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クソゲー  作者: sora
2/6

新しいカード

次の日、6月10日。

橋本さんはカビた餅を喉に詰まらせて死んだ。

僕は橋本さんの死体に手を合わせた後、外に出た。

次のカードを待つためだ。

昨日は、クラスメイトが死んでからだいたい1時間後くらいに次のカードが降ってきたから、今日もおそらくそろそろ降ってくるのではないかと予想した。


案の定一枚のカードが僕の元に舞い降りてきた。


このカードを他人と交換すれば6月11日に死にません。


なるほど。

次は協力パターンか。

これは今一人でいる僕は完全に不利だ。

かといって街に繰り出して見知らぬ人と交換するのはコミュ障だから無理。知らない人と話すなんてそんなの死ぬより難しいって橋本さんが言ってた。

という事で、学校に戻ることにした。


「おおおい、交換してくれよぉ〜。」


僕に目を潰されたボディービルダー系男子が壁に手をつきながらさまよっていた。

あの状態で昨日、カードを二枚揃えたことにビックリだ。

交換してあげてもいいが、目の潰れた見ず知らずの人間に関わっちゃいけないと橋本さんが言ってたから、やめておこう。

煩かったので蹴り倒して学校に向かった。


僕と同じ考えで学校に来ていたのは五人。

僕が来たことでちょうど六人になり偶数になった。

全員が交換できる。


「ヒトツバシススムくんも来たんだね。」


隣のクラスの吉田が言った。

ヒトツバシススムって誰だよ、と一瞬思ったが、よく考えたら僕のことだ。

最近、アサシンって呼ばれていたから自分の名前を忘れかけていた。


「私達はもう交換を終えたわ。残ってるのはグレナゴンだけよ。」


細山さんが太い腹を揺らしながら言った。

グレナゴンとは、学校一美しいと言われている女子だ。

その美しさに男子は一目見ただけで脳が破滅すると言われている。


「「我々も交換を終えたのだぁ。」」


双子のヤンヤン兄弟は、今日もどっちがヤンでどっちがヤンかわからない。

どっちもヤンだからどうでもいいが、こいつらはそもそも学校に来て交換する必要があったのかどうかもわからない。

とりあえずそれは置いておこう。

グレナゴンが僕に近づいてきた。

今日も美しい。脳が破滅してしまいそうだ。

ああ、なんてフローラルな香りなんだ。

匂いからも攻めてくるなんて。


「交換してあげてもいいけど条件があるわ。」


独特なアクセントの喋り方はさておき、

声が枯れているのが気になる。


「「条件だと?」」


僕ではなくヤンヤン兄弟が反応した。

なんだこいつら。

気づいたら吉田と細山はイチャイチャしている。


「私とセックスしなさい。」


「かしこまり」


僕は喜んでグレナゴンとセックスをした。

それはもうやばいのなんの。

土のグラウンドの上で、ヤンヤン兄弟と吉田と細山の声援に後押しされながら発射した。

頭の中お花畑。

カードを交換するのかしないのか、死ぬか死なないか、そんなことどうでもよくなるくらいの快感が僕を貫いた。


「まあまあね。これから一緒に行動してあげてもいいわ。」


僕はグレナゴンとカードを交換し、仲間になった。

僕達六人は一人になる事を恐れ、学校に泊まることにした。

吉田と細山が近くのコンビニで食料を調達し、ヤンヤン兄弟が近くのホームセンターでベッドを調達してきた。

僕とグレナゴンは屋上で缶コーヒーを飲みながら星を眺める。

曇っていたので一つ、二つくらいしか星が見えなかった。


「今日はパーティーだ。」


吉田が奇妙なステップを刻みながら言った。


「もう、大好き。」


細山が吉田に抱きつく。


「「命にカンパイ」」


ヤンヤン兄弟が缶ビールをコツンと乾杯した。

吉田と細山も缶を合わせ、僕とグレナゴンもコツンと乾杯をした。

今ある命に感謝して、一先ず今日を生きれた事を祝おう。

明日にはまた新しいカードが降りてくるかもしれない。

でもこの六人ならなんとかなる気がする。


