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第18話 真実

 ノマと木村と亞月は、盆踊りの日に再会する約束を藍として、村を離れた。

 木村が運転する軽自動車で3人は木村の自宅に向かっていた。

 「結局、藍の父親は家に帰ってこなかったな」

 とノマが言った。

 「ああ。あの男はなんか怪しい……」

 と木村。

 「やっぱり農業試験場の関係者なのかなあ?」

 と亞月が訊く。

 「その可能性はおおいにあるね。もしそうなら盆踊りの当日に()()()あるかもしれない」

 

 帰りの自動車のなかでその話がそれ以上盛りあがることはなかった。

 ノマは、車窓の外の景色をアンニュイな表情でぼんやり眺めていた。

 亞月は、村を出たあとに寄ったコンビニで買ったビールのロング缶を飲みながらケータイで友人と話したりしていた。仕事をクビになったんだけどこれからどうしよう、というような話だった。

 

 木村がノマに言った。

 「考えごと、かな?」

 ノマは景色を見たまま動かず小さくうなずいた。

 「うん……」

 「別にムリに話さなくてもいいし、ボクもムリには訊かないよ」

 「木村は優しいんだな」

 「そうかな?」

 「なあ。木村は、どうしてオカルト研究家なんてやってるんだ? 昔からこの仕事をしたかったのか?」

 「ははは、こう見えても、学生のころは小説家になりたかったんだ。しかも純文学の小説家。気持ち悪いでしょ。何作か新人賞に応募したこともあるんだよ。でもダメだった。良くて一次選考。……小説家は諦めたけど、書く仕事をやっぱりしたかったから、サラリーマンを2年で辞めて、ライター募集の求人情報を見て面接を受けたら運良く受かって――現在に至るってワケ」

 「でも、どうしてオカルトなんだ? ライターの仕事ならオカルト雑誌以外にもたくさんあるだろ」

 「たしか小学3年のときかな、UFOを見たんだよ。昼間で、家族と一緒にクルマに乗ってて、ふと窓の外を見たら、空に銀色の円盤が飛んでたんだ。見間違いなんかじゃない。皿のような形の金属的な光沢をもつ物体が音もなく空を飛行していたんだ。感動したよ。運転していた父親もその物体を目撃した。でも見えたのは一瞬で、すぐに視界から消えてしまった。――その経験がキッカケで、ボクはUFOのことを調べるようになった。当時はインターネットが無かったから、おもに図書館でそういう本を読み漁ったよ」

 「それでオカルトに詳しくなったわけか」

 「ノマちゃんはどうして生物学者に?」

 ノマはすぐに答えなかった。しばらく黙っていたあと、ポツリポツリと話しはじめた。

 「……私には双子の妹がいた。ノノという名前だった。一卵性だから私にそっくりで、親でもときどき見間違えてた。似ているのは外見だけで性格は違っていた。……ノノはアニメやマンガが好きだった。絵が上手だったよ。……14歳のとき、ノノは死んでしまった。……自殺だった。睡眠薬をたくさん飲んでね。……遺書があった。ノノは将来を悲観していた。世界が悪い方向に向かっていることに耐えられなかったんだ。『真っ暗な未来しか私には思い描けません』って遺書に書いてあったよ。心やさしい子だったから、悲しいニュースを見るといつも泣いていた。私よりも感受性が豊かだった。一方、私はと言えば、鈍感でガサツだった。父親の影響なのか私は男っぽい性格に育った。でもノノは母親の性格に似ていた。母も繊細でよく泣く人だった。……私はノノが死んでから、ずっと彼女のことを考えたよ。どうしてもっと早く彼女の心の苦しみに気づいてあげられなかったのか、不甲斐(ふがい)ない自分を恨んだよ。……一時(いっとき)は、ノノが生きて、私が死ねば良かったのではないかとも思った――」

 木村はノマの独白を聴きながら、ずっと黙っていた。

 ノマは、何も言わずに自分の話に耳を傾けつづけていてくれる木村に心のなかで感謝した。

 ノマはずっと外の景色を見続けていた。いつしか雨が降ってきていた。クルマの窓ガラスを雨粒が涙のように流れ落ちた。ワイパーの音が嗚咽(おえつ)のように(きし)んでいた。

 亞月はいつのまにかノマにもたれかかって眠っていた。空の缶ビールが足もとに転がっていた。

 「――命というものに興味を持つようになったのは妹の死がトリガーだった。妹の死という具体的で個別の事象はやがて、死んだ人はなぜ生き返らないのだろう、という生命一般への問いにカタチを変えた。やがて、問いは〈死そのものの意味〉へとより抽象度を増していった。だから私は大学で生物学を学んだ。生物に必ず訪れる〈死〉という現象の謎を知りたかった。でも4年間の学びぐらいでは死の謎にはまるで近づけなかったから、大学院の博士課程にまで進んだ。でもやっぱり死の意味はわからなかった。院を出たあと、大学に残って研究を続けようかとも考えたけど、ちょうどそのときJAXIA(ジャクシア)が宇宙ステーションで働きたい生物学者を募集していたから応募したら採用されて、私はいつしか、地球の生命の根源と終焉を研究テーマにしていた――」

 木村はやはりずっと黙っていた。

 雨が強くなっていた。雷鳴も聞こえた。

 「――なあ、木村。……私は今までお前に〈嘘〉を言っていた。すまない……。私が2001年の地球(ここ)に来た理由なんだが、私は――」

 ノマはそこまで言い、木村の横顔を見た。木村の表情はいつもと変わらなかった。

 「――私は、ノノが死ぬのを回避したいんだ。それが私の本当の目的だ。2023年の仲間たちは私がパンデミックを阻止すると期待して私をこの時代に送りだした。私は彼らを騙した。そして木村も騙し、アンコも騙した……。みんな、私が世界を救うスーパーヒロインだと思っているけど、私はそんなんじゃない。自分の妹を助けたいだけのエゴイスティックな人間なんだ……」

 木村はノマのほうを見ることもなく言った。

 「ボクが君だったら、やはり同じことをしたさ。エゴイスティックじゃない人間なんていない。それでいいんだよ、ノマちゃん」

 「木村……」

 「それに、一人だけ真実を知っている人物がいるよ」

 「あ……。藍か」

 「彼女はサイコメトリー能力で君の〈本当の目的〉も見抜いたはずなんだ。だけどそれをあえて言わなかった。藍ちゃんは、先にボクと握手したよね。そのあとにノマちゃんと握手した。2人の記憶を覗き見て、情報の齟齬(そご)に気づいたはずなんだ。だけど、それを指摘することはしなかった。……なぜだろうね? それは彼女が人を思いやれる子だからさ」

 「私がこの世界で出会う人間はイイヤツばかりだな……。なあ木村、騙したうえに、さらにもうひとつ、お前に迷惑をかけていいか?」

 「妹さんに会いにいく。違うかい?」

 「すまない木村……。K市に向かってくれないか。そこにノノがいるはずなんだ」

 


 〈つづく〉

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