」


秀吉は小さく頷いた。

「お二人の支援あってのことです」

「領地の配分も、事前に定めたとおりに整いました」

「余計な混乱もなく」


池田が静かに言う。

「勝った者が欲を出せば、家は持たぬ」

「羽柴殿は欲を抑えられた。それがよい」


秀吉は微かに笑った。

「家を支えるのが役目にございます」

そう言って軽く頭を下げた。


その言葉に、池田も丹羽も、表情を変えない。

だが明確に理解している。

この男こそが、実質の筆頭であることを。


秀吉が頭を戻し、2人に目を向ける。

「実は今、柴田殿の使者がきておる。前田殿だ」

「貴殿らと相談させていただきたいことがある」

「ここに呼んでよろしいか」


池田と丹羽は静かに頷いた。


「前田殿をここへ」

秀吉がそう言うと、しばらくして襖が開き、前田利家が入ってきた。


深く一礼する。

「柴田修理亮(しゅりのすけ)様より申し入れがございます」


利家の声は落ち着いている。


「お市の方を、柴田様の室に迎えたいとのこと」


蝋燭の火が揺れた。

誰もすぐには口を開かない。


 お市の方

 信長の妹であり、織田の血の象徴


丹羽が、最初に口を開いた。

「柴田殿のお考えを聞かせもらいたい」


「柴田様は、三法師様を軽んじる気はございません」

「当然、ここにいるお三方とも争うつもりはございません」

「ただ、織田の血を絶やさぬため」

利家はそう言って、改めて頭を下げた。


「柴田殿がお市の方を娶れば、織田家の外戚だ」

池田が利家を睨みつける。

「信孝殿、信雄殿にとっても叔母の夫。無下にはできなくなる」

「我ら三家老の上に立とうという腹づもりではないのか」


信長と乳母兄弟の池田は、家中でそれなりの立場にあった。

そのため、主人の縁戚になるということがいかに有利か知っている。

そして、それを柴田に許すことの危険性も。


「決してそのような意図はございません」

これに対して利家ははっきりと答える。


そのとおりです、と答えるはずもないわ。

秀吉は心の内でそう呟き、核心をつく問いを投げかけることにした。

「前田殿、率直に答えてほしい。柴田殿のご様子は?」


利家はわずかに目を伏せ、しばらく考えてから、意を決して答えた。

「...少々ご不満をお持ちのようでございます」

「すべて猿、いや筑前守にもっていかれたと呟いておられる」


それで、すべてが伝わった。

勝家は北陸に強力な兵を持つ。

清洲で決まったとはいえ、すべて納得しているわけではない。


丹羽が、うなりながら言う。

「拒めば、勝家殿はさらに不満を募らせる...ということか...」


池田も、先ほどのような勢いはない。

「弔い合戦で実際に明智を討ったのは我ら」

「とは言え、柴田殿にしてみれば単に我々に地の利があっただけ」

「近くにいた者が討っただけで、特段の功績ではない」

「かの御仁は、そう考えていような」


秀吉は、しばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと口を開く。

「我らで相談の上、改めて回答致す」


そう言って利家を下がらせた。



再び、三人が見つめ合う。


池田が最初に口を開いた。

「柴田殿がお市の方を娶れば、織田の一門に連なることになる」

「簡単に許すわけにはいかん」


それに丹羽が答えた。

「柴田殿はだいぶ不満を溜めておる様子」

「この提案を軽く扱うと、暴発する可能性もある」


2人の意見を聞いてから、秀吉は静かに答える。

「お市の方を柴田殿に嫁がせることで、柴田殿に“正統”を持たせる」

「なんの実益はない、ただの正統性だ」

「柴田殿の武は強大」

「暴発でもされて、織田家中を巻き込んで自滅されてはかなわん」

「今は、織田家中の均衡が最優先と思うがいかが」


「わしも、そう思う」

そう言って、丹羽が頷く。

「柴田殿を今、追い詰めるのは得策ではない」


「この婚姻で、時を稼ぐということか...」

「正統を得れば、少しは大人しくなると」

池田も同調した。


2人の家老が一定の方向性を見せたのを見て、秀吉がまとめる。

「では、お市の方は、柴田殿へ嫁いでいただく」

「それでよろしいか」


池田と丹羽は首を縦に大きく振った。



