第12話 不思議美少女・藍
伊馬煉藍――。
それが肉丼屋の店主の娘の名前だった。
店主によれば藍は高校生だが、今は夏休みだから自宅にいるという。
店主は藍に、客が今から会いにいくからという旨の携帯メールを送ってくれた。
返信はすぐに来た。店主は指でOKのサインを作ってノマたちに見せた。
軽自動車でおよそ5分ほどのところに店主の家があった。
古い民家だった。〈伊馬煉〉という表札がかかっていた。
「伊馬煉藍。イニシャルで表すとA.I.――」
とノマが小声でつぶやいた。
木村が玄関チャイムを鳴らすと、しばらくしてパーマ頭の婦人が玄関の戸を開けた。藍の母親だろうか。
「こんにちは~」
と亞月が挨拶する。
婦人はノマと木村と亞月をジロジロと品定めするかのように見た。3人が並んで立っている姿は家族のように見えなくもなかった。
「どうぞ。中へ」
と婦人はノマたちを屋内へと招きいれた。
暗い廊下を歩きながら木村がノマに、
「ボクたちって家族みたいに見えるのかな?」
と小声で耳打ちした。
ノマは無言で木村の足を踏んだ。
ノマたちは客間へと通された。
ガラスのテーブル。ベルベット生地のソファ。大きなステレオ。昭和から時が止まっているかのような部屋だった。
「娘を呼んできますので」
と言って婦人は部屋を出ていった。
3人だけの部屋にしばらく沈黙が流れた。
「……普段ボク一人で取材してるときには、こんなにすんなり家に上げてくれるとか無いんだよねえ~」
と木村が小声で言った。
「それは兄さんが怪しいからでしょ」
と亞月。
「ボクって怪しい?」
「怪しい」
とノマも同意する。
「そうかなあ……」
そんなやりとりをしているうちに、部屋に一人の少女が入ってきた。長い黒髪の美少女だった。美少女はソファに座って小さな声で、
「藍です」
と名乗った。
「木村です」
「亞月です」
「ノマです」
とそれぞれ三人も名乗る。
しばらく間があり、藍は、
「――あの、あなたたちは……ご家族ですか?」
と尋ねた。
「はい」
と即答する木村。
ノマが木村の脇腹に鋭いパンチを入れた。
「ほ、ほら、この村って山や森があって、自然豊かってゆうか、だから、あたしたちキャンプ的なのでもやろうかなみたいな……」
亞月がテキトウな来村理由をでっち上げる。
「そうですか……。でも気をつけたほうがいいですよ」
藍が静かに言った。
「気をつけるって何をだ? ヘビでも出るのか?」
とノマ。
「違います……」
「じゃあ、幽霊でも出るのかな?」
と木村。
「幽霊も多少出るかもしれませんが……、いちばん気をつけるべきなのは――」
藍は少し言い淀んだが、しかし意を決して言った。
「――宇宙人です」
「宇宙人?」
亞月が聞きかえす。
「あなたたち……、本当はそのことを私に聴きに来たんじゃないですか?」
藍が澄んだ黒い瞳で3人を見つめた。
木村は財布から名刺を取りだして藍に渡した。
「ボクはこういう者だ」
「〈オカルト研究家 フェレンゲル木村〉――」
藍は小さな声で読みあげ、木村の顔を見た。
「――知ってます。月刊〈ウー〉で記事を書いてる方ですよね」
「驚いたな……。読者だったとは」
「〈ウー〉は全巻持っています。あと〈円盤と世界〉も全巻」
「へえー〈円盤と世界〉の読者でもあるの? なかなかの通だねェ」
「握手……してもらえますか?」
と藍が小さな声で木村に言い、細い手をさしだした。
「えッ……いいけど」
木村はドキドキしながら藍の手を握った。藍の手は少し汗ばんでいた。緊張していたのだろう。
「しばらく手は洗わないようにします……」
自分の手を見つめこころなしか嬉しそうに藍が言った。顔が少しだけ赤かった。
驚愕していたのはノマと亞月だった。2人は同じ表情をしていた。
「兄さんにこんな美少女のファンがいたなんて……」
「これが蓼喰う虫もなんとかってヤツか……」
そんな展開で軽く盛りあがっていると、パーマ婦人が部屋に再び入ってきた。婦人はテーブルにオレンジジュースが入った背の高いグラスを4つ置き、さらに霰や煎餅などの入った木の器をテーブルに置いた後、部屋を出ていった。
木村が煎餅をボリボリと食べはじめる。
「うまいな、これ。海苔が絶妙な風味を演出している」
「おい、食べてもいいけどボロボロこぼすな」
とノマ。
藍は小さな口でオレンジジュースをちゅるっと一口啜り、言った。
「私、サイコメトラーなんです」
〈つづく〉




