第10話 キャトルミューティレーションと謎の肉
木村とノマと亞月が襟猗村に到着したのは午前11時少し前だった。
木村は腕時計を見て、
「昼食には少し早い……か。喫茶店で少し休憩するか」
と言った。
昭和――というか、第二次大戦前から経営しているであろう古めかしい喫茶店があった。〈イライジャ〉という名前の店だった。3人はそこに入ることにした。
白髪の老人が新聞を読みながら店番していた。
薄暗く壁が煙草の煙で煤けた店内が、いかにも古の喫茶店という感じだった。ピンク色の公衆電話が置かれていた。メニューは少なかった。
「ボクは冷コーで」
と木村がメニューを見ずに老人に言った。
「じゃあ、あたしはレスカで」
と亞月。
老人はうなずき、
「お嬢ちゃんは?」
とノマを見て訊いた。
「えっ、ええッ? レイコー? レスカ? そんなのメニューに書いてないんだけどッ? 裏メニュー的なッ!?」
ノマは混乱しメニューを何度も裏返して見たりしている。
老人が笑って言った。
「冷コーちゅうのはアイスコーヒー。レスカちゅうのはレモンスカッシュのことだぎ」
「そ、そうなんだ……。えーと私は……。キャラメルマキアートあるか?」
「はあ? キャメル……? 煙草の銘柄け?」
困惑する老人。
「すまん。あるはずが無いよな……。アイスココアでいいや」
「あいよ」
と老人は店の奥へと入っていった。
「この襟猗村はオカルト業界では〈日本のロズウェル〉なんて言われたりもしてるんだけど――」
と木村が話しはじめた。
「ロズウェルってたしか……アメリカでUFOが墜落した事件の――」
と亞月。
「そう、そのロズウェル。1947年7月、ニューメキシコ州のロズウェルというところにUFOが墜落し、米軍がそのUFOの残骸と搭乗していた宇宙人の死体を回収した。これが最も有名なUFO事件〈ロズウェル事件〉だ。……だけど、日本にもそれに匹敵するようなUFO事件があるんだ。それが起きたのがこの襟猗村なんだよね。今から約40年前。UFOがこの村の山中に落ちてバラバラになり、黒焦げになった宇宙人の遺体が自衛隊によって回収されたと言われてる」
「そんなの作り話でしょ?」
とノマ。
木村はニヤニヤと笑う。
「さあどうだろうねェ。……でも、この村や周辺の地域でUFOの目撃談が多いのは事実だし、UFOを惹きつけるなんらかの要因があるんだろうなァ。あ、そうそう、この村には明治時代に作られた農業試験場があってね、牛の品種改良を大昔からやってるんだけど、その試験場の牛が過去に何度もキャトルミューティレーションされてるらしいんだ」
「キャトル……?」
「キャトルミューティレーション。牛や馬や羊などの家畜が何者かによって内臓と血液を抜き取られる事象のことさ。レーザーのようなもので内臓がキレイにくり抜かれてて血が一滴もこぼれていないことから、人間の仕業ではないと考えられている」
「つまり、宇宙人の仕業だってこと?」
と亞月。
「宇宙人だという確たる証拠が見つかっていないから断定はできないけどね。宇宙人説以外では悪魔崇拝者の仕業とか、コヨーテや狼などの野生動物の仕業とか、色々な説があるけどそれらを裏付ける決定的な証拠もまた見つかっていない」
「宇宙人が牛の内臓を食うってのか?」
とノマ。
「食べるとは限らんさ。何らかの学術的な研究をしてるのかもしれない」
「うーん……」
そんな話をしているうちに、老人が飲み物を持って戻ってきた。
老人はテーブルに飲み物を置きながら言った。
「慧里彌様だぎ」
「エリヤ様?」
ノマが聞き返した。
「この村の護り神の慧里彌様が牛の臓物をお召し上がりになるのだぎ」
「神様が牛の内臓を食べるんですか?」
と亞月。
「神様は牛が大好物なんだぎ」
と老人はニッコリ笑った。
「生贄っていう儀式が古今東西あるよね。ヤギや牛などを神に捧げるというアレ。でも、よく考えたら不思議じゃない? 超自然的存在である神がヤギや牛を食べるのかなあ」
「神が何者かは知らんが、我々と同じでタンパク質が必要なのかもな」
とノマ。
「牛の話をしてたら牛肉が食べたくなったなあ。お爺さん、このへんに肉料理が食べられる店ないかな?」
と木村。
「今の話で牛肉食べたくなるか普通……」
ノマは奇人を見る目で木村を見た。
「あるだぎ。肉丼がウマい店があるだぎ」
「肉丼? 牛丼じゃなくて?」
「肉丼だぎ」
「何の肉なんだ?」
「ワシも知らん。農業試験場で改良された動物の肉を使っとるちゅう話だぎ」
「だ、大丈夫なのかそれ? 遺伝子操作に失敗した動物の肉とか使ってないよな?」
とノマ。
「ふふッ、面白そうじゃないか、後でその店に行ってみよう。今日の昼食は肉丼で決まりだね」
木村は楽しそうだった。
「ええ~ッ」
「本気?」
「お爺さん、その店ってどこにあるの?」
「試験場のすぐそばだぎ。ワシが地図描いたるぎ」
老人は新聞広告の裏にかすれたマジックペンで地図を描きはじめた。
〈つづく〉




