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悪夢がやっと覚めた

作者: 下菊みこと

「まあ、結局そんなもんだよね」


私の口からぽろっと出た言葉。


視線の先には、愛し合う男女。


「そういう運命だった。そういうことだよね?」


わかってる。これはいつもの夢だ。


でもいつか、正夢になる。


そんな気がしている。そんな夢。


「…私は、それでも貴方を愛していた」


でも、繰り返し見せられるこの夢は。


まるで彼らにとって邪魔者である私を咎めるかのようで。


「…夢なんて、結局いつか覚めるものよね」


そう。だから。


彼の邪魔は、もうやめよう。























目が覚める。もう、何が現実かも怪しいが。


「お父様のところへ、行こう」


ノックをすれば、優しい声。


「入っておいで」


「お父様」


「…なんだ、お前か」


てっきり、妹だと思っていたのだろう。私を見て、不機嫌になる父。


「何の用だ」


「この家を出て行きます」


「…は?」


「私ではこの家は継げません。どうぞ、妹に爵位を継がせてください。私は出て行きます」


「待て、それは」


父は困惑している。何故だろう?前妻との子、邪魔な娘が消えるのに。


「そうそう、お義母様にこの間は毒の入ったお菓子をどうもありがとうございましたとお伝えください」


「は?」


「遅効性の毒でしたので自己治癒の魔術で治してしまい申し訳ありませんでしたとも」


「ま、待て、なんの話だ…」


「妹には、おねだりされた通り婚約者は譲るとお伝えください。婚約者には、私が出奔したので婚約者のいない妹との結婚をとお願いしてください」


父は私の発言に何故か頭を抱えた。


「毒?おねだり?どうなってる?お前達の関係は良好だと聞いていたのに」


「?…良好ですよ?私さえ黙っていれば、何もかもが上手くいくそうですよ」


「…なんなんだそれは」


父はてっきり知っていて放置しているのかと思っていたが、この反応は違ったようだ。にぶちんめ。


「まあともかく、出て行きますので」


「待て待て、この家の正統な後継はお前だろうが」


「そうですね」


「なんのために厳しく育ててきたと思ってる」


「ストレス発散では?」


父がぎょっとする。なんだ、違うのか。


「いや別に、おかげさまで生きていくのに困らない知識は身につきましたけど。私には厳しい顔をして異母妹は溺愛していたのは、どうかなぁと思ってました。だから、てっきりストレス発散かなぁと納得してたんですが」


「…いや、それは」


「まあとりあえず、出ていくので。これからは妹を厳しく育てたらいいんじゃないですか?」


「…」


まあ、一応ちゃんと伝えた。あとは父が思うようにすればいい。私を止めるのも良い。妹を躾け直すのも良い。


「…婚約者には未練はないのか?」


ぽつりと呟く父。何故そんなことを聞くのか。


「あるに決まってるじゃないですか」


またぎょっとした表情。


「それでも、貴方のように拗らせて欲しくないから。彼は彼の愛する人とくっつけばいい」


次は苦虫を噛み潰したような表情。


父は、実母とは政略結婚だった。けど、愛する人が他にいた。義母だ。


その末に浮気して、子供まで作った。妹だ。


そして、夫の裏切りを知った母は自殺、よくある話だ。


残された私のことなんて、気にかける人はいなかった。


そちらの家族ごっこは、それはそれは楽しそうで。


私だけが、孤独だった。


それでも耐えられたのは、彼のおかげ。


でも、あの夢を連日見て。


もう、限界を悟った。


だから、未練なんてタラタラ。


でも、幸せは願ってる。それは、本当。


だから、邪魔者は消えるに限る。


「ねえ、お父様」


「…なんだ」


「私、お父様のこと大好きでしたよ」


「…!」


「意外です?でも、本当ですよ。大好きでした。母にした所業は裏切り者めとは思いますけど。バッチリ恨んでますけど、それはそれとしてやっぱり大好きでした。だから、ちゃんとお別れを言いにきたんですよ」


