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C.O.O.K~暗黒騎士だけど、可愛い吸血鬼のためにデザート作るよ!~  作者: RINSE
Dessert.4「バースデー・マカロン」
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第93話「Good_Bye_Golden_Sunny_Day」

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

『今日、冒険者になれた。レオンは涙を流して喜んでいた。カッコいい顔が台無し。いいとこなくなっちゃうじゃない。

 でも気づいたの。彼は私と一緒に受かったことに、喜んでいたんだ。私が落ちていたら、きっと彼は冒険者になろうとはしなかっただろう。そういう人なのだ。

 本当かっこつけ。そこがいいんだけど』


 ページをめくる。


『親と喧嘩をして、ひとり暮らしを始めることになった。そしたら一緒にレオンもついてきてくれて、引っ越し作業も手伝ってくれた。サフィリアなんていう酷い街で住むことになった翌日、レオンは財布を取られた。

 なのに笑ってるの。これから大儲けするんだから、気にすんな、なんて言って。

 しょうがない。私の力で、大儲けさせてあげよう。そのために頑張ってきたんだから』


 ページをめくる。


『エリーっていう獣人の子と出会った。亜人のせいで誰もパーティを組んでくれないらしい。誘ったら、ふたつ返事で友達になれちゃった。亜人なんて関係ないわ。彼女は強い子よ。

 はぁ。レオンもしっかりと勉強して、もっと魔法使えるようになればなぁ。でも、強くなりすぎたらモテちゃうか。それは駄目かも』


 ページをめくる。


『Jランクのゾディアック・ヴォルクス。はじめは絶対に怖い人だと思った。けど、話してみると、ただのお菓子好きのお兄さんだったわ。緊張して損した。けど、ちょっと喋り方怪しいというか、不審者っぽいというか。

 なんで顔がいい人は、何かしら問題を抱えているのかしら。もっと明るく話せばいいのに。

 レオンとエリーと一緒に、ゾディアックさんと仲良くなっていこう。うん。仲間として。Jの人と一緒に冒険なんて、夢みたいだもの』


 ページをめくる。


『一緒にアクセサリーを買ったら、不良品だったわ。レオンが怒ってくれて、嬉しかった……』


『あんな幽霊と戦えるなんて! 倒せたからいいけど、レオンが気絶してた。馬鹿だ私。レオンが死んだら、どうするのよ。もっと強くならなきゃ。強くなるって誓ったんだから』


