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ブラングルスの終焉 ~Demise of the Branglus~  作者: 乾勝行
第一章 エスカルラータ王国
4/5

第3話 闘技会開幕と大事件

――エスカルラータ最小の闘技場 マンザナ――


ヴェルダッドはエスカルラータ闘技会出場のための審査を行うために、

エスカルラータ最小最弱と呼ばれる闘技場マンザナに来ていた。

相変わらずの緋のカツラに黒いローブ。

そして背中には大きなリュックを背負っている。

マンザナは10メートル四方の格闘用広間が一つ設置されているだけの場所だ。

最小の闘技場を選んだ理由は単純に素性を隠すためである。

案の定、マンザナにはほとんど人がおらず、ヴェルダッドの他には4人のみだった。

そのため、すんなりと審査会場に行くことができた。

受付には緋の民の綺麗な女性が立っており、カウンターには一枚の紙がおいてある。


「ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへご署名を願います」


紙には署名欄、年齢、性別の欄がをあった。

この条件のみで審査届を提出することが出来るのだ。

すると受付の女性が両手で記入するためのペンを差し出した。

ヴェルダッドはそのペンを取ろうと手を伸ばすが、手に取った直後にこういった。


「……なるほど。もう既に審査は始まっているのか」


実はこのペン、凄まじく重く造られているのだ。

このペンを持ち上げられないならば参加資格はないという意味だ。

隣で署名しようとしている緋の若者は重いペンを持ち上げられず、トボトボと帰っていった。

ヴェルダッドはそのペンを片手で持ち上げて審査届に署名した。


名前:アージン・ネガディ

年齢:16

性別:男


無事、超重量級ペンで署名を済ませると受付の女性がニコッっと笑って


「アージン様。こちらへどうぞ」


と闘技場の奥へと案内された。

ヴェルダッドは「ごめんなさい」と小声で言って審査場まで進んでいった。

ヴェルダッドの後ろには鎧を纏った高身長な人物が控えており、

その署名にサインをしようとしていた。


女性に連れて行かれた薄暗い闘技場の奥には椅子に座る一人の男がいた。

男は正装でスーツのような服装を着ている。

受付女性は彼に一礼して闘技場を後にし、

闘技場には男とヴェルダッドの二人だけになった。

その男は椅子から立ち上がり、口を開いた。


「ようこそアージン様。私はこの闘技場の支配人。ゲレンテと申します」


ヴェルダッドは支配人に軽く会釈をし、歩み寄った。


「早速ですが今から審査をはじめます。内容は至ってシンプル。ここにある泥人形を1分以内に破壊して下さい。この泥人形は一定のダメージを与えるとパーツに分解されるようになっております故。準備が整いましたらお声掛け下さい」


支配人の言葉の途中で暗かった闘技場の照明が一気に点灯すると、

目の前に一つの人型の物体が圧倒的な貫禄で待ち構えていた。

岩と岩をつなぎ合わせて出来たような見た目をしている人型の泥人形と呼ばれる物体は

大きさは180cm程でヴェルダッドよりも10cm程度高い。

酒場での若者、豪腕のブラゾと比較するとサイズは小さいもののその存在感は異様なものがあった。


『フフフ、闘技会初出場だから知らずに最も楽な一番小さい闘技場を選んだと思っているでしょうが、ここはその小ささ故に最難関の闘技場となっているのです。この闘技場に応募する人が最も少ない理由はその難関さ! さて、あなたにクリアできますかな?』


