表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/33

二十六話「生徒会長は一味も二癖も違う」



 玄関先で倒れる女性に、俺達は黙るしかなかった。

 まさか親友が友達を招いたのは、自身の失態を隠蔽する為に協力しろと脅迫するのが目的か。現場へと俺達を招く事で、後戻り出来ぬように。

 さて……どう逃げてやろうかな。

 数時間後には絶妙に不味い品が届くし、訪ねた中野の家では死人が出ている。

 ここ最近は数奇な運命を辿っている、と言ってもここまでの惨状は無かった筈だ。


 警察か某少年探偵を要請するか、硬直する俺達の環を抜けて、中野が揚々と進み出た。

 何の躊躇いも無く家に上がると、そのまま遺体まで近寄ってから屈み込む。

 顔は見えないが、高身長でスタイルの良い女性だ。よく見れば、路鉈高校の制服を着ている……それも男性用の。


 色々と指摘(ツッコミ)が追い付かぬ状況下で、唯一行動した中野は死体を手で揺すった。


「姉ちゃん、何してんだよ」


 その一声が掛かるや否や、今まで倒れていた体が発条(バネ)仕掛けの機械の如く、奇妙な撥ね方で立ち上がった。

 この前、ベッドの上に画鋲(がびょう)を置いたの忘れて寝た時、(ケツ)に突き刺さって思わず跳躍(ジャンピング・スター)した時の俺みたいである。


 一瞬、目前にA級ホラーでも降臨したかと見紛う体術で起き上がった彼女は、中野の両肩を摑んで双眸を輝かせていた。

 何してんだ中野、おまえ美人が接触しているぞ!

 いつものお前なら興奮してる筈だろ!


「もう、遅いわよ浩介!!私がどれだけ待機(スタンバイ)してたか知らないでしょ!?」


「その意味の判らねぇ歓迎の所為で、いっつも一家が変人扱いされてんだぞ」


「今見た辺りで、もう間違いないだろ」


「鍛埜くん、何か……言ったかね?」


 どうやら中野家の歓迎法らしい。

 先刻まで死体として突っ伏していたのは、中野の姉である。出会った事もなければ、話に聞いた事も無いので些か以上に新鮮味がある。

 凛々しい眉毛と茶髪のポニーテール、スカートの丈は足首に達するまでの長さ。

 顔立ちは美人の部類であり、明らかに可憐なヤンキーガール。


「皆さん、こんばんは」


「月が綺麗ですね」


「あはは、よく言われるわ」


「「「「嘘付けッッ!!!!」」」」


「どうも初めまして!中野浩介の姉、早希で~す。生徒会長やってまーっしゅ」


「「「「嘘~ン(トゥ)けッッ!!!!」」」」


「趣味は運動、嫌いな物は雑務!生徒会の日常は楽しいわよ!」


「「「「うっそ付けィ……!!!!」」」」


 見た目と職務のギャップが烈し過ぎて全く納得できない。こんな人が路鉈高校の生徒会を総轄してるなんて考えられないッ!

 ……いや、俺とか中野とか、そんなのが許容されている時点で、有り得るのか?これが総督(トップ)だから、俺達は……安心して活動できる。


「これから姉御と呼ばせて下せぇ!」


「ふふん、宜しい!では早急に餡パンを買って来い」


「初対面で人の友達を(パシ)んな」


 呵々大笑する早希さんは、廊下を踏み鳴らしながら居間へと向かった。その後ろを()いていく俺達は、彼女の背中に不安を抱いていた。

 中野の家に泊まる時点で幾らか怖い思いをしていた。

 敷波さんへの言葉に、何か新兵器らしき物の発動を示唆する部分があった。

 さらに一泊してる途中で、この姉がどれだけ介入してくるか。


 うん、夏蓮とか春は兎も角、如何に年上(タイプ)といえど度が過ぎとる。

 俺は梓ちゃん一筋なんだぞ、あの白衣姿の妖艶な先生に敵う訳がねぇ。


「中野、一応お前もアレだけど確認したい」


「鍛埜、訊く側なのに失礼な奴だな」


「お主の姉上は、我々にとって敵性個体であるか?」


「橋ノ本、姉ちゃんに後で謝っとけ」


「彼氏、居るのか?」


「斉藤、見境ねぇな」


 個々で持つ疑問が違った。

 俺の聞きたい内容を訊ねる奴が全く居ない。

 普通、あんな衝撃的な出会い方したら、もっと指摘すべき部分があるだろうが!!


