最終話「ToNight_To_Knight」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
約束の時刻となった。
家を出て、鍵を閉める。先に出ていたロゼが、夜風で髪を揺らしながら、南地区の方角を見る。
仲間達と別れ、一週間が経った。琥珀箱で時折やり取りはしつつも、最近は連絡が無い。
相変わらずひとりでクエストをこなしていたゾディアックは、今日も漆黒の鎧を身に纏っていた。
「行きましょうか。ゾディアック様」
「ああ」
短いやり取りをし、歩を進める。
向かうべき場所は決まっている。深夜のサフィリアは、明るい時間帯に負けず賑やかな様子を醸し出している。
ゾディアックは右手にショートケーキが入った箱を持ち、ロゼを隠しながら、南地区へと向かった。
♢ ♢ ♢
インターホンが鳴り、扉を開けると、ふたりが立っていた。
「こんばんは。ゾディアックさん、ロゼさん」
長い髪をひとつに束ねたリリウムが微笑みを向ける。
部屋の中からはいい香りが鼻腔をくすぐる。
「料理中か?」
「ええ、今」
奥から金田の声が聞こえてくる。相変わらず何を言っているかわからない。
リリウムが柳眉を逆立てて腰をひねって後ろを見る。
「だからそいつは足に脳みそがあるんですって!!」
「;a@*1irequ9!! \|fa\__faq{dfa}」
「はぁ!? 言ったでしょ! さっき言いましたー!」
鼻を鳴らし怒りの声を発すると、ゾディアック達に向き直り微笑みを向ける。
「どうぞ上がってください。あ、ご飯は」
「もう食べてきたよ。何作ってんだか……」
ゾディアックは苦笑いを浮かべ、ふたりは部屋の中へと足を踏み入れた。
♢ ♢ ♢
室内にはよくわからない音楽が流れている。何を言っているかわからないが、メロディーは好みだった。それを流しながら、キッチンで金田とリリウムが料理に悪戦苦闘している。
適当に座っていてくれと言われ、ソファにこしかけ行く末を見守る。
「仕留めましたね! ボルテージ上げてください!」
【だから俺は魔法が使えないんだ。お前がここを離れてどうする】
「今日の料理当番はトラでしょ。文句言わない!」
【くっそ。ガサツ女】
「はぁ? 今なんて言いましたか? はぁ~?」
【ほら。中に火入ってるぞ】
「あ、いい感じですね。流石です!」
喧嘩をしていても、いい関係を築いてはいるらしい。
ゾディアックとロゼは顔を見合わせ、再び目を向ける。
「なぁ。まだかかるか?」
【……やっぱりちょっと呼ぶの早かったな】
「すいません、ロゼさん。今日は急に依頼が入ってしまって」
「依頼? どんなのだ?」
【「猫探しです」】
ふたり揃って、真剣な声色で答える。
それがどこかおかしくて、ゾディアックは噴き出してしまった。
それから数分後、遅めの料理を終えると、リリウムが料理をテーブルに置き、ソファに座る。
「あの、これ」
「なんですか? これ」
「ショートケーキ。俺とロゼが、作った」
「わぁ! 素敵です! ありがとうございます!」
そう言って立ち上がると、金田に寄る。
「トラ、一緒に食べましょ!」
【ああ。苺取ったら殴る】
「ちっちぇぇ……」
そう言って箱をしまうと、再びリリウムが正面に座る。
「料理、食べながら話てもいいですかね? 朝から何も食べてないんです」
「別に構わないが、真剣に話せよ」
「どうしてここに呼んだか、とかですよね」
金田もテーブルに料理を並べていく。
ゾディアック達は、今日になって突然リリウムに呼び出されていた。
何が目的なのかも言わず、時間だけを告げられ、今に至る。連絡先の交換は、以前の時に済んでいた。
先に座ったリリウムがフォークを手に取り、それでゾディアックを差す。
【リリウム】
「行儀については後で。ゾディアックさん。ロゼさん。単刀直入に言います」
リリウムが一度息を吸う。
「私達と、一緒に仕事をしませんか?」
沈黙が数秒流れ、ゾディアックは素っ頓狂な声を上げる。ロゼも苦笑いし、頭を振る。
「意味が分からん」
「前の依頼の時、あなた達がいると仕事の効率が上がると思いまして。まぁ簡単にいうとスカウトです」
「私はともかく、ゾディアック様は冒険者です」
「仲間をすべて失い、ソロで最近活動しているんですよね。それほど仕事もない様子ですし、どうですか? 報酬も払いますよ」
ロゼが唇を尖らせる。
変わるように、ゾディアックが口を開く。
「……話次第だ」
「ゾディアック様?」
相手はロゼの正体に気付いている相手だ。最悪、利用されるだけの可能性が高い。それを懸念してロゼは否定的な態度をとっているが、ゾディアック自身はリリウムと金田に興味を持っていた。
そして、この稼業にも。
「まずは、話だ」
「いいですね。そう。まずはこちらの話を聞いてから」
喉を鳴らし、リリウムは切り出す。
「なぜ、ギルバニア王国で騎士団の副団長を勤めていた私が、ここにいるのか。探偵なんていう謎の家業をしているか」
柔らかい笑みを浮かべ、ふたりを見る。
「私は、騎士団を追放されたんです」
「追放」
「ええ。そして、このトラと、サフィリアの近くにある森で出会った。似た者同士、出会った感じですね」
「……似た者、同士?」
リリウムの隣に座った金田が、口を開く。
【ある意味、俺もひとりだったからな】
以前のような丁寧な口調ではない。どうやら、本音を曝け出そうとしているらしい。
上体を前に出し、項垂れる。
【警視庁捜査一課、金田虎次郎。「放逐虎」、なんて呼ばれていた。聞いたことないだろうな】
自嘲気味に笑い、金田はゾディアックを見る。
【俺は、ここの世界に来た。ある犯人を、追うためにな】
「そしてそれは、私が追っている相手でもある。しかし、このままでは人手が足りない。どうか、私達に手を貸してくれませんか、ゾディアックさん、ロゼさん」
それから詳しい話が始まろうとしていた。
ゾディアックとロゼは知らない。
これから、探偵稼業を手伝い、オーディファル大陸全土を巻き込む大事件に巻き込まれることなど。
リリウムと金田と共に、世界を救うことになるなど。
この時は、微塵も思っていなかった。
Last_Dessert Finished!!
C.O.O.K~暗黒騎士だけど、可愛い吸血鬼のためにデザート作るよ!~
END
To be continued
D.E.C.K~異世界探偵48時、追放騎士と放逐刑事の事件簿~
お読みいただきありがとうございました!
ここまでお読みいただいた方に、心から感謝いたします!
あとは、あとがきです。
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次回の物語も、よろしくお願いします!




