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第30話 天使、降臨す

 「いったいどうやってこのフロアに侵入したのです? このフロアは試験場の関係者の中でも特別な資格のある者だけしか入れないのですよ」

 いつもは余裕のある毛瀬もこのときは動揺していた。

 「フォッフォッフォッ!」

 と宇宙人(グレイ)のお面の人物が笑い、

 「――そんなことよりさ、あんたのご自慢のウィルスがなぜ効かなかったのか、その理由を知りたくないのか?」

 と尋ねた。ボイスチェンジャーでも使っているのか宇宙人のような加工された歪んだ声だった。

 「な、なぜです?」

 「私がすり替えておいたんでね。炭酸の抜けたコーラとね!」

 そういってグレイは笑った。

 「コーラだと!? バカなッ。ふざけるな!」

 と毛瀬は拳銃を取りだし、グレイに向けた。

 「ふざけているのはあんたの方だよねえ。撃っていいぞ」

 とグレイがズンズンと毛瀬に歩み寄った。

 「来るなッ!」

 毛瀬が叫びながら拳銃を宇宙人のお面に向けて発射した。

 しかし、銃弾はお面をすり抜け、背後の壁に当たった。

 「なにッ!?」

 「ホログラムだよ。あんたも使ってただろ?」

 その声は不意に毛瀬の背後から聴こえた。

 「!?」

 毛瀬は振り返えろうとした。が、それよりも早く何者かが背後から毛瀬の股間を強く蹴り上げた。

 「うぐぁああァッ……」

 うめき声を上げて毛瀬は拳銃を落とし、股間を押さえてうずくまった。

 グレイがいつの間にか毛瀬の背後に立っていた。グレイは拳銃を拾い上げ、銃口を毛瀬の背中に押し付けた。

 「痛いよなあ? だけど、あんたが作ったゲヘナ99に感染するともっと痛いはずだぜ? 聴くところによれば細胞核を内側から燃焼させるんだってな? あんたにその苦しみを味わわせてやれないのが残念だよ」

 グレイが毛瀬の髪の毛をつかみ、引っ張り上げるようにして顔を上に向けさせた。拳銃をこめかみにグリグリと押しつける。

 「お前の頭蓋骨を今ここで脳味噌ごとバラバラにふっとばしてもいいが――」

 そう言いながらグレイは毛瀬の腕に巻かれていた腕時計型の小型デバイスのスイッチを押した。

 すると、小部屋(ブース)のガラス壁がゆっくり左右に開いた。

 小部屋からノマたち五人が出てきた。

 「キミは一体――?」

 と質問しようとした木村をグレイは手で制し、亞月のほうを見た。

 「まあ待て。なあ、アンコ……」

 「はいッ!?」

 突然自分のニックネームを知らない人間から呼ばれた亞月は驚いてヘンな声を上げた。

 「こいつを思い切りぶん殴ってやりたいんだろう?」

 と、グレイが毛瀬の顔を亞月に向けた。

 「これで勝ったなどと思うなよ……」

 毛瀬は諦念した目で捨てゼリフを吐いた。

 亞月は一瞬戸惑っていたが、意を決してうなずいた。

 「じゃあ遠慮なく!」

 亞月は力いっぱい毛瀬の顔を拳でぶん殴った。

 毛瀬は鼻血を垂らしながら、意識を失って倒れた。


 「おっと、こいつを外すのを忘れていたぞ……」

 グレイは宇宙人のお面を顔から外した。

 「えッ!?」

 一同が驚いた。

 グレイの正体は幼女だった。

 とくに驚いたのがノマだった。ノマの目の前にもう一人のノマの顔があったからだ。

 「なんで……」

 ノマとまったく同じ顔の幼女がノマを見つめ、

 「ノノだよ」

 と言った。

 「ノノ!? ど、どうしてノノが……」

 「2023年からタイムマシンで来たんだよ。お姉ちゃんを死から救うためにね」

 ノマは混乱していた。

 「……えッ、ていうことは……、中身は28歳の熟女!?」

 「そう。お姉ちゃんと同じ」

 ノノがにっこりと笑った。

 ノマはノノの手をつかみ、握った。ノマの手が震えていた。

 「ちょ、ちょっと待って。……ノノは、――つまり、死ななかったんだな?」

 「うん。お姉ちゃんから手紙をもらったからね。6歳のときに図書館で。――って、お姉ちゃんにとってはつい数日前のことだからモチロン覚えてるよね?」

 「ああもちろん。……そうか、ちゃんと13歳になったら読んでくれたんだな。ありがとう」 

 ノマはそう言い、ノノを強く抱きしめた。

 「色々話したいことはたくさんあるけど、まずは仕事だよ、お姉ちゃん。パンデミックの根源を絶たなきゃ」

 「そうだな。そのためにはどうすればいい? 毛瀬(こいつ)を殺せばいいのか?」

 と、ノマは気絶して倒れている毛瀬を指さした。

 「それではパンデミックの謎が永遠の謎になってしまう。藍の力を借りるんだよ」

 「そうか。サイコメトリー能力で毛瀬の記憶を読み取って――」

 「そう。こいつの記憶を全部いただくんだ。ケイド人に係わるすべての記憶をね」

 そう言い、ノノは藍のほうを見て、

 「力をセーブしなくていい。100%能力を出し切って、こいつの記憶を根こそぎ吸い取れ。それでこいつはもう何も思い出せなくなる。自分が誰かさえ、永遠に思い出せないさ」

 と言った。

 藍はうなずき、しゃがんで毛瀬の額に手を当てた。

 「いつもは力をセーブしてたのか?」

 とノマ。

 「はい、10%程度の力で読み取っていました」

 藍は目を閉じ、手に意識を集中した。彼女の手がオーラで輝いて見えた。

 

 およそ5分後。

 藍は目を開け、立ち上がって言った。

 「――この男のすべての記憶をもらいました。すべてのゲヘナ99のありかもわかりました」

 「どこだ?」

 と木村が訊いた。

 「この研究所の数ヶ所に分散して隠されています。全部で試験管が6本。それが今この世界に存在する試作人工ウィルスのすべてです」

 ノノはポケットから1本の試験管を取りだした。

 「1本はここにあるぞ。私がコーラとすり替えておいたからな」

 「じゃあ、あと5本だな」

 と零。

 「ねえ、みんなで手分けして探しましょう」

 と亞月が提案する。

 「私が隠し金庫がある場所の地図と、暗証番号を書きます」

 藍はテーブルの上にあったコピー用紙とボールペンを取り、地図を書きはじめた。

 「試験管を回収するのはいいとして……、その後、それをどうする? 指輪物語みたいに火山の火口にでも投げこむか?」

 と木村。

 「深い穴を掘って埋めるのはどうだ?」

 と零がアイデアを出す。

 「マリアナ海溝に沈めるってのは?」

 とノマ。

 ノノが首を横に振った。

 「どれも不完全だ。そういった方法ではゲヘナ99を永遠にこの世界から消し去ることはできない。なんらかの刺激でナノマシンが活性化したらどこにあってもパンデミックが起きてしまう」

 「じゃあどうすれば?」

 「私に任せてください。毛瀬の記憶の中に使える情報がありました」

 そう藍は言い、続けた。

 「UFOの格納庫の場所はわかりますよね? 試験管を見つけたらそこに集合してください」

 


 〈つづく〉

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