今度は泣きそうな顔。…この表情は初めて見た。


さて。


「探すも探さないもご自由に。探してくれたなら、嬉しいけど迷惑です。探さないでくれたなら、悲しいけど有り難いです。それでは」


転移魔法でひょんと飛ぶ。行き先は別に、どこでも良かった。























私は今、父に鍛えられた魔術を駆使して魔女として活動している。


探し物、病気や怪我の治癒、お守り販売などをしているが、これがまた評判だ。


私が出奔してもこうして生きていけるということは、父の子育て方針はきっと間違っていなかったんだろう。まあ、どうかなぁと思うところはあったけど。


今日も両親とご先祖様と神に心から感謝して、仕事に取り掛かる。父には母への裏切りの分禿げてしまえ、毎日足の小指をタンスの角にぶつけろと呪いの念も送っておくけど。


ちなみに魔女として有名になりお金は有り余っているので、父にこっそり送金してる。それで都度養育費を返してるつもり。


「…さて、今日もお仕事頑張ろっ」


「その前に、ちょっとお話をしようか」


聞こえるはずのない声が聞こえた。後ろを振り返ると、世界一好きな人。


「…あれ?夢?」


「婚約者に会っての第一声がそれとか」


「は?婚約者?」


「僕たちの婚約は解消されてないよ」


「は?」


妹はどうした。


「ちなみに僕、あの性悪女共の本性公の場で暴露したから」


「え?」


「君を虐待したあの二人。何か文句ある?」


「…妹を好きなんじゃなかったの?」


きょとんとする私に、ため息をつく彼。


「あのさぁ、僕君のこと愛してるつもりなんだけど。なんで伝わってないの」


「は?」


「あー、性悪女その2が君に呪いをかけたとか言ってたっけ。毎晩悪夢を見るように。その影響?」


「…んん?つまり?…あっ!」


よく考えたら夢でしかイチャイチャしてなかったよね。妹の仕業だったか。確かめもせず暴走してしまった。


「…うーん。…勝手に暴走してごめんね?」


「本当だよ。おかげでこんなところまで迎えに行く羽目になった」


「申し訳ないです…」


「まあいいや。とりあえず、抱きしめていい?」


言うより早く抱きしめられる。


「もう抱きしめてるじゃん」


「君が勝手に居なくなるからだよ」


「面目無いです」


「もう離さない。…そこまで思い詰める前に、相談してよ」


「んー…次から善処する」


「次なんてないよ。今度こそ守るもの」


なんと、この心の広い人は私を許すどころか守ってくれるらしい。


「…もうちょっと怒ったら?」


「君に怒れるわけないでしょ」


「いつから気づいてたの」


「なにを」


「虐待」


彼は少し顔をしかめた。


「ああ、そうだね。君徹底的に隠してたからね。気付くのに遅れた…」


「ごめんて」


「隠さないで相談してよ。…君が居なくなって、徹底的に色々調べたら虐待がわかったんだよ」


「あー…」


「あの性悪共絶対ぶっ殺す。…って思ったから人目のあるところで全部暴露してやった」


「どこまで?」


彼は笑顔で言う。


「飯抜きも、鞭で百叩きも、言葉の暴力も、全部」


「わあ」


「君の父親、大変そうだったよ?」


「わあ」


「ちなみに性悪共は針のむしろ。今では問題児だらけの最果ての修道院に出家させられて、引きこもりだってさ」


出家して引きこもりとか、そのうち修道院からすら叩き出されるのでは?というか最果ての修道院って。絶対イジメられてるだろうな。


「…そういうわけで、もうヤバいのは追い出したからさ」


「うん」


「帰ろう?」


「醜聞がヤバいと思うんだけど…」


「君となら、周りになにを言われても乗り越えられるさ」


今更出戻りするのは恥ずかしいんだけど。


「…どうしても?」


「もし嫌なら、こっちで結婚する?」


「結婚するのは前提なの?」


「当たり前だろ」


…ならば腹をくくるしかあるまい。


「どんな顔でお父様に会おう」


「素知らぬふりでいいでしょ」


「えー」


とりあえず、今更だけど帰ろうか。
























結局、帰ると父はいつもの仏頂面で迎えてくれて、もうお前しかいないんだから出ていくなと言われた。なんか色々可哀想なことをしてしまった。それはそれとしてその後も呪いの念は継続してるけど。


婚約者からは、逃すまいと超スピードで結婚のための準備を整えられてサクッと婚姻。


そうこうしているうちに、父に爵位を譲られさらに忙しい日々が始まり、そうかと思えば妊娠というビッグイベントまで。


なんだかんだで子宝に恵まれ、なんだかんだで今では女子爵としてそれなりにやっていけていたりする。


「…気付いたら幸せになってたなぁ」


「いいことじゃないか」


「うん。でも、時々全部夢なんじゃないかって思う」


「この幸せが夢なら、この世界そのものが夢のようなものさ」


「そうかもね。…それでもいいかって思える程度には、幸せ」


これでいいのか、なにが正解か、未だにわからないけど。たしかに今、幸せだから。


「これからも、そばにいてよ」


「当たり前だよ。もう離れる理由もないし」


「理由ができても、離れないで」


「…うん。もう、離れない」


多分もう、私は悪夢を見ることはないだろう。

【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話


という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 婚約者が出来る人だった!! 探してくれたら嬉しいけど迷惑〜のくだりがシンプルに説得力があって良かったです!!
[気になる点] 元婚約者(あ、ごめんなさい『元』じゃなくて今もでしたね)はどうやって主人公を探し出したのでしょうか? [一言] お父様、主人公のことを憎んでいたワケではなかったんですね。 この手の父親…
[気になる点] >>お前しかいないんだ 自分の妻でありこの子の母親を殺しておいて何をほざいているんだ? 和解以前に生きてる価値ねーんだよてめーはと言いたい
2024/01/14 19:59 退会済み
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