第20話 裸のつきあい
ノマと木村と亞月が、木村の家に到着したのは日没のころだった。
木村は長時間の運転で疲れたのだろう、家に着いてすぐにソファに死体のように横たわっていびきをかきはじめた。
亞月が缶ビール片手にまったりと湯船に浸かっていると、突然ガラッと戸が開き、浴室にノマが入ってきた。
「邪魔するぞ」
「えっ!?」
驚いたのは亞月のほうだった。
「ノマちゃん、裸……!? えっ夢でも見てる、あたし?」
「風呂にはフツー裸で入るもんだろ」
そう言ってノマは椅子の座り、体を洗いはじめた。
亞月は自分のほっぺたを抓ったりしてここが現実世界かどうかを確かめている。
そんな亞月をよそにノマは、
「……今日はヘンなことをさせてしまって申し訳なかった。アンコと木村がいなければ、うまくいかなかっただろう。感謝してる」
と言った。
「そんなこと、別にいいのよ」
「ノノが私の手紙を大事に保管して、13歳のときに読んでくれれば、ノノはたぶん死なずに済む。……そのために、私は自分の全身全霊を注いであの手紙を書いた」
「でもさ……、ノノちゃんにはまた会おうと思えば会えるじゃない? 今回のが最後のチャンスってワケじゃないんでしょう?」
「それは確かにそうだ。……しかし、私が言うのもヘンだが、もうこれ以上、歴史に干渉しないほうがいいのかもしれないとも思ってる。私が今日おこなった操作によって、歴史にどんな影響を与えてしまったのかわからない。私はもしかすると、とても恐ろしいこと――たとえば、オッペンハイマーが原爆を造ってしまったようなレベルの過ちを、犯してしまったのかもしれない……」
「ノマちゃんは、ノノちゃんを助けたかったんでしょう?」
「うん……」
「その気持ちに素直に従って行動したんだもん。それは正しいとか間違っているとか、そういう物差しで計れるようなことじゃないんじゃない? 自分自身の気持ちに嘘偽り無く忠実に従った、それだけのことだし、それは誰からも批難されるようなことじゃないと思うけどなァ……」
ノマは亞月のほうを見、少し微笑んだ。
「そうかな。そう言ってもらえて、心が少し楽になった。――アンコ、背中を洗ってくれないか?」
亞月はうなずき、浴槽から出てノマの背中を洗いはじめた。
「うわァ、すべすべねえ。うらやましいわァ」
「私はこう見えても28歳だ。お前のその気持ちはちょっとわかるぞ。ついでに髪も洗ってくれ」
「いいわよ~。お客さん、かゆいところは無いですか~?」
シャンプーをたっぷりかけて亞月はノマの柔らかい髪を丁寧に洗いはじめた。
「ははッ、なんか、お母さんみたいだな。気持ちいいぞ」
「お母さんみたい……か。あたしがそんな風に言われるなんて夢にも思ったことなかったわ」
「傷つけたか?」
「ううん、その逆。あたし、誰かの母親になれるとか、どうしても思えないの。自分が子供みたいだからね。子供を育てるとかまったくイメージができない。学校を出てからは毎日が仕事に忙殺されて……気づいたらこの年齢になってた。ビックリだよ。ちょっと前まで学生だったのに……。だから、嬉しかったのよ。お母さんみたいって言われて」
「私も似たようなもんだ。ここに来るまでずっと研究研究で。同世代の女たちは、恋だのオシャレだの結婚だの家庭だの……騒いでいたけど、私の価値観からあまりにもかけ離れている感じがして、そういう話題にはさっぱりついていけなかった。私はいつも周囲から浮いて孤立気味だった。学生の頃からずっと自分の居場所を探していた。宇宙を仕事場に選んだのは、たぶん地上に居づらかったからなんだと思う」
「あたしたち、ちょっと似てるかな?」
「たぶんな」
「あたしたち、友だちになれるかな?」
「うん、たぶんな」
亞月はノマの背後からノマを抱きしめた。
「おいッ」
と少し驚くノマ。
「友だちのハグだよ」
「友だちってそういうことをするもんなのか?」
「そうよォ」
と亞月はいたずらっぽく笑い、
「ねえねえ、明日、一緒に出かけようか?」
と言った。
「おお、いいぞ。どこへ行く?」
「こっちの世界でやってみたいこととか無いの? せっかく幼女に戻れたのよ? このチャンスを最大限に活かさない手はないわよ~」
ノマはしばらく考えて、言った。
「……ノノはさ、小さい頃からアニメとか好きでさ。アニメに出てるく魔法少女みたいになりたいってよく言ってたんだよな。それがノノの夢だった。バカみたいだけど、でも子供らしくてカワイイだろ?」
「あたしも魔法少女、大好きよォ~。日曜日の朝のアニメとか毎週欠かさずに観てるんだから」
「いい歳してヘンなヤツだなあ、お前。――なあ、なんか、魔法少女になれる的なやつ、ないかなあ? ノノの代わりに……ってのもヘンな話だけど、その、私が……」
「わかったわッ! あたしがなんとかしてあげるッ!」
「おっ、本当か? さすがアンコだな。でも先に言っておくと、私は金は無いぞ。木村にもらった500円はレターセットで使ったからな」
「あたしが仕事で貯めたお金が少しはあるから心配しなくて大丈夫よッ! ノマちゃんは大船に乗ったつもりでドーンと構えていれば大丈夫だから。あたしがノマちゃんを魔法少女にしてあげるッ!」
〈つづく〉




