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お姉様、もういらない、いらないってばぁ!

作者: 青猫
掲載日:2025/05/14

「ねぇ、おねえさま!それ、ちょうだい!」



――きっかけは、姉が誕生日にもらったクマのぬいぐるみだった。

きゅるんとした瞳に、ふわふわのしっぽ。

部屋にある、犬のぬいぐるみと合わせれば、きっと素敵な部屋になるだろう!



そう思った4歳のミラは、姉に向かってさも当然であるかのようにそう言ったのだった。

しかし、姉は困ったような表情をした。



「——ごめんね、ミラちゃん、これ、私のなの。だから、だめ」



まだ、幼いミラは両親から甘やかされており、お願いを断られるのはこれが初めての経験だった。

その結果。



「やだぁ~!それ、ミラの~!!ミラのじゃなきゃやだもん!!!」



盛大にぐずった。泣きわめいた。駄々をこねた。

とにかく、やんややんやと喚き散らしたのである。

これにたまらなくなったのは、ミラと姉の両親。



「ジェシカよ、その人形、ミラに渡しなさい」

「ねぇ、ジェシカ。お姉ちゃんでしょ?」



両親はジェシカにぬいぐるみを渡すように言う。

ジェシカも、自分が折れないことには事態が解決しないことを察したのだろう。

しぶしぶとミラにぬいぐるみを渡した。



ミラは泣きわめいているうち、自分の目の前にぬいぐるみが差し出されたことに気づいた。

ミラは、若干ぐずりつつも、ぬいぐるみを手に取る。

ふわっふわの手触りに、キュートな赤いリボンを首に巻いている。

ミラは、花が咲いたように笑って言った。



「おねえちゃ、ありがと!!」



――ズキュン!