支配人は心の中で言った。

ローブとリュックをおろし、首と肩を回し、

前傾姿勢になって手を膝について戦闘準備が整ったヴェルダッドは

支配人に「お願いします」と言った。

支配人が


「始め!」


と言うと、闘技場内にあった時計の針が1分を刻みはじめ、

泥人形の眼が緋色に輝きヴェルダッド目掛けて突進し始めた。

ヴェルダッドはその突進を左手一本で交わし、泥人形の上を飛び越えた。


「攻撃もしてくるのね……」


突進が止まらない泥人形は闘技場の壁に激突し、轟音を立てながら砂煙を上げた。

ここまで2秒。

泥人形の予想外の攻撃、そしてスピードに驚きはしたものの、流石は白の民の密使。

10メートル四方の闘技場であるため、即座の状況判断が求められるが、

素早く状況を飲み込み次の泥人形の攻撃を予測し、次の対策を練る。

砂煙を上げた泥人形は素早く次の突進をしかけた。

闘技場が小さいため、壁に激突から攻撃までのスパンは他の競技場に比べて極端に短いのだ。

ヴェルダッドは泥人形に背を向けていたが、それを見極め、

振り返って一歩踏み込んで泥人形の横に入り、30%くらいの力で泥人形の脇腹を殴った。

泥人形は突進した方向に対して直角に飛ばされ、またも壁に激突した。

ここまでで3秒。

破壊したかに見えたが、砂埃の中には緋色の閃光が覗いている。


「! これでも壊れないのか。頑丈だな」


ヴェルダッドがそう言ったあと、砂煙が晴れると、

壁にめり込んでいる泥人形は緋色の眼は輝きを失い、頭、胴体、四肢に別れた。

頭部がヴェルダッドの足元まで転がると時計の針は止まり、支配人のゲレンテは審査終了の合図をした。


「し、審査終了!! アージン・ネガディ様。記録5秒!!」


ゲレンテも驚き叫んだので、その声は受付まで聞こえており、

受付嬢や他の参加者はその結果に驚きを見せていた。


「とんでもねぇ化物みたいだぁなぁ。クシシシシッ」


「ああ」


「……」


黙っている鎧の人物は闘技場内へと歩いていった。

闘技場内ではゲレンテによる説明がヴェルダッドにされていた。


「アージン様。素晴らしい結果でございました。恐らく参加資格を獲得できると思いますが、合否はエスカルラータ闘技場前の広場にて二日後に公開されますので、後日ご確認下さい」


