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第17話 プロジェクト・イライジャ、発動

 翌朝。

 ノマと木村と亞月と、そして藍の4人は喫茶店〈イライジャ〉で作戦会議を行うことにした。

 ノマが勢いよく店のドアを開けた。カウベルがカランカランと気持ちの良い音を立てる。

 「レスカくれ」

 ノマは席につくなり、店番の老人に開口一番そう言った。

 「じゃあボクは冷コーで」

 「あたしも同じく冷コーで。ガムシロつけてね」

 「私は……ロイヤルミルクティ。アイスで」

 それぞれが注文を済ますと、さっそく作戦会議がはじまった。

 「まずはこれを見てくれ」

 とノマがウエストポーチからポーンを取りだし、藍に渡した。

 「ねぇねぇ、それ何なの?」

 と亞月が覗き込む。

 「昨夜、ボクたちが泊まった部屋で見つけたのさ。たぶん藍ちゃんのお爺さんのものだと思う」

 「サイコメトラーの力でそれを見てくれ」

 ノマが依頼する。

 藍はしばらく目を閉じてポーンを触っていた。しかし、やがてポーンをテーブルに置いて首を横に振った。

 「見えません……。ブロックされているようです」

 「ブロックって、祖父のインプラントと同じか」

 とノマ。

 「はい、同じ材質だと思われます」

 「ってことは、これは宇宙人由来の物質ってことだな」

 木村は少し考えて、

 「サイコメトリーできないということは、この物質には()()()()()()()()()のかもしれない」

 とつぶやいた。

 「時間が流れていないってどゆこと?」

 と亞月。

 「通常の3次元物質というのは時間の影響を受けるから、鉄なら酸化して錆びるし、プラスチックなどは脆化(ぜいか)――つまり脆くなったりする。けど、もし物質の時間を人工的に止めることができたらどうだろう。それは、最初に生成された状態のまま永遠に劣化しない物質ということになるよね。もしこの夢のような技術が実現すれば、いわゆるUFOのような乗り物も造れると思うんだ」

 「へえすごいのねェ、これ」

 亞月はまじまじとポーンを見つめた。

 「オカルト業界には〈オーパーツ〉っていうジャンルがあるんだけど、たとえば一例で言うとインドのデリーには錆びない鉄柱というのがある。1500年も前に造られたものだけど、錆びずに当時の姿のまま残っているんだ。テクノロジーとしてはこのポーンよりも一段階(つたな)いものだとは思うけど、使われている原理は似ているのかもしれない。あと、これはあくまでも伝説的な話だけど、アトランティスで使われていたオリハルコンや日本のヒヒイロカネ、ロンギヌスの槍や三種の神器なども同じような物質なのかもしれない」

 木村は立て板に水を流すようにお得意の解説を披露した。

 老人がドリンクを持ってきてテーブルに置いた。

 「ごゆっくり」

 「ほー、これがレスカか!?」

 とノマはストローでグラスの飲み物を勢いよく(すす)った。

 「うまいな。だけど、普通のレモンスカッシュだな」

 「まあレスカはレモンスカッシュだから」

 亞月が冷静にツッコミを入れる。

 「――で。おい、これからどうするんだよ? なんか考えがあるのか?」

 とノマは木村に尋ねた。

 「農場試験場が()()()のは間違いから、なんとかして中に入れればいいんだけど……」

 と木村。

 「農業試験場は周囲を高いフェンスで囲まれていて、フェンスには高圧電流が流されています。門には警備員が交代で24時間います。さらに、監視カメラも各所に設置されています。……だから外から部外者が侵入することはまずできません」

 藍が淡々と話す。

 「えッ、まさか侵入しようとしてる? 犯罪だよ? ねえ犯罪だよッ?」

 話を聴きながら亞月がオロオロする。

 「世界を救うための悪だ。それは悪ではない」

 と断言する木村。そんな木村をうっとり見つめる藍。

 「どういう理屈よォ~」

 「うーん。たとえば、宅配業者とかになりすまして入るとかできないか?」

 とノマ。

 「試験場は契約している特定の業者しか入れません」

 しばらく考えていた木村は、ハッとなにかに気づいたように藍を見た。

 「そういえばさ、昨日、藍ちゃんが話してくれたアブダクションの話だけど――」

 「はい」

 「たしか、農場試験場で盆踊りがあった日だったよね?」

 「あ……」

 藍も木村の質問の意図に気づいた。

 「盆踊りは誰でも参加できるんだよね?」

 「はい……。その日だけは試験場の敷地の一部を開放して、出店なども並んでお祭がおこなわれるんです。キャンプで来ている家族や隣町から遊びに来た人なども参加してけっこうな賑わいです」

 「木村ァ、お前天才か! 盆踊りの客にまぎれて侵入しようってことだなッ」

 ノマは瞳を輝かせた。

 「今年の盆踊りはいつかな?」

 「確か……7月26日だったはずです」

 「今週の木曜か」

 「いいね」

 木村がニヤリと笑った。

 「準備するための時間も十分あるし、タイミングはバッチリだ。よし、7月26日を作戦決行の日とする。いいね?」

 「おおッ」

 とノマ。

 「私も行きます」

 と藍。

 「ねえ、ちょっとちょっと。あたしもそれに参加しないとダメ?」

 亞月が不安そうに訊く。

 「なんだ、アンコは世界を救いたくないのか? 人類が滅亡してもお前はいいのか?」

 と木村。

 「『行けたら行きますゥ~』みたいな返事はいらんぞ」

 ノマが亞月を睨む。

 「い、いや、だって、宇宙人がいるかもしれないんでしょ? あたし捕まって人体実験されるとか絶対イヤだからあァ」

 そう言う亞月の手をノマはギュッと握り、子猫のような上目遣いで亞月の瞳を見つめた。

 「ねえ、アンコも行こうよォ。ねェねェ?」

 「え、えと……で、でも……」

 亞月は内心かなりドキドキしていたが、他方に巨大な恐怖心もありなかなか心が決まらない。

 「アンコが一緒に行ってくれるなら、今日一緒のお布団で寝てもいいよ?」

 ノマのその一言で亞月の決心は不動のものになった。

 「えっ、ホント? じゃあ、行く!」

 「わーい」

 と子供のようにわざとらしく喜んで見せるノマ。

 木村は少し呆れ顔で、

 「ノマちゃん、アンコの操縦がうまくなってきたなあ」

 と笑った。

 「少し魔性を感じます……」

 藍も無表情でつぶやく。

 「じゃあ、名前を決めるか!」

 とノマ。

 「え。あたしとノマちゃんの子供の名前?」

 そう言った亞月の脇腹にノマは小さな拳を力いっぱい打ちこんだ。

 「ちげーよ。作戦名だよッ」

 「あ、作戦名ね……。いたたァ」

 脇腹をさすりながらも亞月は幸せそうだった。

 「〈プロジェクト・イライジャ〉はどうですか……?」

 と藍がつぶやいた。

 「イライジャってこの店の名前ね。なんかオシャレでいいんじゃない?」

 と亞月。

 木村は満足そうに微笑み、アイスコーヒーが入ったグラスを目の高さに掲げた。

 「よし、決まりだ! 本日この時刻をもって〈プロジェクト・イライジャ〉の発動を宣言するッ! 乾杯ッ!」

 「乾杯!」

 と、4人はグラスを合わせた。



 〈つづく〉

 

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