救出
夜明けに差し掛かった頃、耳元で囁く声が聞こえた。
「起きて、起きて。ワンダラー。」
彼は蜃気楼を眺めるように眼を開けた。
「お!A、久々だな。いつも見てるくせに」
「アシュリーンMと呼んでといったでしょ。」
「以前も聴いたがそのMってなんなんだ?」
「さあね。私も知りたいよ。」
「ま、大した意味もないんだろう。上が作った俺用の擬似人格だからな。」
「それは傷つくね。いつも助けてあげてるのに。」
彼女は青白いホログラムの長髪を手で払う仕草をして
賞賛を求めているようだった。
「じゃ、またね。何かあったら気分次第で助けるよ。」
「気分で左右されるのか、、まあ頼んだぞ。」
ワンダラーは立ち上がり軽く右手を上げて
気だるげにしばしの別れの挨拶をする。
頭ひとつほど下から彼を見つめていた
アシュリーンは少し嬉しそうだ。
「はいはい、じゃ!」
アシュリーンが彼の目の前から消えようとしたその瞬間、丘ひとつ越えた先で色鮮やかな火薬の
燃え上がる光が見えた。
「ありゃなんだ。。。」
「ちょっと待って。一応、手配書とこの辺りの地図を見てみるけど、次の目的地はもっと先のはず。」
彼女の手から放射状に周辺の地図と手配者一覧が表示される。
「どうだ。何か手かがりはありそうか。」
「ないね。大きな街もない。道も外れるし、寄り道にはなっちゃうかもだけど臨時収入くらいにはなるかもよ?」
「自分は死なないからって勝手だな。でも行くよ。」
彼がそう伝えると、アシュリーンは少し当惑している。彼女自身もその理由はよくわからない。
素早く相棒の背中に乗るとポンポンと首のあたりを叩く。
先ほどまでの会話を理解し、待ち構えていたかのように相棒は立ち上がる。
エンジンと馬の嗎が混じったような叫び声をあげ、
彼らは目的地へと向かった。