「……はい」


ヴェルダッドが闘技場を出て宿屋への帰り道に生えている木にもたれかかっていると、

巨大な爆発音が聞こえ、闘技場からは煙が立ち上っていた。

それを見たヴェルダッドは笑って言った。


「ド派手だなあ」


しばらくすると鎧をきた人物がカチャカチャと音を立てながらヴェルダッドに近づいてきた。

まだ闘技場での爆発の煙は目視することが出来る。

それほど大きな爆発だったのだ。

近寄る鎧の人物にヴェルダッドは声をかけた。


「随分と派手だったじゃないか」


鎧の人物は頭の兜を外すと美しい碧の髪をたなびかせた。

そして胸にある紋章に手をかざすと全ての鎧が外れ、足の下にある装置に収納された。

現れたのは身長150cm程の女の子。ジュリアだ。


「あれくらいしなきゃ気が収まらないのよ」


ジュリアが泥人形相手にあんなにも派手な戦闘が出来たのは碧の民の能力”具現”を使用したからだ。

鎧は単純に見た目をごまかす為。闘技場に足を踏み入れ、

支配人にヴェルダッドと同じ説明をされたジュリアは泥人形を見るやいなや、

拳を振りかざし、支配人にバレないように、死角に火のでない爆弾を具現化させた。

そしてあの大爆発。

緋の民の仕業と思い込んでしまうような演出に成功したわけだ。


「人形に怨みでもあるのか……」


「あなたの助言どおりにやったんだけど」


「瞬殺なんて言ってないよ……」


「結果オーライよ。これで二人共審査は通過したわね」


審査通過確実と言われたヴェルダッドの記録は5秒。

そしてジュリアの記録は――1秒である。

闘技会全体の平均が40秒なので二人の記録が如何に早いものかがお分かりいただけるだろう。

ジュリアは外した鎧をヴェルダッドのリュックに入れて背負わせ、

自分は変装用具を身に着けながら言った。


「ところで、アージンって名前なんなのよ。ダサくない?」


「……そういうジュリアはどんな名前にしたの?」


「パンケーキ」


「……」


……二人は帰路についた。


「なによ!!」



数時間後――エスカルラータ中心街 路地裏

薄暗く人目につかない路地裏で何やら怪しい取引が行われている。

キラリと光る刃物、怯える男性。

それは取引と言うより、脅迫に近い。

取引を迫られている否、脅されている男性は全身を細かく震わせながら言った。


「で、ですから、そういうことは――」


すると、脅されている男性が言い終わらない内に、

間髪を入れず、脅している男がナイフを突きつけて言った。


「分かったぁ。じゃあ家族皆殺しな」


脅している男が少し身体をずらし、塞いでいた路地の奥を脅されている男性に見せた。

脅されている男性は驚いた。

そこにいるのは、その男性の妻と娘で首に刃物を突きつけられているからである。


「お前たち!」


「あー、はいはい。そういうのいいからさ。早くしてくんなぁい? こっちは急いでんのよぉ」


「わ、分かりましたから、家族を解放して下さい!」


「よ〜し、よく言った。……よろしくなぁ、――ゲ・レ・ン・テ・さん」


脅迫されている男性は、先程ヴェルダッドとジュリアを審査した、支配人ゲレンテであった。

脅している男がそう言うと、突然男の足は急激に発達し、

マンザナの支配人ゲレンテの腹部に一発の強烈な蹴りを入れて、彼を気絶させてしまった。

一闘技場の支配人を一撃で沈めてしまうこ男は相当な実力者であることが伺える。

すると、脅迫男はゲレンテの妻子とナイフを突きつける男たち目掛けて蹴りを入れはじめた。

ゲレンテ母娘は微動だにセず、瞬きすらしない。

ついに脅迫男の蹴りが母娘に当たると、なんと粉々に崩れてしまった。

脅迫男は言った。


「いやぁ、お前のつくる人形は一流だねぇ? そっくりだぁよぉ」


