ハズレのカード
6月12日。
目を覚ますと、僕はボウリング場ではなくて全く知らない倉庫で椅子に括り付けられた状態で座らされていた。
身動きが取れない。
口にはガムテープを貼られており喋る事もできない。
何処なんだここは。
ダニエルも、ヤンヤン兄弟もいない。
もしかして、やはりダニエルは最初から僕を殺すために仲間のふりをしていたのか。
「やあ。やっと起きたかい。」
倉庫の奥の方から出てきた男。
スキンヘッドのヒョロガリのいかにも弱そうな男。
えっと…。
誰だ。
「君の仲間たち、強すぎて君をここに連れてくるの大変だったよ。」
まさかこいつ、あの二人を殺ったというのか。
だとするなら相当な強さだ。
「君を拘束したのは他でもない、君に頼みがあるからだ。」
男は僕の頭を掴んだ。
顔を近づけて鼻の先まで顔を近づけてくる。
息が臭い。
口を塞がれ鼻でしか息ができない状況なのに僕を殺す気か。
「トウマくんを探している。」
トウマくん?
え、誰?…。
「君ならトウマくんの居場所を知っていそうだと思ったんだ。」
なんだって。
知っていそうだ、なんて確信がないのに直感で僕は捕らえられたのか?。
僕はこの男も知らないしトウマくんも知らない。
「さあ、言うんだ。トウマくんは何処にいる。」
言えと言われても口を塞がれているから何も言葉を発せないんですけど。
この男、もしかして相当な馬鹿か?。
まずこの口に貼っているやつを外せよ。
トウマくんも知らないし。
わざわざ拉致して拘束までしやがって。
「そんなにトウマくんをかばうのか。」
かばうも何も、何も知らないし、何も言えないんだって。
何処の誰だか知らんが、僕が命をかけてまでかばうようなやつじゃねーだろどうせ。
「時間がない。早く言うんだ。」
時間?なんの時間だよ。
時間がないなら早くこれ外せよ。
「トウマくんだよ、トウマくん。知っているだろ?何処にいるか言うだけでいいんだよ。早く、早く、早く。」
男は勝手に焦り出した。
汗が噴き出している。
顔が真っ青だ。
「早く早く早く早く早く早く早く早くぅあううううううあああうう」
男の顔は膨れ上がり、ボウリングの玉のように丸くなり、
パァン。
と破裂した。
真っ赤な血が飛び散って僕の顔にかかった。
最悪だ。
そして、一体なんだったのだろうか。
僕はこの状態で取り残されてどうしたらいいのだろうか。
とりあえず何もできないので目を閉じて眠りについた。
目を覚ますと、ダニエルとヤンヤン兄弟が助けに来てくれていた。
「助けにきたぜ相棒。」
ダニエルがカッコつけている。
いつから相棒になったのかわからない。
ヤンヤン兄弟は倉庫の入り口のほうでじゃれ合っていた。
少しは僕を心配しろ。
「「この男、ジョーカー引いたらしいのだー。」」
顔が破裂したスキンヘッド男の周りをヤンヤン兄弟がくるくると周りながら言った。
「ジョーカー?」
「なんかカードに指令が書いてあったらしいぜ。こいつに関してはその指令が息子に会うことだったらしい。」
「そんなカードもあるのか。なるほど、その指令をクリアできなかったら今みたいになるってことか。でもなんで僕が捕らえられたんだ。」
「佐藤と仲よかったからじゃね。」
「佐藤?なんで佐藤?」
「え、もしかしてもう忘れた?佐藤斗真。俺が思わずノリで殺しちゃった佐藤。」
「あー、佐藤ってトウマだったのか。」
「名前知らなかったのかよ。ワーオ。」
拘束を外してもらい、倉庫の外に出た。
外には目を疑うほどの地獄が広がっていた。
無数の死体が転がっており、中央には山のように積み重なっている。
赤い血が流れ、肉片も散らばっており、臭いがすごい。
死体は全員黒のスーツを着ているようだがこいつらは一体なんなのだろうか。
「大変だったよ。こいつら倒すの。流石にこの人数は疲れた。」
「この方々はどなた?」
「さっきのやつの手下?かな。多分。お前攫って行くときも大勢で来てたから止めれなかったんだよ。」
「そうなのか。助けにきてくれてありがとう。」
「お礼なんていいよ。相棒。つーかそろそろカードが落ちてくる時間だぜ。」
ダニエルが空を見上げて、僕もダニエルの視線を追うように空を見上げた。
ヤンヤン兄弟は無意味に肩車をして、空に手を伸ばしている。
それから1時間後。
ようやくカードが降ってきた。
4枚。ひらひらと風になびかれながらも確実に僕たちの元へと舞い降りてきた。
僕は右手でキャッチをした。
ダニエルはジャンプしてキャッチをしようとして失敗。
ヤンヤン兄弟は肩車をしている位置が10メートル程ずれていた。
僕の拾ったカードは…。
ー
これを持っていれば6月13日死にません。
ー
やった。昨日に引き続きまた当たりカードだ。
これでまた一日寿命が延びた。
ほかの三人はどうだっただろう。
ヤンヤン兄弟を見てみると、ヤンとヤンが二人で顔を見合わせていた。
まさか、ジョーカーだったのか?
