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読めない君のとなりで

作者: もがみ
掲載日:2025/11/14

相手の心がちょっと読める高校生の物語り

瀬川亮は、とある地方都市の高校の2年生。

どこにでもいる普通の高校生に見えるが、ちょっとした超能力を持っていた。

相手の心を読める超能力。

ただ、映画に出てくるような世の中全員の考えがわかる能力というわけではなく、せいぜい周囲2メートル以内の人の気分がわかる程度。

物を数センチ動かすとか、亮のように心を読む超能力を持つ人はこの世界に100人に1人はいる。

でも、たいていは大人になるにつれて能力は弱まり、20歳になるころには超能力を使えなくなることがわかっていて、世間でも特にニュースになることはなかった。


それも亮の能力は、テスト中並みの集中力を使っても、せいぜい相手がごきげんかどうかわかる程度だから、亮はこの能力をほとんど使わない。

心を読むくらいだったら、相手に直接聞けばいいじゃないか。

亮にとって、超能力はあってもなくても関係ない。ご飯にかけるふりかけ程度の存在だった。



亮は別のクラスの、深井由奈と付き合っている。

高校2年生の秋に告白したが、クラスが別なので部活が休みの日だけ一緒に帰っていた。

由奈は吹奏楽部で、部活が休みの日は前日に亮にLINEを送り、亮も休みだったら一緒に帰ることにしていた。


学校を出て、落ち葉が増え始めた帰り道、亮はつぶやいた。

「いやー、部活がないと帰っても暇だな!」

「私と帰れてうれしくないの?」

由奈はちょっとすねたように言い返す。

暇なら、帰りに一緒に買い物に行ってもいいんだけど。

「そんなんじゃないよ。ただ、勉強とか好きじゃないし、部活があったほうが楽しいってゆうか。由奈は…部活はあんまり好きじゃないから、休みのほうがいいか?」


由奈は、吹奏楽部でクラリネットを担当しているが、吹奏楽自体あまり好きではなかった。

大会で自分が失敗したらどうしよう。

帰って学校の宿題を解いているときが一番幸せな由奈にとって、団体で動くことはことさら苦手だった。


由奈の超能力は亮と同じで相手の気持ちを読むことができる。

おまけに亮より能力が強く、相手が今何を考えているのか的確に読むことができた。

「亮が今何を考えているか当てて見せようか?」

「そんなので能力使うなよ。普通に聞けばいいだろ。」

超能力をめったに使わない亮は、由奈にとっては不思議だった。

わからないよりだったら、わかったほうがいいと思っていた。


夏に行われた県大会で演奏した楽曲は、難易度は高く、由奈は合奏についていくだけで精一杯だった。

もし失敗したらどうしよう。

由奈は、失敗を何より恐れる。

由奈の超能力は、吹奏楽の演奏には1ミリも効果を発揮しないのだった。


由奈は、悩んでしまうとつい超能力を使ってしまう。

今日も練習が終わった後、ほかのクラリネットの子の心を読む。

「(指はギリギリ動かせたけど、まだ練習すれば大丈夫)」

まただ。由奈は超能力を使うたびに逃げ出したくなる。

周りの人はどうしてこんなに前向きなんだろう。


「亮は、部活がいやだと思ったことはないの?」

亮は、ちょっと上を見る。多分、私にかける言葉を探しているのだろう。

「いや、練習して試合で勝てたらよっしゃ!って思うじゃん。だから楽しんだよ。」

由奈は亮の気持ちが理解できなかった。

「由奈は考えすぎなんだよ。また超能力で心読んでネガティブになってるんだろ?」

由奈は返す言葉がなかった。

どうしたら亮みたいに悩まないで生きていけるのだろうか。

由奈は答えのないなぞなぞを解いている自分に嫌気がさした。


季節は冬になり、由奈は吹奏楽を続けるか悩んでいた。

由奈が所属する吹奏楽部は、現在3年生が抜けて1・2年生の32人で活動している。

由奈もクラリネットがあまり好きではないといえ、技術的には大きな問題はなかった。

3年生になればメンバーに選ばれるだろう。

由奈は自分がコンクールの会場で、大勢の前で演奏している姿は想像できなかった。

できれば、部活をやめたい。

でも、誰にも言い出せず、悶々とした日々を送っていた。


年が明けてから、亮と初めて帰る日、亮は突然由奈に問いかけた。

