神精樹の真実
今回は過去話になります
凶夜達が魔人の世界へと行った後、愛心達はこの世界に潜んでいるナキアを捜索する事にした
「・・・と言っても・・・全く見つからないから結局は時間の無駄だったんだけどね・・・」
しかしナキアは今までと同じように一度、姿を隠したら見つけるのはほぼ不可能
そんな中で探すのは時間の無駄だと判断し待ち伏せする作戦に切り替えたのだが
「・・・そもそもあいつの狙いって世界の支配と魔人の王を倒す事よね?
世界の支配は別として魔人の王を倒すなんてそんな簡単な事じゃないのに
どうして先にこっちの世界へ来たのかしら?」
確かに愛心の言う通り世界の支配よりも難しいのは魔人の王であるファーシルの抹殺
それにも関わらずナキアは隙を伺う事もなく最初から裏切って真っ向から喧嘩を売っていた
つまりはそれだけの力をつける何かがこの世界に存在するという事だ
そして奏歌とリリムにはその力に対して心当たりが一つだけあった
「・・・おそらくナキアがこの世界に来た本当の理由は・・・神精樹です・・・!」
そう・・・ナキアが唯一、ファーシルに対抗しうる力と考えたのが
他でもない神精樹という存在だったのだ
「でしょうね・・・おまけに神精樹はファーシルに力を与えた存在でもある・・・
それなら尚更、狙わない理由はないでしょうね・・・」
さらにリリムは神精樹はファーシルに力を与えた一番最初の存在だと言う事も知っており
そんな存在の力を得られるのならば確かにファーシルにも対抗できるかもしれない
おそらくはそう考えてナキアも神精樹の事を狙っているのは間違いないだろう
「それなら急いで神精樹のところに行かないと!」
愛心の言う事に頷きながら三人は急いで神精樹の元へと向かった
(でも・・・本当にファーシルの力が今の神精樹を得て対抗できるほどなの?)
そんな中でリリムは一人だけ疑問に思っていた
魔人の王であるファーシルは実際に見た事のない彼女でも知れ渡るほど
そんな力を持っている相手に対して本当に神精樹だけの力で対抗できるのかと
しかし今のところは手掛かりらしい手掛かりもないので結局は神精樹の元に向かう事になる
「・・・なるほどな・・・確かにその可能性は十分にあり得るだろうな・・・」
話を聞いたキムアデスと大婆様もその考えには同意するようで
神精樹を守らなければならないと考えていたが
『・・・いや・・・それならばむしろ好都合だ・・・奴をここに誘き寄せろ・・・』
その肝心の神精樹が自分を囮にしてナキアを呼び寄せろと言ってきたのだ
「何言ってるのよ?!万が一にでもあんたの力を奪われたらそれこそ世界が終わるのよ?!」
愛心の言う通りいくら狙いがわかっていると言っても
それを完全に守りきれるかどうかまでは分からない
もし失敗して力を奪われたら本当に世界は終わりを迎えてしまう
しかし神精樹だけはそんな事にはならないという予感があったのだ
『確かにお前らの言う通り奴の狙いは間違いなくこの我の力を狙っているのだろう・・・
だが・・・たとえ我に残っている全ての力を奪ったとしても・・・あいつには及ばん・・・』
そう・・・ファーシルという存在に力を与えた神精樹だからこそ分かっていたのだ
今の彼は自分の想像を遥かに超える力を手にしてしまったのだという事を・・・
『たとえ根本は我の与えた力だったとしても・・・
おそらく既にあいつはそんなもの捨てている・・・
つまり・・・ナキアが我の力を奪ったとしても・・・それは無駄足になると言う事だ・・・』
神精樹の言葉を聞いても愛心達は何を言っているのか全く理解できなかった
それほどまでにスケールが大きすぎて内容を掴めない話だったのだ
でも・・・その話を聞いても一つだけ彼女達の中で変わらないものがあった
「たとえそうだったとしても・・・あんたをみすみす渡していい理由にはならないのよ!
いい?!私達は絶対に誰も見捨てない!
