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十二の色彩

 私は、油彩画が好きだ。

 そう思って美術系の高校へ進学し、美術部に入った。

 美術室は自分の想像よりも遥かに異なり、棚の上に石膏像が雑に並べられ、部員は皆ツナギ姿。

 今も部員の誰かが、頬に緑を付けて人物を描いている。顧問曰く、


「補色を下地に並べなさい」


 ということだそうだ。

 補色といえば、その二色を混ぜ合わせるとよりっぽい黒色になる。しかし、層に重ねると色がより強く、より鮮やかになるのだ。

 私はデッサンを学び、ひたすらに油彩画を描く。

 カブトムシだったり、馬だったり、湖のほとりに建つ小屋を描いたり。

 私はたくさん描いた。


 ──ここで気づく。

 私は絵の具の原色をそのままキャンバスに乗せることが好きなんだと。

 色彩で魅せることが得意なんだと。


 しかし私には、細かく描き込むことが大の苦手だった。

 思わず隣を見る。


「すげぇ……」


 私は思わず声に出した。平筆を長く持ち、キャンバスにそっと手を添える。たったそれだけの動作で流れる川の水を緻密に描いていた。

 少女は自分がキャンバスを見つめていたことに気づき、そっと微笑む。


「恥ずかしいから見ないで、まだ未完成だし……」


 「それで未完成とは?」と思わず表情に出てしまった。少女も気がついたのか、あまり高くない背でつま先を伸ばす。キャンバスを自分の身で隠した。


「俺はそんなに細かく描けないから羨ましいよ」


 私はそう、言葉を返す。


「そう?」


 少女が聞き返すと私は顔を縦に頷かせた。

 自分に足りない細かな色彩。

 まるで絵の具の基本セットの十二色をしっかりと使い切るみたいに、水面の描写は細かい。


 だから私は少女のことを意識するようになった。


 自分の持たない、細かな色彩を持つ少女が──とても羨ましかったのだ。

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