第15話 地球侵略計画
「亡くなった……? どうして?」
と木村が藍に訊いた。
「翌日の朝、祖父は仕事に行くと言って、何も持たずに家を出ました。様子が明らかにヘンでした。何かよくわからないことを叫びながら県道に飛び出し、トラックに撥ねられて死んでしまいました」
淡々と話す藍。一呼吸してさらに続ける。
「警察は交通事故死として処理しました。自殺の可能性も否定できなということで、トラックの運転手はそれほど重い罪には問われませんでした。……でも、遺書のようなものはありませんでした。祖父は自殺をするような人には思えません。それに、トラック運転手の証言によれば祖父は『助けてくれ!』と大声で叫けびながらトラックにぶつかってきたそうです。おかしいですよね、自殺をしようとしている人が助けてくれと言いながら死ぬなんて」
「不可解だな」
とノマが唇を噛む。
「祖父の遺体はその後、普通に火葬されたのですが、遺灰の中から奇妙な物体が発見されました。長さは5ミリほどで鉛筆の芯ほどの太さの小さな金属風のカプセルです。私はそれに触れてみました。サイコメトリーで過去を見ようと思ったのです。しかし過去の情報がまるでブロックされているかのようでアクセスができませんでした……」
「そのカプセルいったい何なのよォ……」
と亞月の声が震える。
「おそらく、エイリアン・インプラントだな。アブダクションされた人間はしばしば宇宙人に小さな装置を体内に埋めこまれるんだ。金属のように見えるが磁石にくっつかないし金属センサーにも反応しない。それが何の目的をもったものなのかは謎が多いんだが、たぶん遠隔操作や情報収集や監視に使われるんだろう」
と木村が説明する。
「私がいた世界でも、2022年にペットにマイクロチップをインプラントすることが義務づけられた。飼い主の名前や連絡先、ペット自身の生年月日など、そういう情報をチップに入れるらしい」
ノマが言う。
「お爺さんはきっとアブダクションされたことがあって、宇宙人に何らかの装置をインプラントされた。お爺さんは宇宙人に遠隔操作されて〈奴隷生物〉の研究をさせられていた……」
木村が自らの推理を口にした。
「一本の線につながってきたな。……しかし宇宙人はなぜ藍の祖父を殺したんだ?」
とノマは木村を見る。
「うっかりと極秘情報を藍ちゃんに教えちゃったからじゃないの? 意図的じゃなかったにしても」
と亞月。
木村は何かを考えるように宙を見つめたのち、
「サイコメトリー能力が発現したのはアブダクションのあとからということでいいんだよね?」
と藍に確認した。
「そうです。……でも、幼い頃からなんとなくそれに似た直感力みたいなものはありました。誕生日プレゼントの箱に触ったときにその中身がなんとなくわかったり、卵を割る前から黄身が2つ入っていることがわかったり……」
「なるほど。藍ちゃんの親族で占い師や霊能力者のような人はいないかな?」
「祖母がそうです。村のなかでいちばん霊感が強い人だと言われてました」
「――とすると、やはり藍ちゃんの能力は家系的なもので元々潜在的には備わっていて、アブダクションのときの宇宙人による何らかの措置によってブーストされ強力な能力として開花したと考えるのが妥当のようだね」
ノマは唸った。
「うーん。私は一応科学者だから、霊能力とかそういうものには基本的には懐疑的なんだが……、藍ちゃんの潜在能力に宇宙人が目をつけたというのはありそうな話だな」
「エイリアン・インプラントされていたお爺さんにはそういう能力は無かったんだね?」
「はい、祖父はとくに霊感のようなものは無く、ごくごく普通の人でした」
「なるほどなるほど。……すると、お爺さんはポーンで、藍ちゃんはクイーンか……」
「ポーンとかクイーンって何よ?」
と亞月が訊く。
「チェスだよ。ポーンというのはいちばん多い駒で、いわば使い捨ての兵隊。一方、クイーンは能力が極めて高いけど1つしかないから大切に扱わないと勝負に勝てない駒なんだ」
「なにそれ、コワっ。お爺さんみたいな人が他にも何人もいるってこと?」
「そう考えるのが自然だね。ポーンはおそらくたくさんいて宇宙人の計画を人知れず進めているんだろう。お爺さんが消されたのは、情報を漏らしたからではなく、単に計画にとって用済みになったからだけかもしれない。……ボクはむしろ、お爺さんが自分が消される可能性に薄々気づいていて、意図的に藍ちゃんに宇宙人の計画を――愛ちゃんのサイコメトリー能力を利用して――伝えたかもしれないって思うんだ」
そう言って木村は藍の瞳を覗きこんだ。
それを聞きノマはパンッと手のひらを合わせて鳴らした。
「宇宙人も人間の精神や記憶までは高度なテクノロジーを使っても監視できないんだ! だから、藍のサイコメトラーの能力に目をつけた……ってことか!」
「人間を完璧に管理しようとしたら思想信条までもコントロールする必要がある。だが宇宙人にとってその分野は疎かった。種族が違うから精神構造もだいぶ異なってるんだろう。従来の技術が使えない。だから人間の記憶を読み取れるサイコメトラーの能力を欲し、自分たちと藍ちゃんのDNAを掛け合わせてハイブリッドを造ることを試みた――」
「コワいィッ、コワすぎるんですけどッ!」
亞月が悲鳴のような声を発した。
「宇宙人の計画がハッキリと見えてきたね」
「だな」
ノマと木村が顔を見合わせる。
「今後のプランを改めて練ったほうが良さそうだな」
木村が考えはじめた。
「なになに、どうするつもりなの? まさか――」
亞月が声を震わせ、木村の袖を引っぱった。
「私にできることがあればお手伝いさせてください」
と藍が軽く頭をさげる。
「ちょっとちょっと、あんたたち、いったい何をするつもりッ? ねえッ!?」
亞月はパニック寸前だった。
木村はニヤリと不敵に笑い、言った。
「地球を侵略しようとしている宇宙人どもをぶっとばすのさッ!」
〈つづく〉