だからあんたの囮作戦も安全を最優先にして考えるからね!!」
それはどんな理由であっても神精樹を見捨てるという事は絶対にないという事だった
この世界をみんなに託された愛心達にとっては神精樹のその一つなのだ
ならばそれを守らなければ帰ってきたみんなに顔向けなど出来るわけもない
『・・・わかった・・・ならば好きにするがいい・・・
だがその前に・・・少しだけ昔の話をしよう・・・』
神精樹がそう告げるとおそらくは何かの力を使ったのか辺りの背景が急に変わっていく
そしていつの間にかその光景は遥か昔の時代へとなっていた
『これは遥か昔・・・まだ人間にようやく文化というものができた時代・・・
そして・・・我とまだ人間だった頃のファーシルが出会った時代だ・・・』
なんとその時代はあのファーシルと神精樹が出会った時代らしい
『かつてはこの世界にも人間以外の生物がたくさん存在した・・・
そしてその中には・・・強大な力を持っているものもな・・・
それ以外にもこの星以外からの侵略者などもいた・・・
それらから人々を守る為に彼らは英雄を求め生まれたのが・・・ファーシルだった・・・』
神精樹がそう説明すると人々の波をかき分けて進んでいく一人の男がいた
おそらくはそれこそが後に魔人の王となるファーシルなのだろう
『ファーシルは皆の期待に応えるように人々を恐怖の魔の手から守っていた
そして・・・仲間と呼べる者達にも出会っていった・・・
後にアースと呼ばれる者やそこにいる者もその一人だ・・・』
どうやらこの時代に後にアースと呼ばれる男や大婆様も出会っていたらしい
『だが・・・そんな彼らの力を持ってしても多くの侵略者と戦い続けるのは厳しかった・・・
そこでファーシルは新しい力を得ようと考え・・・我の元にやってきた・・・』
しかし当時はまだ特別な力を持ってはおらずファーシル達も戦い続けるのは困難だったらしく
そこで神精樹に力を貸して欲しいと頼みに来たのが彼らの出会いだったようだ
『当時の我はあやつの真っ直ぐな目を見て信用し力の一部を貸し与える事にした・・・
そしてあやつはその期待を裏切らず人々を守る為に再び戦い続けた・・・
だが・・・そんなあやつを裏切ったのは他でもない・・・人間だったのだ・・・』
次の光景に変わった瞬間に辺りは火の海へと変わっていた
そしてそこにはファーシルの仲間だったはずの人々が血を流して倒れていた
『・・・人々を守る為に得た力が逆に人々を不安にさせたのだ・・・
その結果・・・彼からの反逆を恐れた者達があやつを殺そうとした・・・
もちろん我の力を与えた者がただの人間に殺される事などなかった・・・だが・・・』
そう・・・確かにファーシルが殺される事はなかったのだろう・・・
しかし目の前に転がっているファーシルの仲間だけは違っていた・・・
『仲間を失い人々に裏切られたファーシルはもはや何を信じていいのか分からなくなった・・・
かくいう我も同じだ・・・あやつらは自分達でファーシルに戦いを押し付けておきながら
今度は我にそのファーシルを殺す力を寄越せと言ってきた・・・浅ましい生き物だ・・・』
神精樹の言葉には怒りと同時に悲しみの声も混じっていた
信じていた人間に裏切られた挙句に友を殺す手助けをしろと言われたのだから当然だろう
『・・・そして・・・全てに絶望したファーシルは
我をこれ以上、傷つけまいと封印を施した・・・
その時にはすでに・・・我を遥かに超えるだけの力を得ていた・・・
果たしてそれがファーシルの憎しみから出た力なのか・・・
それともこの星が人間に対して罰を与える為に与えたのか・・・
だが一つだけわかっているのは・・・
ファーシルという怪物を生み出したのは間違いなく・・・人間だという事だ・・・』
その言葉を聞いて愛心達は何も言えなくなってしまう
それだけの間違いを犯していても人間は別に変わってなどいないからだ
結局は力を求める者はいるし未知のものに対して怯える者もいる
「・・・それでも・・・あの時代でファーシルさん達が人々を守ったように
私達も人々を守り抜いてみせます・・・たとえどんな結末だろうと・・・!」
「ええ・・・それにあいつに一発お見舞いしてやらないとね!あんたの分も!
「・・・どうやらあなたの心配は無駄になったみたいね?」
神精樹の話を聞いても三人の想いは変わらず人々を見捨てる事などなかった
『・・・そうみたいだな・・・これならば昔のような間違いは起きないだろう・・・
これをお前達に見せたのは我らのような間違いを教訓にして欲しいからだ・・・
たとえどんな人間であろうとも変わってしまう事がある・・・
それが善であろうと悪であろうとな・・・変わらずにいる事・・・
一番難しく困難な道だが・・・お前達ならばその道を歩いていけるだろう・・・
我はそう信じている・・・!』
神精樹は自らの過去を話しそしてこれから学んで欲しかったのだ
たとえどんな人物でも優しい人になる事もあれば悪い人間になる事もある
そしてそれにはどんな小さな事でも人間の心が関わっている
だからこそ変わらないでいる事の大切さと仲間を信じる事を教えたかったのだが
どうやら目の前の三人・・・いや・・・他のみんなに対しても必要なかったようだ
彼女らの真っ直ぐな目に過去のファーシルを思い出し神精樹は安心していた
(・・・ファーシルよ・・・どうたらこの者達は
我らがすでに失くしてしまったものをまだ持っているようだ・・・
これでようやく・・・我の迷いと・・・そして未練も消えた・・・)
自らの過去を話した神精樹
それを聞いて強い決意を決めた三人にナキアの魔の手が迫る?!