2人が退出したのち、秀吉はしばらく無言で座していた。

やがて、低く言う。

「前田又左衛門を、戻せ」


しばらくして、襖が開き、再び前田利家が入ってきた。


先ほどの公的な使者の顔ではない。

どこか、表情はやわらかだ。


秀吉が口元を緩めた。

「久しいな、又左」


利家もわずかに笑う。

「随分とご無沙汰しております」


尾張中村の足軽時代、信長の下で同じ土埃を浴びた。

戦場で槍を競い、叱責も共に受けた。

家も近かった。家族ぐるみで付き合いをしていた。


秀吉が城持ちになった後、利家は柴田勝家の与力として歩んでいた。

立場は違えど、互いの顔は知っている。


秀吉は静かに言った。

「お市の方の件、三家老とも異存なし」

「柴田殿のご希望どおりに」


「修理亮様も安堵されましょう」

そう言って、利家が深く頭を下げた。



公の話は終わった。


秀吉は声を少し落とす。

「又左よ」

「わしらが若い頃、信長公は、どういう御方であった」


唐突な問いに、利家は一瞬考える。

「……厳しく、そして見ておられた」

「誰が使えるか、誰が残るか」


秀吉は頷く。

「そうよ。大殿は家中を競わせ、強い者を残した」


利家の視線がわずかに鋭くなる。


秀吉は続ける。

「勝家殿は武骨で真っ直ぐだ」

「わしは……そうでもない」


自嘲の笑み。

利家も、わずかに口元を緩める。


蝋燭の火が揺れる。


秀吉は真顔に戻って続けた。

「織田家の混乱は、清洲で一旦収まった」

「だが、しょせんは仮初かりそめの平和」


利家は動かない。

秀吉は、さらに踏み込む。

「お主もわかっているだろうが、いずれ衝突するときがくる」


その言葉に、利家の目がわずかに動いた。

露骨な調略ではない。

だが、核心を避けてもいない。


秀吉は続ける。

「又左」

「どちらが正しいかで動くな」

「どちらが家を保てるかで見よ」


利家は静かに息を吸い、昔の名で呼んだ

「藤吉郎」

「知っての通り、わしは柴田様を親父殿と呼ぶほど尊敬しておる」

「わしは親父殿と共にある」


「それでよい」

秀吉は即答だった。

「今は、それでよい」


利家は、じっと秀吉を見る。


秀吉は静かに言う。

「尾張の頃、同じ釜の飯を食ったことを忘れてはおらぬ」

「わしは、簡単に仲間を切り捨てる男ではない」


言外の含み。

敵にしたくないという意図が安易と汲み取れる。


利家は深く頭を下げた。

「…肝に銘じておく」


利家が退出する際、後ろから秀吉が声をかけた。

「又左。我らは、生き残らねばならぬ」


利家は振り返らず、そのまま去った。

襖が閉まる。

秀吉は一人、火を見つめる。


「又左は、情で動く男だ」

「楔は打った。いざという時、その情が頼りになる」


今、古い友と友のあいだに、細い糸が張られた。

それは、いつか、引き寄せるための糸だった。


武で決する戦さは、近いうちにやってくる。

すでに戦いは始まっている。


いかに敵の数を減らせるか.....

その小さな積み重ねが、やがて大きな勝利につながる。


そのことを秀吉は知っている。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本作は連載を続けながら、表現や構成を見直しつつ推敲を重ねています。


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『槍の又佐』相手に"人たらし"の面を見せる秀吉公。 『お市様』という元主君の妹君を"時間稼ぎの道具"──取引の材料として扱う秀吉公。 この回のエピソードだけでも、秀吉の二面性が良くも悪くも見えてきま…
こういうところも信孝も信雄も「使えない」「見込みがない」ところを象徴してますよね お市さんが嫁いで、その娘たちも付いていき、この物語ではどうなるかわからないが、2度目の負け堕ちをすることで、後の淀殿…
お市さまの件、清洲の会議の場では出さずに、重臣だけのクローズドな場所で後追いで交渉というのは、柴田家が後からゴネたみたいで他の織田の家臣から見たら外聞が悪いだろうなぁ 世間からの印象は羽柴が大きくリー…
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