すると路地からもう一人の男が出てきて言った。


「当然だ」


長いローブに深いフードをかぶったクールな口調の男性はどうやら人形師のようだ。

顔はよく見えない。

しばらく脅迫男と人形師との会話が続く。


「良いのかい? あんた自身がやらなくてよぉ」


「俺の目的は奴を殺すことだ。俺が手を掛けることなく済めばそれはそれでいい」


「そうかい。まぁ、わざわざ人形まで作ってこんなことしてんだ。あんたは優しいねぇ」


「……。急いでるんじゃなかったのか」


「……あ! そうだった、そうだった。面倒な集まりがあるんだよぉ。じゃ、後はよろしくねぇ」


そう言って脅迫男は薄暗い路地裏から表通りへと姿をあらわし、とある屋敷へと入っていった。

男が屋敷の重い扉を足で開けると一人の女性が男を叱り飛ばした。


「遅い!! まったくどこほっつき歩いてたんだ! もう始まるぞ!」


叱りつけた女性は黒髪長髪でスタイルは抜群、真紅のワンピースを着ている。

脅迫男は耳をふさいで誠意のない返事を見せた。


「ヘーイ」


「あのなぁ……、割るぞ」


真紅ワンピースの女性は男の頭に手を置いて言った。

男はポケットに手を入れて歩き、見慣れた屋敷の広間に入ると100人程度の緋の民が集まっていた。

広間の奥には親分が座っている。

そう、ここはヴァルハラの集会場である。

集会はもう既に始まっており、親分の怒号が広間いっぱいに響き渡った。


「一人1000万デニーロの懸賞金をかけたんだぞ!! ガキ共はまだ見つからないのか!!!」


「クシシシシッ。お怒りだぁなぁ」


特徴的な笑いを見せたその男は闘技場でヴェルダッドとジュリアを見つけた男であり、

ゲレンテに脅しをかけていた男だ。

この男の笑い声を聞きつけて親分が声をかけた。


「ロッホ! 遅かったな。幹部のお前が遅れては示しがつかんぞ」


「クシシシシッ。気をつけまぁす」


圧倒的なオーラを放つ親分にもこの態度だ。

脅迫男な名前はロッホ・メンティロッソ。

ヴァルハラの三大幹部の一人である。

ナメた態度と笑い方で赤味がかったおかっぱ頭、ぎょろりとした目玉が特徴的な人物。

基本的に細身であるが、緋の民の能力”怪力”により、

蹴りの攻撃を実行する際、大いに肥大化することも彼の特徴の一つだ。

親分はヴァルハラの群衆に話しているが、

それを他所にロッホは隣りに立っている両腕に包帯を巻いたブラゾに話しかけた。


「クシシシッ、随分派手にやられたぁねぇ。自慢の豪腕はどうしたぁ? ブ・ラ・ゾ」


「黙って親分の話を聞け」


「なぁに、怒ってんのさぁ。白碧のガキ達にやられたって聞いたぜぇ? 大丈夫、俺が敵を取ってやるよぉ」


「テメェ……!!」


ヴェルダッドとジュリアに返り討ちにされたブラゾ・デリーもヴァルハラ三大幹部の一人である。

ブラゾが怒りの余り腕を上げると、ロッホも足で応戦しようと足を振り上げた。

が、しかしその横に立っている真紅のワンピースの女性ががブラゾの腕とロッホの頭を掴んで止めた。


「やめろお前ら! 粉々にされてェのか!」


デリカ・ド・エルモッサ。

彼女も三大幹部の一人である。

三大幹部は非常に仲が悪いことで知られているが、三人共実力は確かである。

しかし、この三人をまとめ上げ、

荒くれ者たちの緋の民をまとめ上げている親分はこの三人よりも遥かに実力者だ。

その親分が三大幹部と緋の群衆に言った。


「お前らぁ、特に三人、よく聞いとけ……。――最強の力を持ったヴァルハラが一人の白のガキにやらていいのか? もうすぐ今年の闘技会が開かれる。闘技会が終わってこのヴァルハラの王、フェルテ・インデントが王位につく頃には必ず見つけ出して殺せ。さもなければ俺がお前らを殺す……!! これで解散とする。去れ」