「由奈、何をそんなに悩んでいるの?」

由奈は、ちょっと驚きを隠せなかった。

部活の話は最近全然していない。亮が気づくわけがないと思っていた。

「いや、俺だって由奈のことが全然わからないわけじゃないんだぞ。俺だって少しは心は読めるし。」

亮の能力は、相手の気持ちがなんとなくわかる程度なことは由奈も知っていた。

でも、その程度でも自分の不安が亮に知られていたなんて。

「亮はいいよね。悩み事がなくて明るいし。私なんかと全然違う人みたい…」

由奈はそう言って落ち込む。

八つ当たりなんて、小学生みたい。

由奈は亮の目をじっとみる。

こうすると、相手の気持ちが読みやすくなる。

「(由奈は何を悩んでいるんだろ?しゃべってくれると相談にのれるのに…)」

亮は由奈のことを本気で心配していた。

「あ、もしかして私吹奏楽やめてたいってしゃべったことなかったっけ?」

そうだ。今まで由奈は相手は誰でも気持ちを読むばかりで、言葉でやりとりすることはほとんどなかった。

「由奈は一人で悩みすぎなんだよ。能力なんか使わないでちゃんとしゃべってくれよ!」

「私のせいなの!亮なんか悩んだことないくせに偉そうに言わないで!」

もう一度由奈は亮の目を見る。

しかし、由奈は違和感を感じた。

亮が、困っているような気分になっているのはわかる。

でも、今までみたいに言葉を読み取ることができない。

「亮、私どうしよう…亮の気持ちがわからない。」

由奈はその場にうずくまる。


自分たちの能力は、大人になるにつれて弱まり、20歳になるとその能力はなくなってしまう。

ちょうど今、由奈はその能力が弱まり始めている。

亮は、うずくまった由奈と同じ視線になり、一緒にちぢこまった。

「由奈、こんな能力なんていらないんだよ。これからはちゃんと言葉にして、俺に相談してくれないか。いつだって話聞いてやるから。」

由奈は初めて、人に受け入れられた気がした。

今までは悩みの答えは、相手の中にあると思っていた。

でも、能力が弱まった今なら相手の中を確認することはできない。


由奈は、部活を続けたくないこと、勉強が好きで勉強だけしたいこと、進学のこと、友人関係の悩みを全部亮にぶつけた。

亮は、由奈を否定するわけでもなく肯定するわけでもなく、ひたすら「そうだね。」「大変だったね。」と声をかけた。

由奈は涙が止まらなかった。

気づくと日は暮れていて、雪が降り始めていた。

由奈は亮に「ありがとう」と言い、由奈は赤い目をこすりながら、この日は落ち葉を踏みしめて帰った。



季節はめぐり、由奈は3年生になった。

「コンクールメンバーは、合奏をするので音楽室に残ってください。それ以外のメンバーは練習室に異動するように。」

吹奏楽部顧問の指示で、コンクールメンバーに選ばれなかった生徒は、そそくさと音楽室を後にした。

由奈は、椅子に座ったままクラリネットを握っていた。

コンクールメンバーに選ばれた由奈は、来る日も来る日も合奏練習に明け暮れていた。

練習が終わっても、由奈は隣のメンバーの心を読むことはしない。

由奈は、もう超能力を使えない。

でも、由奈はその能力を使う必要はなくなっていた。



亮に相談事をぶつけたあの日に、由奈は人にしゃべることがどれだけ大切か思い知らされた。

相手の心の中に答えはない。

全部自分で悩みぬいて解決することなのだ。

そして、自分が全部背負う必要はない。

だから、相手を選んで相談すればいい。

超能力が弱まった日、由奈は超能力を使わないと決めた。

由奈はもう能力を使う必要はなかった。


その次の日、亮にお礼を言った。

亮はつぶやくように話した。

「由奈はもう一人でも大丈夫。これからも相談事はいろんな人に話すといい。でも、できれば相談相手は俺だとうれしいな。」

由奈も、自分が強くなったのを感じていた。

でも、相談事はしばらく亮にしてみよう。

大切なことを教えてくれた恋人に、由奈はまた涙が目にあふれるのを感じ、顔を伏せた。

「今、泣いてるでしょ?ごめん、読んじゃった。」

もう、この人は。

能力を完璧に使いこなす亮を見て、由奈はもうしばらく亮のそばにいたい、そう思った。



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