第25話 秘密研究所へ潜入せよ!
ノマ、木村、亞月、藍の四人は建物の通用口にやってきた。通用口は盆踊り会場とは真反対の位置にあり衆目にとって完全に死角だった。
通用口のドア上部にはガラスの窓があり、木村は慎重にそこから中を覗いた。暗い廊下が見えた。光は見えず、人の気配は無かった。
ドアの錠は数字入力式のものだった。0から9までのボタンが並んでいる。
藍が錠に触れる。
「8……4……3……9……」
サイコメトリー能力で読み取った数字を入力していく。
解錠されてドアが開いた。
四人は建物の中に侵入した。暗い廊下を慎重に進んでいく。
廊下の先に懐中電灯の光が見えた。警備員が巡回しているようだ。四人は柱の陰で息を潜めて警備員の気配が無くなるのを待った。
木村は音を立てないように静かにリュックを降ろし、中から折りたたまれたコンパウンドボウと数本の金属製の矢を取りだし、藍に渡した。
「弓矢は無音の優れた武器だ。もし何かあればこれを使って」
「ありがとうございます」
「なあ、私にも何か武器くれよ」
とノマが小声で囁く。
「そのドリルがあるだろう?」
「ドリルは近接戦闘用だ。もっとレンジがあるヤツが欲しいんだ」
「しかたがないな……」
木村はリュックからカーテンレールやらコイルやらダクトテープやらでできた手製の武器を取りだした。
「おお、見た目はカッコいいな」
「超小型の簡易レールガンだ。動力源は携帯電話のバッテリーだから出力は貧弱で殺傷力は無いに等しい。ただ、金属の物体ならボルトでもクリップでもだいたい飛ばせるからコケオドシぐらいにはなるよ」
警備員が近くにいないことを確認し、四人は再び慎重に歩きはじめた。
やがてエレベーターホールに出た。エレベーターのドアの横には各階にどんな施設があるのかが一目でわかる案内板があった。
亞月が懐中電灯の光で地下12階を示した。
「ここだけ空白になってる」
「この施設の最下層か……。そこが怪しいな」
木村はつぶやいた。
四人はエレベーターに乗って地下12階に向かった。
エレベーターのドアが開くと、ひんやりした空気が肌に触れた。
暗い廊下の先に、ドアが開いたままの部屋があった。薄ぼんやりした光が見えた。
「用心しろ」
と木村が声を低くして言う。
四人はより一層慎重に歩みを進めた。
ぼんやりした光の正体はコンピュータのディスプレイだった。部屋は無人だった。航空機やロケットの管制室に似た雰囲気の部屋だった。
「どうして一台だけ電源がつけっぱなしなんだ?」
とノマがつぶやいた。
「電源を消し忘れて帰ったんじゃない?」
亞月が言う。
藍がコンピュータのキーボードに触れる。
「……少し前までここで作業をしていた人がいます」
「そいつはどこに行ったかわかるか?」
と木村。
「さあ、そこまでは……」
コンピュータの画面はログインのパスワードを求める画面が表示されていた。席を離れるときに画面をロックしたのだろう。
「パスワードわかるか?」
「やってみます……」
藍は集中してキーボードのそれぞれのキーに触れていき、サイコメトリーで読み取った文字を一文字ずつ入力していく。
「ログインできました……!」
「ナイス!」
木村がそう声をあげた瞬間だった。バタンッと部屋のドアが閉まった。
四人は背後を振り返った。
お面をかぶった長髪の男が立っていた。屋台で売っているベタな宇宙人の顔をイメージして作られたプラスチックのお面だった。
「ぎゃああああッ!」
悲鳴を上げたのは亞月だった。
「コソドロのような真似をするとは……天国のお爺様が悲しみますよ」
と、お面男は藍を見て言った。
「何者だ?」
木村が背負っていた日本刀を抜き、男を睨みつけた。