今思えば、そんな感じの音が姉からしていたようにも思えた。



そして、現在。

ミラ、15歳、花の公爵令嬢である。

社交界でも類稀なる美貌と振る舞いで周囲を魅了している彼女は、今現在に至るまでずっと直面している問題に頭を悩ませていた。



それは、彼女の姉、ジェシカの事である。

いや、姉だった、というべきか。



どうやら、ジェシカはミラの両親の子供じゃなかったらしい。

ミラからすれば、伯父にあたる人の娘だったらしく、彼とその奥さんが亡くなった後に引き取った、らしい。

しかも、実際公爵家の当主だったのは、ジェシカの両親の方だったらしく、ミラの両親は、一時的にジェシカから公爵代理をしていたに過ぎないとか。



――しかし、そんなことはどうでもいい。

そんなものよりも、今は目の前に積みあがっているプレゼントの山の方が大問題なのである。

ミラは、恐る恐るその中の一つを手に取って開く。



そこには、なにやら恐ろしい覇気を放出している鉤爪があった。

じんわりと汗をにじませながら、同封された手紙を開く。


『拝啓、ミラちゃんはいかがお過ごしでしょうか。私は今、夏も真っ青なレベルの超高温地帯でこの手紙を書いています』



ミラは、数十枚ある便箋の内、6~7枚をテーブルに置いた。

基本的に、ここまではどうでもいいことしか書いてないからだ。

ミラは、便箋中にぎっしりと書かれた文字の中から、ようやくお目当ての文章を見つけ出す。



『今回は、なんと!エンシェントリバーシブルドラゴンの鉤爪を同封します!ナイフとかにすると、リンゴとか切りやすくていいと思うよ!』



ミラは、ため息をついた。

こんな品、加工するために鍛冶屋に持っていけるわけがない。

多分、持って言った時点で大騒ぎ、私は英雄にでもなってしまうのだろう。


溜息をつきつつ、他の物もいくつか開けてみる。

――虹色に光る謎の薬。


『これはエリクサー!お肌が傷ついちゃったときなんかに遠慮せず使ってね!』



――透き通るような手触りの布。



『これは天女の羽衣!ドレスにすれば、すっごく快適だよ!』



――やけに仰々しく封がされた瓶詰の薬。



『これは不死の妙薬!もしもの時はこれを使ってね!』



ミラは、瓶をそっとテーブルの上に置くと、心の底から叫んだ。



「もういいって!お姉様!もういいから!!!」



ジェシカは、あのくまのぬいぐるみを渡した後から、ミラに色々と物をくれるようになった。

最初の頃はきれいなドレスだったり、素敵な絵本だったり、ミラにとっても素直に喜べるような品目だったのだ。

しかし、ミラの喜ぶ顔が見たいジェシカの行為は、段々とエスカレートしていった。

幸か不幸か、ジェシカの才能はそれを可能にした。

ある日、突然ジェシカがいなくなり、三日が経った。

ミラの両親は、ジェシカを疎んでいたので、全く気にしていなかったが、ミラは不安だった。

姉が、大変なことに巻き込まれているんじゃないか、と。

しかし、小さかった彼女にできることなんて、何もなく、ただ、やきもきとしながら帰りを待つことしかできなかった。



それは、三日目の朝だった。

ミラの部屋の窓を叩く音がする。

ミラは、ウトウトしながら窓を開けた。

そこには、ペガサスに乗ったジェシカがいたのだ。



「ほら、ミラ!絵本で読んだペガサスだよ!」



――それは、三日前、ジェシカと一緒に読んだ絵本のお話だった。

勇敢な勇者はペガサスに乗ってお姫様を迎えに行く。

ミラは、思わず、「そらとぶお馬さん、のってみたいなぁ……」とつぶやいたのだ。

それを聞いていたジェシカは、家から飛び出し、ペガサスを見つけ出して、ここまで連れてきたのだ。

まだまだ小さかったミラには、あまり多くの事は理解できなかったが、少なくとも、姉が絵本で読んだ空飛ぶ馬を連れてきてくれたことだけは分かった。



「おねえさま、すごい!!!」



ペガサスに乗りながら姉をギュッと抱きしめると、姉は「ふんっ!!」となにか食いしばるような音を出した。



それからも、こういったことは続いた。

ミラが色んなものを、「これすごい!」とか「あれ欲しい!」とかいう度、ジェシカはそれを実現して見せた。


まだ幼い少女にとって、与えられるものの価値など分かるはずもなく、ただ「おねえさま、すごい!!」とかいってるだけだったのだが、それだけで姉は満足した。



そしてそうやって与えられるままに少女は成長していき――


――まともになった。

極々一般的な感性を持った少女へとミラは成長したのだ――。

がしかし、成長しなかった、いや、成長はしたがほぼやっていることが変わっていない人物がいた。



ジェシカである。



彼女はミラが色んなものを喜んで受け取ってくれるという事を刷り込まれ、しかし、その一方で普通に成長したミラは当然、姉からただ与えられる現状に居た堪れなくなり。

その結果、ミラがジェシカに物をねだらなくなった。


しかし、ジェシカは止まらない。

ミラを笑顔にするため、ジェシカは突き進む。


その結果が、このプレゼントの山である。

ミラが「もう贈り物は大丈夫ですわ、お姉様」と言っても、「遠慮しないで!私はミラが幸せならそれでいいんだから!」と止まることを知らない。



「はぁ……」



そうしてプレゼントの整理を続けていると、メイドが入ってくる。

手にはラッピングされた箱が。

メイドはその箱をそっとプレゼントの山の中に入れると、ミラに向き直った。



「お嬢様、婚約者のハンス様が来ています」

「えっ!!ハンス様が!?」



ミラは急いで身支度を整えると、応接室へと向かう。

ハンスは、両親が小さい頃に結ばせた、ミラの婚約者である。

長い付き合いの中で、ミラはハンスに恋心が芽生えている。

家の事で、何回か、騒動もあったのだが、今もこうやって婚約は継続させてもらっている。



ミラが応接室に入ると、そこには、婚約者のハンスと――



「お姉様!!?」



ミラの姉、ジェシカがいた。

ジェシカはハンスを若干睨みながら、ミラに笑顔を向ける。



「ミラ!久しぶり!元気にしてた?」



ジェシカは両手を広げており、ミラはそこに飛び込んだ。



「お姉様!元気ですわ!でも、なんでうちに?」



ミラがそう聞くと、ジェシカはきょとんとした表情で答える。



「あら?お姉ちゃんが妹に会いに来るのに理由なんてないでしょ?」

「そもそも、君達が姉妹の関係を築けていること自体が不思議なんだが」



ハンスがそうぼそっとつぶやく。

ちなみに、ミラとジェシカの公爵家は、今現在、当主がジェシカになっている。

当然である。ここで次の当主がミラと言うことになれば、これは立派な爵位簒奪であるからだ。

しかし、ミラの両親は、そんな恐ろしいことを実行に移そうとしていた。

ジェシカをどこかの貴族の後妻にすることで、ミラに公爵位を継がす。

そんな恐ろしい計画は、しかし、成功することはなかった。

ミラとジェシカが止めたのだ。

その結果、なんやかんやがあり、結局ミラとジェシカは姉妹、ということになっている。

――裏でどれだけの圧力をジェシカがかけたのかは、不明だ。



「そんなことより、お姉ちゃんとお茶しましょ、お茶!」



そういってどこか強引にミラを連れて行こうとするジェシカ。

しかし、「ちょっと待ってくれ!」とハンスが呼び止めた。

ジェシカはハンスをキッとにらみつける。



「ミラは今から私とお茶をするの!邪魔しないでくれる?」

「ちょ、ちょっとした贈り物があるんだ、ミラに。今日はそれで来たんだよ」

「あら?私だってミラにたっくさん贈り物をしているわよ?」



一瞬ハンスはたじろいだが、それでもニッと笑う。



「僕の物もきっと喜んでもらえるさ」



そう言ってハンスはミラの前に跪いて、小さな箱を取り出した。



「ミラ、僕と結婚してくれ。君を幸せにすると誓おう」



ミラは、両手を口に当てる。

そして、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

そんなミラに、あたふたとする二人。

ミラはそんな二人を見て、フフッと笑うと、ハンスに言う。



「……うれしいわ!私もハンスのこと、大好き!」



そう言ってミラはハンスに抱き着いた。

ジェシカは二人を見ながら不貞腐れたように言う。



「……今日、プロポーズすると知って、止めに来ましたのに、これじゃ、止められないじゃない……」



そう言って、すたすたと扉の方へ向かうと、最後に振り向いてジェシカは言った。



「ハンス!ミラを幸せにしないと、末代まで呪いますからね!」

「大丈夫です!絶対に、絶対に幸せにします!!!」



そう言ってハンスはジェシカに頭を下げた。

ジェシカは、知らんぷりで部屋を出ていこうとする。

そこに「お姉様!」と呼び止める声が。


ミラは、思いの丈を叫んだ。



「お姉様、ありがとうございます!!私、お姉様のこと、大大大大大大好きですわ!!」




――ミラは気づいていた。

ハンスとジェシカが同時に訪問したのは、多分ハンスがジェシカの目の前で告白できるようにするため。

ハンスが、ミラを溺愛するジェシカに負い目を感じないようにするために、ジェシカはハンスのプロポーズを見届けたのだろう。


ジェシカは、フリフリと手を振って、退出した。

――その後、ジェシカは傷心旅行に出かけ、旦那を捕まえて帰ってくる。

――魔王、と呼ばれる旦那を。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


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あなたの読書人生に良い本との出会いがありますように!

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