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最終話 幼年期は続くよどこまでも……

 ノマたちが木村の家に帰ってきたのは、その日の午前8時を少し過ぎた頃だった。

 木村は帰ってくるなりソファに横たわりすぐにイビキをかきはじめた。

 ノノはノマの魔法少女の衣装がずっと気になっていたらしく、ノマが脱いだ衣装を身につけて魔法少女ごっこをはじめた。

 「〈地球侵略を企てる下劣な宇宙人ども! プニピュアがカワイさ地獄に堕としてあげるわッ! 泣きながら感謝しなさいッ!〉」

 「うーん。もうちょっと指を伸ばしてみて」

 「こう?」

 「そうそう。で、最後のところはちょっと蔑さげすむような感じの目で。あーそうそう」

 そんなやりとりをしている双子姉妹を眺めがら亞月はビールのロング缶を片手にニヤニヤしていた。

 「うふふ~。ほほえましい光景だわ。こうやって文化は継承されていくのね……」

 

 亞月は湯船に浸かりながら缶ビールをちびちびと飲んでいた。

 「ふう。朝風呂もいいものねえ……。なんだか夢を見ていたような数日間だったわ……。ほんとうはじつは全部夢だったりして。えへへへ」

 そんな独り言をつぶやいて笑っていると、ガラッと勢いよく戸が開き、裸のノマとノノが浴室に入ってきた。

 「うえーい。邪魔するぜ」

 とノマ。

 「お、意外と広いんだな」

 とノノが浴室を見回す。

 「えっ。えっ!?」

 驚いて目を白黒させる亞月。

 「なに? ここは天国なのッ? あたしもしかしてすでに死んでる?」

 そんな亞月をよそ目にノマとノノは浴槽に入った。2人が同時に入ったために、豪快に大量の湯が溢れた。

 「どうだ、裸の幼女に挟まれる気分は?」

 とノマが亞月のほっぺたをつついた。

 「いやもう、最高なんですけどッ! 両手に幼女、みたいな!?」

 声が裏返る亞月。

 「いやあァ。それにしてもなんかいろいろあって疲れたな!」

 とノマが言った。

 「そうだね。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかパンデミックを回避できたねー」

 とノノが言う。

 「ええッ、あんたたち妙に軽いわねえッ! あんたたちは世界を滅亡から救ったのよ!? そういう自覚ある?」

 と亞月。

 「どうなんだろうな、本当に救ったのかなあ?」

 「たぶん救ったんじゃない? いまいち実感は弱いけど」

 「うん、たぶんな!」

 「はははは」

 笑いあう双子。

 そんな二人に挟まれて気分良さそうにビールを飲む亞月。

 「おう、アンコ、そのビールちょっと飲ませろや!」

 とノマが亞月の手のロング缶に手を伸ばすが、亞月は缶を高く持ちあげた。

 「ダメです! 6歳の幼女がアルコールを摂取してはいけませんッ」

 「なんだよ、ケチ! 中身は28歳の熟女なんだからいいだろォ~」

 「そうだそうだ、私らはツルツルペッタンコだけど中身は大人だぞー。飲ませろ~」

 「いけませんッ」

 「おうこらァ、センパイの言うことが聞けねえってのか? ええアンコさんよォ?」

 「ダメなものはダメです。いけません。めッッ!」

 「なんだよーッ。お前は私らの母親かーッ」

 「そうです。これからはあんたたちのお母さんです」

 「ちぇーッ、なんだよツマンネエの。グレれてやる……」

 ノマはそう言い、湯に潜ってブクブクと泡を吐いた。

 ノノは笑って言った。

 「子供の体も捨てたもんじゃないよ。アラサーボディよりも軽いし、疲れにくいし」

 「プニプニだしスベスベだし、どこをとっても最高にキュートよおォ」

 亞月はノノの顔を両手で撫で回した。

 「でも夜はすぐに眠くなるけどねー」

 「そういえば――」

 と、亞月は何かに思い当たったように口をポカンと開けた。

 水中から出てきたノマが亞月の顔を見て首をかしげた。

 「どうした、そんなバカみたいな顔して?」

 「いやあ……、ノマちゃんやノノちゃんって、未来の世界に帰還(かえ)る方法ってあるのかなあ、って急に思って」

 「なんだ、その話か」

 とノマ。

 「何か方法があるの?」

 と訊く亞月。

 「たぶん、無いな」

 「うん、たぶん無いね」

 と口々に双子が言った。

 「え。やっぱり、そうなの?」

 「SF小説なんかだと、冷凍睡眠(コールドスリープ)で未来に行くという方法が出てきたりするけど、残念ながら冷凍睡眠はまだ実用化されてないんだよなあ……。肉とか野菜とか一度冷凍して解凍すると味が落ちるだろ? あれはようするに細胞が冷凍によって破壊されているからなんだ」

 「――そう、人間を冷凍しても無事には解凍できない、最悪死ぬってこと。将来的には細胞が破壊されない冷凍睡眠技術が発明されるかもしれないけど、今はまだ夢物語だねえー」

 亞月は思い出して言った。

 「……たしか、二人は火星に埋まっていたタイムマシンを使ってこの時代に来たんだよね? ということはさ、今火星に行って掘ればタイムマシンが埋まってるってことだよね?」

 「まあ、そうだな。だけど、どうやって火星に行くよ?」

 「そうよねえ……」

 「そりゃあまあ、2023年に帰りたいという気持ちはあるけど、でも、もし帰れないのだとしてもそれはそれでいいかなあって思ってる」

 とノマ。

 「私もそうだよ。この時代もけっこうイイんじゃないかなって思い始めてる。PCとインターネットの速度が遅くてイライラするのさえ無ければ完璧なんだけど」

 とノノ。

 「ははは、そうだよね。未来だとTB(テラバイト)とか普通なんでしょ? あたしらなんてCD-Rが700MB(メガバイト)ですごーいとか言ってるレベルだから、デジタル関係の進歩ってすごいんだねえ」