「かはは! それはむしろ、こっちのセリフですよ」
と、お面の男は言い、さらに言葉を続けた。
「最近、農業試験場を嗅ぎ回っているヤカラがいるという情報が有志からもたらされましてねえ。そういうことをされると地味に困るんですよ。……しかしまさか、そのヤカラの一人が前所長のお孫さんだったとは、まったく予想してませんでしたよ」
「あなたは何者です? 宇宙人ですか?」
と藍はコンパウンドボウを構え、鋭い目で男を睨みつけた。
男は笑いながらお面を外した。木村よりもさらに10歳ほど年上の精悍な印象の初老の男だった。
「あなたは……!」
藍は男の顔を見て目を丸くした。
「知ってるのか?」
ノマが尋ねる。
「はい、父の店の常連客です。祖父の葬式でも見たことがあります。名前は知りませんが……」
と藍。
「私の名は毛瀬戒十郎。第七代襟猗農業試験場所長です。あなたのお爺様の後任ですよ」
「お前がここのボスってわけか。どうせお前も宇宙人にインプラントされて操られてるんだろう?」
と、ノマがレールガンを毛瀬と名乗った男に向ける。
「まあまあ。落ちついてください。そんな物騒なものを私に向けないで……。お嬢ちゃん、今、宇宙人に操られている、と仰っしゃりましたか? この私が」
「ああ、言った。図星だろう?」
毛瀬は乾いた声で笑い、両手を挙げた。
「かははは! こりゃ愉快だ! ――とんでもない。私は自ら進んで慧里彌様に協力しているのです」
「慧里彌様……。喫茶店のお爺さんがそんな名前を確か……」
亞月がつぶやいた。彼女は戦闘になっても積極的に参加するつもりは無いらしく、木村の背後に隠れるように立っていた。
「慧里彌様って実在したんですね……」
と藍。
「それが地球を侵略しようとしている宇宙人の名前なんだなッ!」
「宇宙人――という呼称はあまりにも漠然としすぎていて良くありません。慧里彌様の故郷は地球から16.4光年離れた〈エリダヌス座ο²星A〉の惑星、通称〈ケイド3号星〉からこの地に降臨された〈ケイド人〉なのです」
「そのケイド人とやらが今この地球で何をやろうとしているのか洗いざらい話してもらおうかッ! お前は自分の意志で協力していると言ったな? ケイド人がこの地球をどのように侵略しようとしているか、お前はその計画をすべて知っているんだなッ!?」
ノマは毛瀬の喉にレールガンの照準を定めて言った。
毛瀬はバカにしたような目つきでノマを見下ろしていた。
「そんな武器で私を脅せるとでも?」
「気をつけろ、ノマちゃん。そいつはケイド人の手先だからどんな超兵器を隠し持っているかわからんぞ」
と木村がノマに警告する。
「幼女をナめるなよ! 少しでもおかしな動きをしたらお前の喉をぶち抜いてやるからな!」
「――まあいいでしょう。この秘密研究所にせっかく来たんですからサービスとして少し教えてあげますよ。あなたたちはどうせ近いうちに死ぬのが決まっているのですから」
「私たちが死ぬのが決まってるってどういう意味ですか?」
藍が毛瀬を睨みつける。
毛瀬は近くにあったキャスター付きの椅子に座り、リラックスした様子で話しはじめた。
「順番に説明ましょう――。私たちは特別な契約をしたんですよ。慧里彌様とね。彼の故郷ケイド3号星は度重なる戦争で荒廃し居住に適さない星になってしまった。そこで彼らの移住先の候補として白羽の矢が立てられたのがこの地球だった。慧里彌様たち数名のケイド人が現地調査員として地球に派遣されたのです。……私たちが彼らとはじめて接触したの40年ほど前です」
「40年前と言えば、この村でUFO墜落事件があった頃だな」
と木村。
「よくご存知で――。その墜落した宇宙船に乗っていたのが慧里彌様ですよ」
〈つづく〉




