表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/36

第35話 再受肉《リ・インカーネーション》

 藍がゆっくりと立ち上がった。

 「大丈夫なのか?」

 と零が声をかけた。

 「はい……。少しフラフラしますが大丈夫です」

 そう言って藍は床に散らばった6本の試験管を拾い集めた。

 「ハジャイルは死んだのか?」

 とノマ。

 「……いいえ、死んではいません。脳に少し傷をつけてしまいましたが、ケイド人の自己修復力で簡単に治るでしょう。……命を奪うという選択肢もありましたが、記憶をすべて奪うことで、ハジャイルを無力化しました」

 「どうやったんだ?」

 「私ではありません。私の娘――リアの力を一時的に借りたのです」

 「リア? ……あ、もしかすると、宇宙人とのハイブリッドの――?」

 「はい。彼女は地球環境への適応がうまくいかず、人間年齢で5歳ほどのときにケイド人のテクノロジーで脱肉しました。それ以来、私たちとは異なる次元にいますが、彼女曰くつねに私のそばにいるそうです。彼女がとった方法はハジャイルの脳から直接サイコメトリーで記憶を吸い出すというやり方でした」

 「……だとすると、ハジャイルはどうなったんだ?」

 「記憶をすべて失って、生まれたばかりの赤ちゃんのような状態です。言葉も話せないはずです」

 「なんだか、ちょっとかわいそうね……」

 と亞月がつぶやいた。

 「かわいそうだと? アイツは人間も含めて全生物を全滅させようとしたんだぞ?」

 と木村が言った。

 「うーん、まあそうなんだけど……」

 亞月は少し納得がいっていないようだった。

 藍はゲヘナ99の試験管を持ってUFOのブラックホールエンジンの前にやってきた。

 「今度こそ、これを永遠に消滅させます」

 「やってくれ」

 とノマ。

 藍はエンジンにあけられた穴からブラックホールに向けて試験管を落とした。

 6本の試験管は暗闇のなかへと消えていった。

 「どうだ? うまくいったか?」

 とノマが訊いた。

 藍はうなずき、

 「……終わりました」

 とつぶやいた。

 ノマは藍のほうを向き、

 「――ありがとう。藍がいなかったら、問題を解決できなかったと思う」

 と言った。

 「うん、藍とリアのサイコメトリー能力に助けられた」

 とノノ。

 「私の怪物じみた能力が人の役に立ってよかったです……。私、ほんとうはこの力があまり好きではなかったのです。人の知らなくてもよい、知らないほうがいい思考や記憶を知ってしまうことになりますから……」

 「ハジャイルの記憶を奪ったと言ったよね。2万年以上の膨大な記憶をキミが持っているのかい?」

 と木村。

 「いいえ。ハジャイルの記憶はリアが持っています。ハジャイルから記憶を奪ったときはリアが私の体を動かしていて、私はそのとき意識を失っていましたから」

 零は腕時計を見て言った。

 「あと1時間ほどで日の出の時刻だ。こんな場所に長居は無用だ。早く家に帰ろうぜ」

 「ちょっと待って。あの子はどうするの?」

 と亞月が倒れているハジャイルを指さして訊いた。

 「うーん、あのまま放置――というわけにもいかんか……」

 と零が困り顔で言った。

 藍が倒れているハジャイルに近づくと、ハジャイルはわずかに目を開けた。

 眉間に突き刺さったままの矢は、ゆっくりのハジャイルの内部から外へ押し出され、床に転がってポーンの形に戻った。

 ハジャイルは上体を起こし、藍たちの顔を見た。後光のようなオーラはすでになく、ごく普通の少女のようにしか見えなかった。

 ハジャイルの眉間の傷はすぐに塞がって消えた。

 「……うまくいった」

 と小さい声でハジャイルがつぶやいた。

 「えっ?」

 と藍。

 ハジャイルは藍に抱きついた。

 「!?」

 ハジャイルは藍の耳元で囁いた。

 「――リアだよ」 


 農業試験場をあとにしたノマたちは、木村の軽自動車に乗り、藍の家に向かった。

 「さすがに7人乗せると重いなあ」

 と木村が運転しながら苦笑した。

 後部座席で膝の上にノマを乗せている亞月は幸せそうだった。

 「うふふ~ノマちゃんのお尻プニプニしてやわらかいわァ~」

 「座る場所がここしかないんだよ! おい、尻を触るな! 触るならノノの尻にしてくれ」

 「私のお尻を触っていいのはお姉ちゃんだけだから!」

 と藍の膝の上でノノが言った。

 零のTシャツを着せられたハジャイルはそんなやりとりを藍の隣でニコニコしながら見ていた。ハジャイルは藍の肩にもたれかかり、幸せそうに目を閉じた。

 

 藍の家の前で、藍と零、それからハジャイルが木村の車から降りた。

 ハジャイルは藍の手をギュッと握っていた。

 藍と並んでいるハジャイルは、まるで妹のように見えた。

 「この子は遠い親戚の子供という(てい)でしばらくウチで預かるよ。もちろん、素性は秘密にしておく」

 と零がノマたちに言った。

 「ハジャイルっていう名前は封印して、今後はリアと呼ぶことにします」

 藍がそう言った。

 「なあ、リアはご飯とか食べるのか?」

 とノマがリアに訊いた。

 「ぼくは何も食べないよ。メタマテリアルのボディは空間からエネルギーを取り出すことができるからね」

 とリアが言った。

 「ははは、そりゃあ飯代がかからなくていいな!」

 木村が笑った。

 「ねえ、ハジャイルは結局どうなっちゃったの?」

 と亞月が尋ねた。

 「ハジャイルの魂はこのカラダの中にまだ残っているよ。でも、今は眠ってる。ぼくが彼女の脳に憑依して彼女の魂を上から押さえつけているから簡単には目覚めることができないよ。……だけど、万一彼女の魂が目覚めたとしても、記憶はすべて失っているから何もできないだろうけどね」

 リアが笑顔でそう説明した。

 東の空から太陽が昇りはじめていた。暑くなりそうだった。



 〈つづく〉 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