6月11日。

晴れ。

僕達は無事、誰も死ななかった。

そして、そろそろ次のカードが降りてくるであろう時間を迎えた。

屋上から降りず、カードを待った。

吉田と細山は腕を組んで空を見上げ、ヤンヤン兄弟は地べたに仰向けに寝そべり、僕はグレナゴンのおっぱいを揉みながら待った。


「あ、来た。」


舞い降りてくる六枚のカード。

今日もきっちり一人一枚ずつ拾った。


「うおお、なんだこれ。」


吉田が驚く。

見ると右腕が拳銃に変形していた。


「なにこれー、私こんなのいやだー。」


細山は左手の親指の爪が巨大化し、盾のようになっている。

一体なにが起きているのだろうか。


「「我々のカードには手が剣になるって書いてあるのだー。」」


ヤンは右手が剣になり、ヤンは左手が剣になっている。

どうやらカードに書いてある通りに体が変形しているらしい。

僕にはなんの変化もない。

カードには、


これを持っていれば6月12日死にません。


と書かれているだけ。

グレナゴンは…。


「ねえ、あなた。」


僕をジッと睨んでくる。

ああ、なんて美しい。


「なんだい?」


「あなたのカードにはなんて書いてあるの?」


「えー、えーと、そうだねぇ、なにも書いてないね。真っ白だ。」


僕だけが死なないカードを持っていることが知られれば、吉田に撃ち抜かれ、細山に潰され、ヤンヤン兄弟に切り刻まれるに違いない。

咄嗟に嘘をついた。


「おかしいわね。私のカードには、他人の持っているカードが見通せる、って書いてあるのよ。」


僕の全身から汗が噴き出した。

やばい、殺される。

考えるより先に体は動いた。

走り、屋上から退避する。

ドアを開こうとするが焦って上手く開けない。


ガキュン!


僕の直ぐそばを何かが貫いた。

振り返ると吉田の拳銃から煙が出ている。

撃たれたのだ。

やばい…。

やっとの思いでドアを開き、階段を駆け下りた。

後ろからヤンヤン兄弟が追ってきている。


「「待つのだー。切り刻んでやるのだー。」」


ヤンは右手を振り回し、ヤンは左手を振り回している。

かすりでもすれば一瞬で皮膚が切り裂かれそうだ。

階段を3階から2階に降りヤンヤン兄弟の視界から消えた瞬間に、廊下に走り教室に飛び込んだ。

即座にしゃがみこみ、隠れる。

すると、ヤンヤン兄弟は気づかずに通り過ぎて行った。

ふう、危なかった。


掃除用具入れから箒を取り出し、気休めかもしれないが武器として持っていくことにした。

こっそりと教室を出る。

音を立てずに息を潜めて。

運良く誰もいない。

よし、今のうちだ。

反対側の階段に向かって廊下を走った。

その時。

正面に吉田と細山が現れた。


「うわ!」


咄嗟に持っていた箒を投げつける。

細山の親指爪盾に弾かれた。

その影から、膝をついて右手に左手を添えて狙いすましている吉田。

やばい、撃たれる。

踵を返し、先程までくだっていた階段に向かって全速力で戻った。


ズギュン。


顔の真横を弾丸が通過する。

間一髪、なんとか廊下を脱して階段を駆け下りた。

玄関。

これを出てグラウンドを突っ切ればとりあえずは街に逃げ込める。

そう思っていたのもつかの間。

今度はグレナゴンが行く先に立ちはだかる。


「待つのよ、あなた。」


正直、なんの武器も持っていないグレナゴンは雑魚。

僕は全速力のまま横を通過した。


よし、逃げれる。


校門に人影が見えた。

その人影はなにも武器を持っていないように思えるが…。

そうだ、あの人に助けを求めよう。

あの人には僕が死なないカードを持っていることはバレていない。


「おおい、助けてくれ。」


校門の前に立つ人に向かって走る。

徐々に見えてくる人物。

背が高い。髪がくせ毛。

肌が黒い。


「ダニエル!?」


そこにはダニエルが立っていた。

やばい、やばい、やばい。

ダニエルも僕を殺すかもしれない。

しかし、後ろには、グレナゴン、吉田、細山、ヤンヤン兄弟の順で追ってきている。

どうする…?!