「ヤンヤン兄弟どうだった?」
僕が歩み寄ると、二人は同時にこちらを向いた。
「「生きれるのだー。」」
どうやら二人とも当たりだったらしい。
カードを見せてもらった。
ー
これを持っていれば6月13日まで絶対に死にません。
ー
ー
このカードは5秒間目を合わせた人間のカードと同じになります。
ー
なるほど。だから今、二人は目を合わせていたのか。
それにしても'絶対に死なない'というのはもしかして…。
僕は右手を銃にしてヤンの頭を撃ち抜いた。
至近距離で撃ったのであっという間に頭が弾け飛んだ。
しかし、
「「やめるのだー。びっくりするのだ。」」
弾け飛んだ頭が逆再生のように戻り、生き返った。
これは面白い。
次は違う方のヤンを撃ち抜いてみた。
すると同じように弾け飛んだ後、復活した。
こっちのヤンもちゃんと能力をコピーしているらしい。
強い。。
僕のカードより当たりだ。
ダニエルはどうだったのだろうか。
「ダニエルどうだった?ヤンヤン兄弟面白いぞ。」
ダニエルはカードを見たまま深刻な表情をしている。
一度空を見上げ、溜息をついた後、カードを地面に投げつけた。
「ファーーック!」
「ダニエルどうしたんだ。」
「ジョーカーだよジョーカー。クソだな神ってやつは。この俺様にジョーカーを引かせるとはな。」
ダニエルは地面に投げつけたカードを何度も何度も踏みつける。
靴底についた血でカードが真っ赤になっていった。
「ちょ、ダニエル、落ち着けって。なんて書いてあったんだよ。」
「あ?、見ろよ、これだぜ。意味不明だろ。やってらんねーよ。」
僕は踏みつけられていたカードをつまみ上げ、書いてあった文章を読んだ。
ー
joker
このカードを手に入れた者は6月12日に死ぬ。
死にたくなければジャイアントザバルガルを殺すこと。
ー
ダニエルの言う通り、たしかに意味不明だ。
ジャイアントザバルガルって何だ。
どんな生き物だ。
人ではないのは間違いなさそうだが、これは厄介なカードだ。
「大丈夫、僕達も手伝うから。」
「本当か、相棒。」
「「我々に任せるのだー。」」
「そうだ、ヤンヤン兄弟もいれば最強だぜ。こいつら明日中までは絶対死なないから。」
「ありがとう、お前ら。」
僕達は硬い握手をし、結束力を高めあった後、ジャイアントザバルガルという奴を探しに街に繰り出した。
街に行くと、僕に目を潰されたボディービルダー系男子が壁に手をついて徘徊していた。
こいつ、まだ生きていたのか。
ものすごい生命力だ。
ヤンヤン兄弟が無邪気に駆け回りボディービルダー系男子にぶつかって、転倒させた。
「「ちっ。邪魔だな。」」
僕は見てはいけない表情を見てしまった気がする。
ヤンヤン兄弟は倒れたボディービルダー系男子に痰を吐き捨てた後、また元の表情に戻ってはしゃぎだした。
1時間ほど街を練り歩いたが、ジャイアントザバルガルにはなかなか遭遇しない。
そもそもジャイアントザバルガルが何なのかわからないので知らないうちにすれ違っているのかもしれない。
ただ、手がかりも見つかっていないので、それっぽいものもわからない。
徐々にダニエルが苛立ってきていた。
先程からヤンヤン兄弟を何度も殺している。
無邪気に走り回るヤンヤン兄弟は何度も弾け飛んでは何度も蘇生を繰り返している。
「あ、あれ!」
僕はついに見つけてしまった。
住宅街の一角。
人より大きな何か。
下半身は馬、上半身は人間。
ケンタウロスのような何か。
人間の上半身からは6本の腕が生えている。
右手が5本で左手が1本。
腕アシンメトリーだ。
あんな生き物見たことがないし聞いたこともない。
あれは絶対に、それだ。
「「ザバルガルなのだ!」」
先を歩いていたヤンヤン兄弟が叫んだ。
二人が指を指している先を見ると、その生物の胸に名札が付いていた。
上半身裸の皮膚に、埋め込まれるように名札がある。
'ザバルガル'
そいつは間違いなくザバルガルだった。
生きた人間二人を襲おうとしているところだった。