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クソゲー  作者: sora
5/6

ジャイアントザバルガル

「助けてくださってありがとうございました。」


さっきまで生まれたての子鹿のように震えていた女が、男が殺された瞬間に急に立ち上がって喋り出した。

鼻が高く、目が大きい。

長い髪は細く、艶やか。

なんて美しい女だ。

グレナゴンといい勝負ではないだろうか。


「別に助けたわけではない。」


クールなダニエルが珍しく照れている。

女はそんなダニエルの手をギュッと握った。


「ヒロコっていいます。なんでもします。私も連れて行ってください。」


お手本のような上目遣いで、ダニエルに懇願する女。

わざとらしく目に涙を浮かべちゃっている。

ダニエルはニヤつきながら目をそらすように空を見上げた。


「ま、いいんじゃね。ついてきたら?」


かっこつけるダニエル。

僕は見ていて恥ずかしかった。


「ごめんね、彼、話すのが下手なんだ。」


見てられなくなってフォローに入った。


「誰がコミュ障ハンサムだ。」


「そこまで言ってないよ。」


女はダニエルから手を離し、ふふ、と笑った。


「私、ヒロコって言います。よろしくお願いします。」


「俺はダニエル。」


「僕はヒトツバシススム。アサシンって呼ばれてた。」


「「我々はヤンなのだ。」」


僕達の最強チームにヒロインのヒロコが加わった。


空間を飛ばせるダニエル。

明日まで死なないヤンヤン兄弟。

右手を銃に変えれる僕。

彼氏を殺されたのにすぐに気持ちを切り替えて生きる為の行動に移した性格クソな美人ヒロコ。

僕達が死ぬはずがない。

突然カードが降ってきたあの日から、突然わけわからない世界になったけど、こんなわけわからない世界でも僕達はきっと生き続けられる。

何があってもこの五人なら、この最強なチームなら負ける気がしない。


ーそう思っていた矢先の出来事だった。


「「ヤーーーーン!」」


ザバルガルの下半身で遊んでいたヤンヤン兄弟が突然、

肉片になって飛んでいった。


「え?」


ヤンヤン兄弟の持っていたカードが宙を舞ってパラパラと地面に落ちた。

ただならぬ気配。殺気。

気温が10度ほど下がった。多分。


「ザバアアアアアアン!」


水から這い上がる時の擬音のようなダサすぎる鳴き声が響いた。

僕とダニエルは身構えながら声のした方向へと視線を変える。

声の主は物凄くデカかった。

わかりにくく例えるならヤンヤン兄弟の肉片10000個分くらいの大きさ。

わかりやすく例えるならザトウクジラくらいの大きさだ。

とにかくデカくて強そう。

さっき倒したザバルガルと粗方同じような容姿だが、右腕は100本ほどあるし、左腕は無い。

馬の下半身は足が生えすぎてムカデのようになっている。

頭の上には天使のような輪っか。

顔に口が二つ上下にある。

目は均等に並ぶ小さいのが10個ほど。

気持ち悪い。


もしかしてこいつが…。


「ジャイアントザバルガルぅううう!てめぇえええよくもヤンヤン兄弟をぉおお」


ダニエルが珍しく叫んだ。

そして状況判断が早い。

僕が、

あれがもしかしてジャイアントザバルガルかも、

って思ってる間にもう走り出していた。

でも、

待って。

ダニエル。

仲間のために熱くなるのはわかるけど、

ヤンヤン兄弟生き返るから。

あんた散々今まで殺してたじゃん。

それにあんた、突っ込んでるけど遠距離タイプの戦闘スタイルじゃん。


「ダニエル、待っ…」


僕がダニエルを止めようとした時には遅かった。

ジャイアントザバルガルの頭の上にある輪っかが物凄いスピードでダニエルを真っ二つにした。

さっき倒したザバルガルの下半身の隣に、ダニエルの下半身が倒れた。


「ダニエル、そんな、まさか、」


絶望的。

ヤンヤン兄弟は蘇生に時間がかかっている。

まだ右脚くらいしか蘇生されていない。

やばい。

僕1人でこんな怪物に勝てるわけがない。

かといってヒロコさんを一緒に戦わせるわけには…。

ヒロコをチラ見したら、ヒロコも僕をチラ見した。

目が合ったので一度目をそらし、もう一度チラ見をする。

またヒロコもチラ見をしてまた目が合った。


「ヒロコさん、ごめん。僕は弱い。」


「うん。私に任せてください。」


この数秒のやりとりの間、攻撃せずに待ってくれているジャイアントザバルガルの優しさを感じた。


「任せて?といいますと?」


「私、こう見えてすごいカード持ってます。」


ヒロコはそう言うと、指をパチンと鳴らした。


「「ヤーーーーン!」」


ヤンヤン兄弟が肉片になって飛んでいった。

さっき見た光景と全く同じだ。

あれ?。

そういえばさっき足までしか蘇生できていなかったのに。

いつのまに?


