相棒
ワンダラーとその相棒は緑の炎をあげ、砂漠を駆けていた。
その“馬”もまた生身ではない。
シェリフ化されたヒトと同じく脳だけは生身だ。
時に機械は判断を間違える。シェリフは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を完璧にシミュレートしている。だが大昔から伝わる感情や心、魂は未だ誰も正体をつかめておらず脳には重要な何かがあることしかわかっていない。だからこそ相棒には心を持つ者が必要だ。
馬の名はアビリーン。彼もアビリーン自身もその名前を気に入っているようだった。長きに渡り共に旅を続けてきた。彼らの結束は誰にも解けないだろう。
「だいぶ夜も更けて来たな。そろそろ休息が必要だろ?俺も休みたいしな。」
ワンダラーは筋張った相棒の首を撫でながら、
優しく語りかける。
アビリーンの返事はイエスだった。
ちょうど肋骨のあたるあたりから緑の炎を少し強めに
吹き出した。
「おい!危ないだろ!ジョークのセンスは二流だな。」
少し顔を緩ませて、いつもの調子で返事をする。
これが彼らの日常だった。
もちろん周辺には人もモノもない。
彼らはその場で腰を下ろした。
少しまだ暖かさの残るアビリーンの腹部に
背中を預け彼らは眠りに入った。
先ほどまで激しく燃え上がっていた
緑色の炎はろうそくのように小さな炎となり
透けてみえていた。
アビリーンはこの時間に脳の休息と共に食事をする。
彼の“餌”は空気中の有機金属化合物だ。
これが緑の炎の源になる。
おそらくその濃度を感じて彼もここでの休息に合意したのだろう。
この星には過去の負の遺産が積もっている。
しかし負の遺産が一時のささやかな安心を
支えているのもまた事実であった。