 亞月がそう言うと、

 「すごいのはハードウェアの進歩だけだぞ。ソフトっていうかコンテンツはこの時代のほうがイイかもな。2023年のコンテンツなんてぶっちゃけ素人の動画ばっかだぞ」

 「うん、コンテンツの総量は爆発的に増えたんだけど平均化すると質はだいぶん低いよね~」

 「そうなの!? アニメとか全部超美麗な3DCGとかになって超すごいんじゃないの!? 立体映像とかで絵がすっごい飛び出してくるんじゃないのッ!?」

 「いや、2023年でも日本のアニメは2Dだぞ。あと、立体映画は一時的にちょっと流行ったけど、すぐ廃れて、ほとんどの映像は飛び出さないぞ」

 「ええーッ、そうなの!? なんか残念~」

 「テクノロジーが進歩することでイイこともたくさんあるけど、でもそれが世の中を面白くしてるのかっていうとちょっと違うって思うんだよなあ。たとえば本。紙の本がデジタルの本になったからって書いてあることの面白さは別に変わらないだろ? ――多くの人が思いちがいをしてるんだよ。テクノロジーによって以前より〈速く〉〈広く〉〈簡単に〉〈大容量に〉なっていくっていうことと、人間のクリエイティビティやポテンシャルが強化・拡張されていくっていうのは、根本的に違うものだっていうことさを。その境界は意図的に曖昧にされてきたけど、ほんとうは全然別ものなんだよ」

 亞月が突然立ち上がり、拳を握りしめた。

 「あたし、思いついたわッ!」

 「なんだ、急に?」

 「新しいビジネスのアイデアよ! ノマちゃんノノちゃん二人の未来の知識を利用して流行を先取りしたコンテンツを生み出すのよッ!」

 「お、おう……。売れそうな新しい企画を他所(よそ)よりも早く作ってどこかの会社に持ち込むってワケか」

 「それもいいけど――、あたしがプロデューサーになって大ヒットコンテンツを生み出すのよ!」

 「プロデューサーか、いいんじゃねえか?」

 「売れたら私たちにももちろん還元されるんだよなあ? 知識だけ搾取されるなんてイヤだぞ」

 「もちろん還元するわよお。ヒットしたら何が食べたい? 美味しいお肉? お寿司?」

 「食べ物で還元かよ!」

 「お金だと……、あんたたち無駄遣いしそうだから」

 「お前は母親かよッ!」 

  

 ノマたちが風呂から出ると、すでに仮眠から目覚めてパソコンのディスプレイを凝視していた木村が言った。

 「ずいぶん長風呂だったねえ」

 「幼女は風呂が(なげ)えんだよ。よく覚えけ」

 とノマ。

 「洗うところが少なそうなのに?」

 「うるせー。そんなことより、お前は風呂に入らないのか?」

 「ボクは平均して3日に1回くらいしかお風呂入らないから」

 「マジかよ」

 とノノ。

 「平安貴族なんてもっと風呂に入らなかったと思うよ~。現代人は風呂に入りすぎなんだよ」

 「まあ別にいいけどさあ……。で、木村は何してるんだ? 仕事か?」

 「まあね。家をしばらく留守にしていたからEメールが溜まっちゃっててさあ……。あ、そうそう、さっきちょっと面白そうな内容のEメールがあったよ。件名は『【重要】時空次元管理局です』だって――」

 「どんな内容なんだ?」

 木村がメールの本文を音読しはじめた。

 「えーと。『F.木村さま 前略。貴方は、過去改変容疑により現在指名手配中の時間犯罪被疑者2名を貴方の自宅に(かくま)っている疑いがもたれています。10時間以内に出頭して被疑者2名の身柄を当局に引き渡してください。その手続きが行われない場合、()しくは期限を超過した場合、貴方自身も時空次元管理法第10条第4項および11項に抵触するとみなし、当局により身柄を拘束されるおそれがあります。――』だって。面白いイタズラだなあ。これ書いた本人にちょっと取材とかしてみようかなあ、なーんて。あははは」

 「あはは、センスあるヤツだなあ。で、被疑者の名前は書いてあるのか?」

 「えーと『被疑者名は下のとおり 乃々間ノマ 乃々間ノノ』――だって」

 「ええーッ!?」

 ノマとノノは同時に叫んだ。

 「おい、亞月のイタズラなんだろ!」

 とノマが亞月に言うと亞月は首を大きく左右に振った。

 「あたしこんなことしないよ~」

 「じゃあ……木村だな! 自作自演なんだろ!」

 ノマは木村を指さした。

 「いやいや、自分自身にこんなSFじみたEメールを送って『わーい時空次元管理局からEメール来たお~』とか言って喜ぶようなイタい中二病野郎じゃないよ、ボクは~」

 木村が手を大きく振って弁明していると、突然、玄関のドアチャイムが鳴った。

 4人はビクッとし、玄関のほうを恐る恐る見た。

 ドアの向こうで声がした。

 「時空次元管理局のほうから来ました」



 〈おしまい〉

『2001年幼女の旅 A Little Girl Odyssey』を最後までお読みいただきありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら作者として大変嬉しいです。

もしご面倒でなければ、感想・評価等をいただけますと励みになります。


2022年8月15日 77回目の終戦記念日にパンデミックが一日も早く終息することを祈りつつ

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