 すると、中野はまたしても俺の心を察して微笑む。

 そこには、人生を達観した大人びた雰囲気を含んでいる。


「判るよ鍛埜、お前の言いたい事。姉さんは確かに変人だが、誰よりも家族想いな人なんだ」


「違う、スリーサイズが知りたい」


「上から一、一、一」


「棒人間よりは太くて安心だわ、超草だわ」


「お前も誰かのスリーサイズ言え」


「七六、七十、七十八」


「中々にスレンダーだな。いったい誰のだ?」


「俺のだ」


「大事だからメモっとこ」


「いやだもう、中野さんっておませねっ」


 この苛つく会話が終わる時、居間に着いた。

 それから畳に腰を下ろすと、早希さんが颯爽と茶を淹れてくれて、和菓子なども供してくれる。

 最初の印象は色んな意味で秀逸(アウト)だったが、人への気遣いが出来る辺りは最低限生徒会長なのだろう(めっさ失礼)。


 畳の匂いが微かに、そして心地よく鼻先に小さく触れる程度で薫って気分が落ち着く。

 こんな環境下で勉強が出来るのに、一体どうして住み着いたのは奇矯な中野(へんたい)なんだろう。

 俺だったら、この部屋で昼寝しかしないけど。


 俺達は礼を言ってから、茶を啜った。

 ……茶を……啜った。


「どう?お味は?」


「外見で騙されたけど、底の方で熱く滾るような赤色が見えるんですが……」


「結構なお点前で」


「それ本来ならこっちの台詞だけど、自信のある人は嫌いじゃないよ」


 油断も隙もない。

 人が安堵した途端に砲撃(ギャグ)をぶちこんでくる辺りが、中野すら可愛げに思える凶悪な精神を垣間見せる。

 天然ではない、計画的に楽しんでいる。

 泊まりに来た弟の友達を玩具にする生徒会長とか、俺が読んでるラノベでも錚々(そうそう)居ないぞ。


 中野は呆れて物も言えず、机に顔を伏せていた。

 判るよ、身内にこういう人が居ると処し難いよね。俺も最近は他人の複雑な家庭内事情を意図せず知ってしまったり、ナンパしたり、その度に幼馴染と同居人に脅かされたり。


「ちょっと浩介、そこで寝ちゃ駄目よ」


「姉ちゃん、俺の言いたい事わかるだろ?」


「そんなの判ってるわ!私も浩介大好きよ!」


「正解に掠りもしてねぇ」


 中野が俺の方へ情けない表情の顔を向ける。


「こんな事なら、橋ノ本の家が良かったかもな」


「夜通しでゲーム三昧だろ、死ぬわ」


「じゃあ、斉藤の家とか」


「ナルシズムな内装で、多分居心地が最悪だ」


「鍛埜の家しかねぇじゃん」


「死人が出る」


「お前は毎朝『復活の◯文』でも唱えて来てるのか」


「おこえのはかんときんならひしとつたって(以下略)」


「それいつのだ」


「明日用のだ」


 恐らく明日も必要になるのだ。

 でも、中野の部屋に閉じ籠っていれば、基本的に彼女は介入して来ないだろう。つまり、まだ対処法は幾らでもある。

 そう考えれば、俺達はまだお泊まり会を楽しめるんじゃないか?


 暫し早希さんの猛攻に耐えていた俺達は、引き際を見計らって立ち上がった。

 絶妙な撤退のチャンスを逃すわけにはいかん。


「よっし、取り敢えず中野の部屋で何か遊ぼう――――」


 ピンポーンっ。


 インターホンが鳴る。

 その瞬間、一同の顔が蒼白となる。


 そうだ、まだ地獄は終わっていない。


 第二の“敷波桐花の料理(ハート・オブ・ヘル)”はまだ、終わっちゃいなかった……。




読んで頂き、誠に有り難うございます。


次回も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