迷っている暇はない。

ダニエルを突っ切る!。


ダニエルの横をすり抜けるように校門の外に飛び込んだ。

するとダニエルが僕に囁いた。


「任せろ。」


僕は振り返る。

ダニエルがグラウンドから追ってくる奴らに向かって手をかざした。

一体なにをするんだ。


フッ。

とダニエルが笑いを零した瞬間。

とてつもない砂埃がグラウンドを舞った。

そしてその砂埃は直線的に、先頭を走るグレナゴンにぶつかる。

グレナゴンの腹部は弾け飛んだ。

赤い血飛沫とともに崩れ落ちるグレナゴン。

続いてその後ろを走っていた吉田に向かって手の方向を変えるダニエル。

吉田は驚き、その場で右手の銃を構える。

銃から球が発射された。

しかし、銃の弾は数メートル進んだ先で何かにぶつかり、その場に落ちてしまう。

何かにぶつかったのは弾だけではなく吉田も同じく。

頭が弾け飛び、体が倒れた。


「なんなのあいつ!」


細山が恐れおののき、方向転換をして校舎のほうに逃げようとする。

ダニエルは容赦なく、細山の背中に狙いを定めた。


ゴフン。


細山は盾を構える暇もなく後ろから何かにぶつかられ、大きな腹が弾け飛んだ。

残るはヤンヤン兄弟だけだ。

目の前で起こるダニエルによる大量虐殺に僕は圧倒され、その場から動くことができない。

ヤンヤン兄弟は…


「「降参するのだー。」」


二人揃ってグラウンドの中央で綺麗な土下座を披露していた。

ダニエルは手をパタリとおろした。


「ふん、いいだろう。」


ダニエルは僕を見た。

その目は冷たくて、黒色が深く、闇のようだった。


「ダニエル…。君は一体…。」


「空間を飛ばせるんだ。かっこいいだろ。」


僕はダニエルに一生ついて行くと決めた。

ヤンヤン兄弟も同じように、綺麗な土下座でダニエルの仲間入りを果たした。


ダニエルはヤンヤン兄弟を立ち上がらせ、グラウンドの中央に僕を招くと、聞いてもいないのに今までどのようにして生きていたのかを語り出した。


「昨日さ、交換したら死なないっていうカードが落ちてきたからさ、街で目を潰されてるムキムキの人と交換したんだ。で、あー腹減ったなーと思ってコンビニにあるパン全部食べ尽くしちゃって、あー暇だなーと思ってもう一人彷徨ってた人とカードを交換してみて、その人と一夜を過ごしたんだけど、いびきがうるさくて首を絞めて殺しちゃった。いい人だったんだけど、いびきうるさかったら死んだほうがマシだよね。で、今日になって、1人彷徨ってたわけ。寂しいから学校行こうかなーとか思ってたところで、このカードが落ちてきてさ。テンション爆上がりけり。ちょーかっけーのなんの。このカードを持ってたら空間を飛ばせますっつって。」