ヴァルハラの下っ端たちには気絶するものまで現れた。

ロッホ、デリカ、ブラゾの三大幹部は額に冷や汗を流していた。

圧倒的な親分の威圧に恐れをなしたからである。集会が終わり、

ヴァルハラの面々はヴェルダッドとジュリアを探しに中心街に赴いた。

誰もいなくなった屋敷で、ロッホは一人残って言った。

この時のロッホは怒りで唇を噛み、血が流れるほどであった。


「親分、あんたは恐ろしく強ェが、俺はあんたにはない、頭脳を持ってんだよぉ……。見返してやる……!!」



二日後――エスカルラータ闘技場


「鎧はもう良いわね」


「大丈夫かなぁ」


「こんな暑苦しい夏にあんなのつけてる方がおかしくなるわよ。さ、行きましょ」


ヴェルダッドとジュリアの二人は

エスカルラータの中心街のど真ん中にあるエスカルラータ闘技場に来ていた。

当然、緋の民になりすます、赤毛のカツラを身に着け、

白の民や碧の民と分かってしまう帽子や衣装も隠している。

この二人以外その他にも何千人という人が闘技場前に溢れかえっていた。

闘技場の前には1024人の名簿が張り出されており、皆その名簿に名前があるかを見に来たのである。


「お、あった」


「当然ね」


その名前の中に”アージン・ネガディ”と”パンケーキ”の記載もあった。

そして当然のように名簿の先頭には”フェルテ・インデント”の名も。

その名を見て、ヴェルダッドは息を呑み、覚悟を決めた。

そのヴェルダッドを横目に、ジュリアは少しの笑みをこぼした。


「勝てるの?」


「ああ、ぼくが負けることは天地がひっくり返ってもないさ……!!」


二人は闘技場へと足を踏み入れた。

エスカルラータ闘技場はマンザナとは違い吹き抜けの円形闘技場で、

その規模は大きく直径200メートルはある。

闘技場の周りには観客席が階段状に配置されており、

何万というエスカルラータ国民と多くの民族が収容されていた。

まだ始まってもいないのに観客席は大盛り上がりである。

闘技場の開場は11時からで、

12時までに入場しなかった出場者は例え1024人の中に入っていても出場権を剥奪される。

ヴェルダッドたちは11時半に入場した。


「それにしても、大きい闘技場。凄く盛り上がってるね」


「ええ、でもここに来る人たちは大きな夢を持って来るんでしょうけど、私達は目的が違うから、全く盛り上がれないわね」


入場した出場者の中で二人は特に浮いていた。

続々と出場者が入場する度に観客たちは大歓声を浴びせている。

出場者の家族であったり、知人であったり、村人達総出で応援に来ているものまでいた。

多くの出場者が入場するなか、一人の男が威厳と大きな足音と共に闘技場へと入場してきた。

彼の入場と同時に観客に静寂の瞬間が訪れた。


3メートル程の巨体に、大きな鎚を携え、頭髪は無く、緋味がかったあごひげを生やしている。

そして、腕には獅子の入れ墨――。

ヴェルダッドは言った。


「彼が、――フェルテ・インデントだ」


観客は超大歓声――。

響き渡る歓声と余りの熱狂ぶりにあのジュリアも驚きを隠せない様子だ。

それがエスカルラータにおいての彼の人気ぶりを表しているであろう。

大歓声の中、ジュリアはヴェルダッドに言った。


「あ、あなた、こんな人を連れて行こうとしているの?」


「あ、ああ、正直ぼくもちょっと驚いてるよ……」


二人はフェルテ自身を連れて行くことよりも、

フェルテを連れて行ったことによる緋の民の反感の方が恐ろしいと感じた。

それほど彼の人気は絶大なのである。


最後の出場者であるフェルテが入場したのは12時少し前。

闘技会は一人の欠場者もなく開催されることとなった。

出場者の中にはロッホ、デリカ、怒りに満ちたブラゾも確認できる。

出場者の大半は緋の民ではあるが、蒼の民、碧の民なども見受けられる。

白の民はヴェルダッドただ一人だ。

闘技会はまず、前回の優勝者が優勝のトロフィーを国王に返還するところから始まる。

こんな野蛮な国でも国王はいて、ちゃんと国王に始まり国王に終わる式典を行っているのだ。

フェルテは闘技場の観客席のど真ん中にある舞台にたち、優勝トロフィーを国王に返還した。

そして国王の挨拶が始まる。


「親愛なるエスカルラータ国民たちよ。今年もまたこの時が来た。我が国で最も強き者が決まる祭典が行われるのだ。古より強さのみを求める者によって繰り広げられてきたこの祭典は聖なる祭典である」


長々しい国王の挨拶が続き、終わりを迎えようとした時、事件は起きた。

いや、世間からしたら大事件ではないだろうが、

とりわけエスカルラータ闘技会に出場する16歳の少年、17歳の少女、二名には

大打撃を受ける大事件である。国王の挨拶の終盤国王はこんなことを言い始めたのだ。


「ところで……、この神聖なる祭典に、その身を偽る二匹の忌まわしき悪魔が潜んでおる」


「なっ……!?」


ヴェルダッドはすぐに自分たちのことを言っていると分かった。

ジュリアは驚きを隠すことで精一杯。

しかし、会場も国王の発言でどよめいていたため、ジュリアの動揺は周囲には伝わらなかった。

ヴェルダッドはジュリアの様子を確認した後、冷静さを保ちながら、すぐに思考を巡らせた。


『待て……何処でバレたんだ!? ジュリアの変装用具は完璧だった。宿に密告者が? いや……ありえない。夜も誰の気配もなかった……。密告したとしたらヴァルハラに違いないだろうが、エスカルラータの国王にわざわざ言う必要は何だ? ……ヴァルハラの組織にはバレてないってことか。ヴァルハラの個人が国王に密告した……!? でも緋の民にぼくたちの変装を見破るなんてこと出来るのか?』


少し俯きながらヴェルダッドは小声で呟いた。


「――協力者」


ヴェルダッドは国王の悪魔発言で1つの結論に辿り着いた。


「ヴァルハラに、ぼくたちをよく知る――協力者がいる」

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