「あれ?俺さっき突っ込んでやられたよな?ん、腹が繋がってる。」


隣にはさっきやられたはずのダニエルが立っていた。

ダニエルはさっきがむしゃらに突っ込んで真っ二つにされたことを覚えていた。


「ヒロコさん、これってもしかして…」


「私、時間戻せるカード持ってるんです。すごいでしょう?。指パッチンで何秒か戻るらしいです。」


「最高じゃん。」


ダニエルはテンションが上がって、またジャイアントザバルガルに突っ込んで行った。

再びエンジェルリングに真っ二つにされた。


僕とヒロコは目を合わせる。

ヒロコは指パッチンをした。


「「ヤーーーーン!」」


ヤンヤン兄弟が肉片になって飛んでいった。

3回目の光景。


「あいつ、強えわ。」


ダニエルはあいつの強さにようやく気づいたらしい。

今度は無意味に突っ込もうとはしなかった、


「ダニエル、作戦立てよう。」


「ああ、そうだな。まずはお前が突っ込め。」


「ん?」


「あいつが怯んだところをドーンやるから。」


「いやいや、ちょい待って。無理無理。絶対僕死ぬじゃん。」


「死ぬ前にやるから。もし死んだらヒロコに時間戻してもらうからさ。」


ヒロコを見るとニッコリと微笑んで頷いた。

僕に断る権利はなく、半強制的にジャイアントザバルガルに突っ込まされた。

もうどうにでもなれ。

真っ直ぐに走っていると、エンジェルリングが飛んできた。

これは何度も見たから大丈夫だ。

右に転がって回避。

次に、無数の右手が蠢き、伸びるように僕を襲ってきた。

しかし、100本ほどある右手が一斉に僕を襲おうとしているので手同士でぶつかり合って僕にはなかなか到達しない。

僕の走る傍にズドン、ズドンと刺さっていく。


「ザバアアアアン!」


「いいぞ!その調子だ!さすがアサシン!」


後ろからダニエルの声が聞こえる。

いいから早く撃ってくれ。

ジャイアントザバルガルが本気出そうとしてるから。


僕はついにジャイアントザバルガルの近くまで到達した。

よし、ここから銃を撃てば確実に顔面に当てれる。

右手を銃に変え、左膝をついて銃を構えた。


「くらえ、スクリュードライバー!」


なんか唐突に技名を叫びたくなって、咄嗟に思いついたカクテルの名前を叫んでしまった。

めっちゃ恥ずい。

僕の放ったスクリュードライバーは真っ直ぐにジャイアントザバルガルの顎に向かって飛んだ。

勢いも落ちることなく、直線的に。

しかし。

当たる瞬間、いや、正確には当たる直前、透明な壁のような何かに弾かれた。


「な?!、」


「ザバアアアアン!」


僕はムカデのような無数の足にぐちゃぐちゃに踏み潰された。


「「ヤーーーーン!」」


ヤンヤン兄弟が吹き飛ぶ声で目を覚ますと、僕は生き返っていた。

ヒロコが時間を戻してくれたらしい。


「あれ無理じゃね?強すぎん?」


珍しくダニエルの心が折れかけている。

ここで諦めたらダニエルは明日死んでしまうのに。


「うん、あれは強すぎる。死ぬのめっちゃ痛かったし。」


「無理だ。あいつは強い。」


「じゃあ明日生きることを諦めるって言うのか?ダニエル。」


「誰が諦めるって言った?」


「じゃあどうするんだよ。」


「お前らは逃げろ。」


「は?」


「これは俺の戦いだ。お前らの命は関係ない。」


「何言ってんだよお前。」


ダニエルは僕に背中を向けた。

ジャイアントザバルガルに手をかざしている。

一人で戦おうとしているのだ。


「いけ。お前らを死なせたくない。」


ついさっき僕を囮にしたくせに、どういう心変わりだこいつ。

というのが本音。

でも、


「行かない。1人を置いて行けない。」


ダニエル一人をこんな怪物の前に残して置いていくなんてそんなことできるわけないじゃないか。


「行けって言ってんだよ!お前らは邪魔なんだよ!」


そんな、こんな所で僕達の最強チームは終わりなのか。

違う、違うだろ。

僕達全員が揃って最強なんだろ。

一人で戦うなんて言うなよ、ダニエル。

僕だって、

僕だって…。


「「ダニエルの漢気を無下にしちゃいけないのだ。」」


いつのまにかヤンヤン兄弟が復活していた。

何故か今回はやたらと復活が早い気がする。


「ダニエルを置いて行くって言うのか?」


ヤンヤン兄弟は黙って頷いた。

手に持っているカードをダニエルに向かって投げる。

盾のカードと、剣のカードと、スキャンのカード。

それはヤンヤン兄弟の持っている、武器になるカード全てだった。


「「使えるカードは置いておくのだ。頑張るのだ。」」


ヤンは僕を担ぎ上げた。

ヤンはヒロコを担ぎ上げた。


「ヤンヤン兄弟、やめろ!離せ!」


「「離さないのだ。」」


「離せバカ!」


ヤンヤン兄弟は離してくれない。

こいつら、思った以上に力が強い。

腕がびくともしない。


「ありがとよ、ヤンヤン兄弟。」


ダニエルは背を向けたまま言った。


「「生きるのだ。」」


僕とヒロコはヤンヤン兄弟に担がれて、ダニエルを置いて逃げてしまった。

気休めかもしれないが、僕も銃になるカードを手放し、ヒロコも時間を戻すカードを手放した。

ダニエル、すまない。

ダニエル、どうか、どうか生きてくれ。

生きて、また再会しよう。


僕達は泣いた。

ヤンヤン兄弟も泣いていた。


最後に大きな音が背後から聞こえたが、僕達には振り返る勇気がなかった。


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