第23話 イッツ・パーティ・タイム
午後6時過ぎ。
襟猗村の農業試験場の駐車場に木村の軽自動車が到着した。
伊馬煉藍が事前に教えてくれたように、普段は厳重な警備がされている敷地内にいとも簡単に入ることができた。太陽は西の山へと姿を消し、ヒグラシの鳴き声が夏の夜のはじまりを告げていた。盆踊りはすでに始まっており賑やかな音楽が流れていた。
木村はトランクを開け、武器の類をリュックに詰めはじめた。一見するとガラクタのようなものばかりである。しかし木村は真剣な表情で武器を選び、これだと思うものをリュックに入れていく。
「えーと、これは要る。これは……まあ要らんか。これは要る……」
そんなことをしていると、懐中電灯を持った警備員が木村のほうに近づいていた。
警備員が木村に声をかける。
「あのー。見かけない顔ですが、この村の方ではありませんね。盆踊りの参加者ですか?」
「あーそうです」
と木村。
「……にしては、車にいっぱい道具を積まれていますねえ。なんですかこれは?」
「あ、触らないで。これは、その、商売道具でして」
「商売道具?」
と警備員が首をかしげ、木村が持っていた日本刀にしか見えない物体を指さした。
「その刀がですか?」
「あはは、これは玩具ですよ。私が作ったんです。中身は竹光です」
木村は持っていた日本刀をノマに渡した。
意外な重さのためノマは刀を受けとって思わずよろけてしまった。
「お嬢ちゃん、そのカタナ、見せてもらえるかな?」
と警備員。
ノマは大きく首を左右に振った。
「イヤイヤイヤ! これ私のだもん! 触ったらその汚い手を斬り落とすぞッ」
「まいったなァ」
と警備員が頭を掻く。
「ははは。私たちこう見えても手品師なんですよ。家族でね、手品をやるんです。子供会とか老人会とかで。この刀もマジックショーで使うんですよ、ほらよくあるでしょ、箱に美女を入れてグサッってやるマジックとか」
と木村が苦しまぎれの嘘をつく。
「へえ、マジシャンですか。私、マジック好きなんですよ~。100円玉にタバコを通すとかできるんですか?」
「え、ええ。まあ、プロですから……。そのぐらいは朝飯前ですよ~」
「じゃあ、何か見せてもらってもいいですか? 簡単なヤツでいいんで」
「えっ。いや……今はちょっと無理っていうか……」
警備員は木村の顔をまじまじと見て言った。
「あなた、本当にプロのマジシャンですか? お名前はなんていうんです?」
「き……北……北村です。北村一郎」
木村はとっさに偽名を名乗った。
「北村一郎さん、ね。なにか身分証を拝見できますか? 運転免許証でも構いませんが」
「えっ、身分証?」
「この車を運転してきたのでしょう? 免許証は当然ありますよね? もし無ければ警察に連絡しなければなりません」
「う、運転は……妻が」
と木村は冷や汗を流しながらが亞月を指さした。
亞月は手にビールのロング缶を持っていた。慌てて後ろに隠す。
「では、北村さんの奥さん。運転免許証を拝見できますか?」
「え、えっと……その……」
亞月がしどろもどろになる。
「まさか無免許でここまで車を運転されてきた、と?」
警備員が亞月を鋭い目で睨みつけた。
ノマは木村に「この警備員をやっちまえ」と目でメッセージを送ったが、木村は首を左右に振った。さすがに木村と言えども罪のない人を傷つけるつもりはないらしい。
そうこうしているところに、藍がやってきた。浴衣姿だった。
「あらあら、オジさま。着いていらっしゃったのね? でしたら電話ぐらいしてくださいな」
と、藍は木村に芝居がかったセリフを投げかけた。
「藍ちゃ~ん。悪い悪い。電話しようと思ってたんだけど、この警備員さんが質問攻めで邪魔してきてね~」
と木村が警備員を指差す。
警備員は藍を見て目を丸くした。
「伊馬煉前所長のお孫さん……! この人たちとお知りあいでしたか」
藍はうなずき、木村の腕に自分の腕を絡めた。
「父の兄の従兄弟の北村オジさまですわ。魔法使いなんですのよ」
「魔法使いじゃなくて、手品師ね。……あ、でも英語ならどっちもマジシャンか。あはは」
と木村が言いながら笑う。
警備員は藍と木村の顔を交互に見たあと小さく頭を下げ、
「……色々疑ってしまって失礼しました。どうぞごゆっくり盆踊りを楽しんでいっていください」
そう言って去っていった。
「――やれやれ、助かったよ藍ちゃん」
木村が額の汗を拭きながら藍に言った。
「ホント、サイコなんちゃらの能力はすごいわね!」
と亞月が感心する。
「藍ちゃん、浴衣で来たんだね。とても似合ってるよ。美少女度がさらに上がったんじゃない?」
と木村が藍の姿を見て褒めた。
藍は頬を紅く染め、
「ありがとうございます……」
と小さくつぶやいた。
「顔が赤いぞ~」
ノマが藍のほっぺたを指でつっつく。
「ノマちゃんもその格好カワイイですわ」
「アンコが作ってくれたんだ」
「アンコさんってすごいんですね」
「えへへ、そうかな?」
と喜ぶ亞月。
「さて、メンツが揃ったしさっそく作戦を開始しよう。イッツ・パーティ・タイムだ!」
木村はノマに持たせていた日本刀を背中に背負い、その上からさらにリュックを背負った。日本刀の鞘と柄は鮮やかな黄緑色に塗装されていたのでパッと見はまるでプラスチック製の玩具の刀のように見える。誰もこれが本物の刀だとは思わないだろう。
「待って待って。まだ空が明るいからもう少し経ってから行動を開始しない?」
亞月がそう提案した。
「そうですね……。建物の中にまだ残業している人もいるかもしれませんし……」
と藍。
「腹も減ってるしな! 腹が減っては戦はできぬぞ」
ノマも賛同する。
木村は腕時計を見た。
「じゃあ1時間だ。1時間後に敵基地への潜入を開始する。それまでは、みんなで夏祭りを楽しもう」
〈つづく〉




