第24話 真夏の夜のスナイパーたち
ノマ、木村、亞月、藍の四人は思いのほか夏祭りを堪能していた。
亞月から3000円を臨時の小遣いとしてもらったノマは、焼きそば、焼きトウモロコシ、綿飴など食べたいものを欲望のままに買って消費してご満悦の様子だった。
「うめえ。祭りで食べるものってこんなに美味かったんだな!」
口から咀嚼中のものをポロポロこぼしながらノマが言う。
「屋台のって割高だけど、お祭りという特別なイベントのせいなのか妙に美味しく感じますよね」
と藍が微笑む。
「ボロボロこぼしてまるで子供だなあ」
と木村が笑う。
「うるへー。私は子供だからいいの!」
「この前までは『私を子供あつかいするなー』って怒ってたクセに」
「他にも欲しい物があったらどんどん買っていいのよ~。あたしを歩くATMだと思ってね」
亞月は食べ物をやたらと美味しそうに頬張るノマを見ながらニコニコしていた。
「おいおい、甘やかしすぎだろ~」
と木村。
「だってカワイイんだもん。甘やかしたくなっちゃうわよォ~」
亞月は屋台で買ったキンキンに冷えた缶ビールのプルタブを開けごくごくと喉を潤した。
藍はチョコバナナを食べていた。
藍をぼんやり眺めている木村の視線に気づき、藍はチョコバナナを木村に差しだした。
「……一口食べますか?」
「いやいや、いいよ。見ているだけで十分だから」
「見ているだけで満足できるものなのですか? 食べてもいいんですよ?」
藍の黒い瞳がまっすぐ木村の目を見つめる。
「……い、いやいや、本当に大丈夫だから」
木村は少し焦りながら顔の汗を拭いた。
「手を……つなぎませんか?」
「えッ!? ……いや、ボクの手、今すごい汗ばんでるから――」
木村は慌てて手を引っ込めた。
「うふふ。どうしたんですか、そんなに狼狽して。何か心に疚しいことでもあるんですか?」
藍は自分の顔をゆっくりと木村の顔に近づけていく。なんとなく猫が匂いを嗅ぐ仕草に似ていた。
「無い。無いよ。なんにも。そんなのあるわけないじゃないか……」
困惑する木村を愉しむように眺めたあと、藍はフフッと笑い、木村から離れていった。
木村は額から吹きでた汗を拭きながら、もし悪魔というものが実在するのだとしたら藍のような美少女の姿で誘惑してくるんだろうな、と思った。
「……気をつけよう……」
と木村は小声で独りごちた。
亞月が肩を落としている木村を見て声をかけた。
「楽しんでる? どうしたの、そんなツラして?」
「まあ、いろんな意味で楽しんでるよ」
「ほらほら、見て。ノマちゃんすごいのよ。射的で次々に景品をゲットしてるの」
亞月が指さしたほうを木村が見ると、ノマが射的用のライフル銃をまるで戦場の狙撃手のように構えて景品に狙いを定めていた。顎を引き脇を強く締めたフォームには一切のスキが無かった。
ポンとややマヌケな音がしてコルクの弾が飛び、景品を倒した。〈現金三万円〉と描かれた小さな木の札だった。
「おっしゃーッ!」
ノマは幼女らしからぬ雄叫びをあげてガッツポーズをした。
射的屋のオヤジはすっかり意気消沈していた。
「お嬢ちゃん……本当に子供?」
「おう。正真正銘ツルツルペッタンコのお子様だぜ。なんなら確かめてみるか?」
ノマはオヤジにいたずらっぽくウィンクして見せ、ひったくるように一万円を三枚受けとった。
ノマはゲットした現金を亞月たちに見せびらかした。
「うえ~い! 諭吉ちゃんが三人だぜ~」
木村がノマの手から諭吉を取りあげた。
「これは預かっておく」
「おいッバカ! それは私のだぞ。返せッ」
「無くしたら大変だよね? だからボクがしっかり保管しといてあげるの」
「そんな見え透いた屁理屈で子供から金を取りあげるなんて~。横暴だ! 子供の性格が歪むぞ!」
「だって、ノマちゃんは銀行口座作れないでしょう? だからボクの口座に一時的に入れておいてあげるの」
「いや、私は現金で持つ主義なんだ! 金融機関など信用できるか!」
ノマはぴょんぴょん飛び跳ねながら木村の手の諭吉を取ろうとするが、大人と6歳児の身長差はいかんともしがたくまったく手が届かない。
「……しかしすごかったわ。ノマちゃんがあんなに射的が上手だなんて意外でしたわ」
と藍がノマに言う。
「高校のときに射撃部だったからな」
ノマは藍のほうを振り返り言った。
「どおりで……。素敵です、尊敬しますわ」
「いやあ、それほどのことでもォ……」
ノマは照れながら鼻を掻いた。
「戦力として期待できそうだ」
木村はノマの視界の外で諭吉を自分の財布に収めながら言った。
「私は今、じつは弓道部なんです」
と藍。
「おッいいねえ。自作の折りたたみ式コンパウンドボウもこの中に入ってるから、じゃあそれは藍ちゃんにあとで渡すよ」
木村は自分のリュックを指さした。
「コンパウンドボウは一度も触ったことがないのですが……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫大丈夫。狙いをつけてグッと引いてバッと撃つだけだから」
「はいッ」
「今の説明でわかったのか?」
とノマ。
「はい」
藍は笑顔でうなずいた。
木村は腕時計を見て声を抑えて言った。
「ちょうど頃合いだ。行動を開始しよう」
ノマ、亞月、藍はうなずいた。
「玄関から正面突破するのはさすがに目立つから避けるとして――」
木村が顎に手を当てた。
「……建物の北側に小さな通用口があったはずです。昔、祖父に忘れ物を届けたときにそこから入った記憶があります」
と藍。
「よし、そこへ行ってみよう」
〈つづく〉




