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第21話 円環はおことわり

 翌朝、ノマと亞月は朝食を食べたあと、2人で出かけた。

 木村も「準備がある」と言い、軽自動車で出ていった。

 ノマと亞月は、電車に乗りN市へと向かった。良い天気だった。夏らしい入道雲が青い空に非現実的なまでの立体感を描いていた。

 亞月はハイテンションだった。電車の中で、ノマを自分の膝に乗せようとしたがノマは「恥ずいからやめろ」と頑なに抵抗した。

 電車内でキャッキャしている2人は、傍目(はため)からみれば若い母親とその娘のようだった。まさかまったくの赤の他人だとは誰も思わなかった。

 「ねえねえ、見て見て」

 と、亞月がトートバッグの中からスケッチブックを取りだして開いた。

 「おお、すごいな」

 スケッチブックに描かれたデザイン画を見てノマは感心した。魔法少女の衣装のデザインスケッチだった。細部まで細かく描きこまれていた。

 「午前3時までかかって描いたのよ~。どう? どう?」

 「アニメーターを目指していただけはあるな。ちゃんと背面のデザインまである。たいしたもんだ……」

 「えへへ~。もっと褒めていいのよ?」

 「これ、アンコのオリジナルなのか?」

 「そうよ~。色々な作品からインスパイアされている部分はあるけど、ほぼオリジナルよ」

 「才能あるんだな」

 ノマのその言葉を聞いて亞月はうつむいた。

 「こんなので才能って言われると逆に恥ずかしいよ……。あたしにもし本当の才能があったら、今こんなところにいなくて、東京のアニメスタジオで一線で活躍してるから……」

 「すまん、余計なことを言ってしまったな」

 肩を落としたノマを見て亞月は慌てた。

 「べ、別にいいのよォ。あたしが会社をクビになって実家に戻ってこなかったら、ノマちゃんとも出会えなかったんだし。これで良かったと思ってるのよ」

 「そうか。ところで、この絵の()()はなんだ?」

 とノマはデザイン画の少女が持っている武器を指さした。

 「ドリルよ」

 と亞月。

 「ドリル? 魔法少女がそんな武器を使うのか? 普通は魔法のステッキとか、そういう可愛らしいヤツだろ?」

 「うーん、どっちかっていうとロボットものや特撮系に多いデザインかしらねェ。……あたし、兄さんの影響もあってゴリゴリのロボ系とか特撮ヒーロー系も好物なのよねえェ。――ほら、しかもこの武器、変形もするのよォ~」

 と、亞月は得意げにスケッチブックの次のページをめくった。

 「うわ、すごいな。……でもなんかアグレッシブというか……凶悪さを感じるデザインなんだが、これはほんとうに魔法少女の武器なのか?」

 「ほらよく見て。随所にハートマークとリボンと羽根があしらわれているでしょ? カラーリングはピンクがベースで挿し色にパールホワイトとスカイブルー。この星の形の発光パーツはクリアパーツで内部のLEDが7色に光るのよ~」

 「お、おう……。説明だけ聴くと女児が好きそうな要素がぎっしりだが、しかし、妙に殺傷力が高そうに見えるのは何故なんだ?」

 「必殺技を放つモードだからよォ~。通常技で敵を生かさず殺さず痛めつけて体力をなるべく削っておいて、最後に必殺技で華麗にトドメの一撃を加えて爽快に勝利する。それが王道でしょォ?」

 「まあ、だいたいのアニメや特撮はそうだけど」

 「一言で言えば()()()よッ。ドリルも変形も発光も、全部ロマンのために必要なの。ロマンこそが人間が生きる意味そのものなのよッ! ……世の偉い人はそこんとこを全然わかっていな~い」

 「そ、そうなのか。……それで、話の腰を折って悪いが、この魔法少女には名前があるのか?」

 「魔戦幼女プニピュア」

 「プニピュア……って発音しづらいな」

 「一応、イメージソングも考えておいたわよ。――♪幼さは~魔性なの~プニプニで~ピュアピュアな~カワイさ地獄に堕ちなさい~♪」

 「なんだよそれ。しかも木村の歌と同じメロディじゃねえか!」

 「人気が出てきたらちゃんとしたシンガーソングライターに発注するから。とりあえずの仮っていうか」

 「人気が出たらって……おいッ、私をアイドルみたいに売り出そうと考えてるわけじゃないよな?」

 「まさか~ッ! ノマちゃんはあたしだけのアイドルなんだから誰にも渡さないわッ!」

 と亞月はノマに抱きつく。

 「暑いッ、抱きつくなッ。もう……」

 「うーん、お子様の甘い香りがするゥ~。スーハースーハー……」 

 「やめろッ、なんだよお子様の香りって。ただのシャンプーとベビーパウダーの香りだろうが。お前も同じもの使ってるだろ」

 「どうして恥ずかしがるの~?」

 「どう考えても恥ずかしいだろうが!」

 「親子ならこのくらい普通でしょ?」

 「いや、親子じゃねーし」

 「いっそのこと、親子になっちゃおうよ~。養子になって~」

 「養子って。私には戸籍がねえんだよッ」

 「もう一人のノマちゃんの戸籍があるじゃん」

 「いやいやいや、あっちのノマにはあいつなりの生活と人生があるから! 私があいつの戸籍を奪ったらあいつは小学校にも行けずに路頭に迷うだろッ!」

 「むー」

 「むー、じゃねえ」

 ノマはプリプリ怒りながらも、自分には戸籍が無いという事実に気づいて、急激にクールダウンした。

 亞月は、パンッと自分の胸を叩いてみせた。

 「あたしがノマちゃんを養ってあげる!」

 「……いや、そんなカッコつけて言っても、お前は無職だろ?」

 「はい……おっしゃる通りでございます……」

 シュンとする亞月。

 「アンコの才能を活かせる仕事があるといいんだけどな」

 「だから、あたし程度の才能なんてこの世には掃いて捨ててさらにお釣りが来るぐらいいるんだから~」

 「そもそも、お前がいちばん好きなものって何なんだ?」

 「えーと……幼女?」

 「それだろ」

 「えっ?」

 「幼女をテーマにして何かやってみるんだよッ!」

 「……誘拐とか?」

 ノマは渾身の力をこめて亞月の脇腹に鉄拳を見舞った。

 亞月は苦痛なのか幸福なのかよくわからない表情で、

 「いまのは……ジョークです……ほんとに……」

 と搾り出すように言った。



 〈つづく〉 

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