ダニエルのべしゃりが止まらないので、僕はヤンとヤンの違いを見つけようと観察した。

ヤンは首に小さなホクロがあり、ヤンは若干眉毛が短い。

難しい間違い探しだ。


「あ、そうだそうだ。ヒトツバシススムくん、君は明日死なないカード持ってるんだよね。」


やばい、どうしよう。

持っていることがバレたら僕まで殺されるのではないだろうか。

どうする。嘘をつくか。


「えっと。」


「持ってるんだね。いいのいいの、持ってなかったらあげようかなと思っただけだからそんな身構えなくて。」


「え、あげる…?」


「うん、さっき門の外で空間試し打ちした時に三人殺しちゃって、ちょうどその三人が明日死なないカード持ってたから。今三枚持ってんの。ヤンヤン兄弟いるかい?」


「「ありがとうなのだー」」


僕達は一先ず学校から離れることにした。

ここまで騒いでいたら他の人間が集まってくる可能性があるからだ。

僕達はもう明日までカードを争うことはしなくていい。

穏便に生きられるのだから。

と、その前に。

吉田と細山とグレナゴンからカードを奪って置く事を忘れてはいけない。


これを持っていれば右手を銃にできます。


これを持っていれば右手の親指の爪を盾にできます。


これを持っていれば他人が持っているカードがわかります。


一気に三つもゲット。

今、僕達は最強なのかもしれない。

ダニエルの判断で、銃のカードは僕がもらい、盾をヤン、スキャンをヤンが所持することになった。

ヤンヤン兄弟は2人揃ってスキップで歩いた。

ダニエルはそれが目障りなのか、スキップの着地の瞬間に地面を破壊し、ヤンヤン兄弟を転倒させた。

それでもヤンヤン兄弟はスキップをやめない。

ダニエルはヤンヤン兄弟を転倒させるのをやめない。

しかし、何度も倒れて何度もスキップをする。


僕がそれを20回ほど数えた時、目の前に別の人間が現れた。


ヤンヤン兄弟はとっさに腕を剣に変形させた。

ヤンは左手を剣に、右手を盾にしている。

ヤンは右手を剣にした状態で相手のカードを見通した。


「槍を飛ばせるらしいのだ。」

「りょうかいなのだ。」


ヤンが言ってヤンが返事をすると、ヤンが突っ込んだ。

ヤンはヤンの盾に隠れて後ろをついて行く。

相手の投げた槍をヤンが難なく盾で防ぎ、後ろにいたヤンがヤンの肩を使って大きくジャンプし、落下と同時に相手を斬りつけた。


「「倒したのだー。」」


ヤンヤン兄弟の連携は完璧で、

僕達の出る幕はなかった。


それから僕達は襲ってくる敵を危なげもなく抹殺し、落ち着ける場所を探した。

抹殺した相手のカードは、しょうもないのばかりで奪う価値もなかった。


雨が降ってきたので、近くにあったボウリング場に入った。

中には大量の死体が転がっていた。

ボウリングの球に頭を潰された死体が大量にある。

レーンの先にピンを倒した状態の死体もある。

ボールが返ってくる穴からひょっこりと出てきている死体も。

生きている人間は誰一人いなかった。


「ここ、いいじゃん。俺たちの拠点にしよう。」


ダニエルがそう言って、僕達はボウリング場に居座ることにした。

ボウリングをするのは久しぶりだったのでテンションが上がってしまい、球を投げたら別のレーンに飛んでいった。

ヤンヤン兄弟はボウリングの球でキャッチボールをしており、ダニエルはリフティングをしている。

僕はとんだ化け物どもと仲間になったものだ。

橋本さんが言っていたけど、名前がダニエルという人間は人類最強なんだとか。


疲れると椅子で横になった。


「なあ、そういえばグレナゴンの名前の由来知ってっか?」


ダニエルが右手をレーンの先にあるピンに向かって狙いを定めながら言った。


「本名じゃないの?」


「なわけあるか。俺、中学一緒だったんだけど。あいつ高校デビューなんだぜ。」


ダニエルが手をかざした先にあるピンが一瞬で全て吹き飛んだ。


「そうなんだね。」


「グレナゴンっていうのはさ、グレた清少納言っていう意味なんだぜ。」


「「へー。おもんな。」」


ヤンヤン兄弟は気絶させられた。

僕とダニエルは疲れて寝た。


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