第13話 サイコメトラーの闇
「私、サイコメトラーなんです」
と藍は言った。
「へえ、それは興味深い」
木村は目を輝かせ、バッグの中からビデオカメラを取りだして藍を撮影しはじめた。
「待って。サイコなんちゃらって何? ロボットアニメに出てくる兵器?」
と亞月。
「おい、撮影許可取ってねえだろ」
とノマは木村の脇腹にパンチを入れた。
「別に構いませんよ」
藍は落ちついた表情で言った。
「サイコメトラーだから、さっきボクに握手を求めたんだね?」
木村が脇腹をさすりながら藍に尋ねる。
「……ち、違います。あれは本当に握手をしてほしくて」
少し恥ずかしそうに藍がうつむいた。
「おい、サイコなんちゃらの説明はしてくれないのかよ?」
とノマが木村に言う。
「サイコメトラーというのは超能力のひとつで、触った物体の過去の履歴を読みとれるという能力なんだ。人に触った場合は、その人物の記憶も読みとれるといわれている」
「へえ、便利な能力ね。たとえば野菜に触れたら産地がわかっちゃうみたいな?」
と亞月が感心する。
「おい、本当にそんな能力あるのか? 信じれんな」
と眉をしかめるノマ。
藍は黙ったままノマの手を握った。
それを見て亞月は、
「あ~ッ! あたしもノマちゃんのプニプニお手々握りたいッ」
と言ってノマのもうひとつの手を握った。
「こらッ、ややこしいことをするなッ。お前はサイコメトラーじゃねえだろ」
とノマがもがいたが、藍は、
「じっとしてて」
と静かに言った。
ノマは仕方なく言われたとおりに動きを止めた。奇妙な沈黙の時間が流れた。
しばらくして藍がノマの手を離した。
「なるほど……。それでこの村に」
「私が何の目的でここに来たのかわかったっていうのか?」
藍はうなずいた。
「……はい。2023年に謎のウィルスで地球上の生物が全滅して、ノマさんたちだけ数名が生き残り、ノマさんは、ウィルスが拡がる前の時代に戻って世界の滅亡を止めるために、火星に埋まっていたタイムマシンを使って2001年にやってきた――。違いますか?」
「すげェ……その通りだ」
ノマは驚いて大きく見開いた目で藍の顔を凝視した。
「フッフッフッ、これがサイコメトラーの能力なのさ」
と木村が誇らしそうに言う。
「なんで兄さんが得意げなんだよッ」
と亞月がつっこむ。
「いや、アンコはいい加減その手を離せ」
ノマは亞月が握っていた手を振り払った。亞月は名残惜しそうに自分の手の匂いを嗅いでいる。
「信じてもらえて良かったです。……学校なんかでは私がこんな能力を持っていると知られると変人扱いされるから、この能力のことを知っているのは私の家族と友だちだけです」
「藍ちゃんがボクたちにその能力のことを教えてくれたってことは、ボクたちを〈友だち〉だと認めてくれたっていう認識でいいのかな?」
木村が妙にキリッとした顔で言う。
「おい、調子に乗るな」
とノマが木村の脇腹を殴る。
藍は恥ずかしそうにコクリとうなずいた。
「――このサイコメトリー能力はあることがキッカケで身についたものなんです」
「そのキッカケというのは?」
「宇宙人です」
「宇宙人?!」
ノマと亞月が声を揃えて言った。
「私……、小学4年のとき、アブダクションされたんです」
「ほう……」
「アブダクションって?」
と亞月。
「宇宙人による誘拐のことだよ」
と木村が説明する。
「誘拐!?」
再びノマと亞月が同時に言った。
藍は淡々と話を続けた。
「……あれは夏の夕方でした。私は、祖父が働いていた農業試験場に自転車で向かっていました。その日は試験場の敷地内で毎年恒例の盆踊りがある日でした。両親は用事で少し遅れて参加するということで、私だけが先に会場に向かったのです。……逢魔が時って言うんでしょうか、日が沈んだ直後で、空が朱色から藍色へのきれいなグラデーションを描いていたのを覚えています。農業試験場は森に囲まれているんですが、私がその森に入ったときでした。……自転車のハンドルが急に熱くなったんです。そして強い耳鳴りがしました。とても明るい光が見えて目の前が真っ白になりました。……気がつくと私は、道に倒れていました。私のすぐ脇に自転車が倒れていました。転んでしまったのかと思いましたが……、自転車を起こそうとしてハンドルを持つと、ハンドルのゴムのカバーが溶けて変形していました。……遠くのほうから盆踊りの音楽が聞こえました」
そこまで話し、藍はオレンジジュースを口に入れた。
「気を失っていたのはどのくらいの時間か、わかるかな?」
と木村が訊く。
「気づいたときには空が暗くなって星が見えたので、たぶん、30分から1時間ぐらいだと思います。私が盆踊りの会場に着いたときには、すでに両親が到着していました」
「なるほど……」
「アブダクションの話は以上です」
と藍。
「えっ」
と亞月が声を上げた。
「宇宙人、出てこなかったけど!?」
ノマも、
「うん。自転車に乗っていたら対向車が来てヘッドライトが眩しすぎてビックリして転んだ。たぶん転んだときに頭を打ったかして一時的に気を失っていた――。そういう話にしか聴こえんかったぞ」
と不満そうに言った。
「アブダクションというのはそういうもんさ。アメリカなんかでも数多くの報告があるけど、基本的なパターンは、夜道を車で走っていると眩しい光や奇妙な音が聴こえて車が急にエンストして止まってしまい、乗っていた人は気を失う。気がつくと同じ車のシートに座っていて、時計を見ると時間が経過している――。で、後日、退行催眠なんかをやると、記憶が飛んでいる時間の間にUFOに連れこまれ宇宙人に〈何か〉をされたという記憶が甦ってくる――」
「コワっ。宇宙人に〈何か〉されるって何よ……?」
亞月は心底怖そうな顔をした。この手の話が苦手らしい。
「何をされるかは、報告者によって異なっている。たとえば――」
木村はわざと声を低くした。亞月を怖がらせたいのだろう。
「血液を抜かれたり、毛髪や唾液を採取されたり、皮膚の一部を切り取られたり……」
「私は――」
と藍が小さな声でつぶやいた。
「――私は、宇宙人に妊娠させられました……」
〈つづく〉