『いっぱい魔法を覚えてきた! これでみんなをもっとサポートできる。エリーと一緒に特訓よ!!』


『あそこのケーキ、美味しかったなぁ。ゾディアックさんが必死にメモを取っていて、笑っちゃった』


『ロゼさん可愛いけど、私だって負けてないわ。レオンったら鼻の下伸ばして! もう。

 ……私もドレスを着てみようかな』


 ページを、めくり続ける。


『失敗した。レオンと喧嘩しちゃった。仲直りしなきゃ。レオンだって、私と同じ気持ちだもの。頼りにしてるって、言わなきゃ。あなたがいなきゃ、私はダメになっちゃう』


『明日は誕生日!! ちゃんと謝って、仲直りできたら、今度こそ告白しよう。好きだって。

 頑張れ、私! レオンはニブいから、直接好きだって言おう! いい返事が、もらえるといいなぁ』


 日記はここで終わっている。次のページをめくっても、白紙だった。めくってもめくっても、白が続く。そして最後のページが目に飛び込む。

 そこには文字が書かれてあった。


『これを見ている誰かへ。これを見ているということは、私はもうこの世にいないのでしょう。冒険中に死んだのか、病死したのか、事故死なのか、まったくわかりません。

 冒険中だったら、嬉しいです。私は、誰かの役に立って死ねたら、もう思い残すことはありません。もし、私が死ぬことで、誰かが幸せになってくれるなら、それで充分です。

 これを見ている人へ。

 どうか、私を、忘れてください。そしてこの本を、レオン・ハーティレイクという人に届けてほしいです。

 それだけが、願いです。よろしくお願いいたします。


 アイリ・カーディナル』


 綺麗な字だった。何度も見たことがある、アイリの字を、レオンは撫でる。

 もう顔も見えなければ声も聞こえない。

 今までの思い出が頭の中を駆け巡る。レオンはただ、その字を撫で続ける。


 瞬間、本のページが光り始めた。一部分が、紫色に光り輝き、文字が浮かび上がる。

 目を見開いて、その文を読む。


『ああ。そうか。ちゃんと渡せたんだ。


 レオンへ。


 すごいでしょ。あなたの魔力だけに反応して文字が浮かび上がる、私特製の魔法。恥ずかしいこと書くから、レオン以外に見られたくなかったんだぁ。

 はぁ。でも、これ見てるってことは、私はあなたより先に死んでるってことか。残念。


 ねぇレオン。私が冒険者になろうとした理由知ってるっけ? 覚えてるかな。私が魔物に襲われた時、あなた木の枝と石だけで魔物を撃退しちゃったの。凄くかっこよかったわ。けど、大怪我もしちゃって。だから私誓ったの。あなたを守れるくらい、強くなろうって。


 ねぇ、レオン。私、あなたを守れて死ねたかな?

 あなたに、好きって言って、死ねたかな。

 告白も成功して、一緒に住んで、それから、それから。


 幸せに、一緒に、暮らして。

 あなたの隣で、笑って、死ねたかな。


 お願いがあるわ。レオン。

 どうか、悲しまないで。そして時々でいいから、私のことを、思い出してほしいな。

 どうか、私のことを、忘れないでほしい。


 レオン。ありがとう。あなたに出会えて、一緒に生きて、一緒に戦えて。

 私は、幸せだったわ。


 レオン。大好き。

 本当に、心の底から、あなたのことが、大好きなの。


 ありがとう。






 さようなら。






 アイリより』




 頬に、雫が伝う。それが、文字の上に落ちる。それでも文字は、煌々と光っていた。

 まるで、アイリが話しかけているかのように。まだ生きているかのように。鼓動のように。光っている。


「アイリ……」


 涙をこらえるように、空を見上げる。いつの間にか、日が赤くなっている。移動し続け、随分遠くへ来たのか、時差が生じているせいだろう。

 太陽の光と夕焼けに染まっていく空。自分を照らす光は、まるで黄金。


 アイリの髪と同じ、黄金の輝き。


「アイリ……」


 この声に、誰も反応しない。レオンは歯を噛み締め、本を閉じて胸に抱く。


「アイリ……!」


 会いたい。

 まだ、彼女に何もできていないじゃないか。好きだって、伝えられていない。


 まだまだ、いっぱい、一緒に色んなことをしたかった。

 一緒に冒険をしたかった。

 一緒に行きたかった。

 一緒に、生きたかった。


 けどもう、いないんだ。


 レオンは涙を拭い、鞄を覗く。

 本をしまい、ゾディアックが渡してくれた餞別を取り出す。袋の中には、アイリの誕生日に食べようとしていた、抹茶のマカロンが入っていた。

 袋の封を解き、丸く、可愛らしいそれを、口に運ぶ。


 ほろ苦く、そして甘い、ちょっとしょっぱい、優しい味が口の中に広がる。


 嘘ばっかりついてきた。迷惑ばっかりかけてきた。

 けど、最後だけは、ちゃんと約束を果たせた。


「アイリ。見てるか?」


 もし魂というものがあるなら。

 一緒に飛竜に乗れていたら、嬉しいな。


 アイリ。ありがとう。

 一緒にいれたこと、誇りに思う。

 ありがとう。


 一面に広がる黄金の空の下で。

 レオンは口元に笑みを浮かべる。


 旅はまだ、始まったばかりだ。

 レオンは心の底から、空に向かって、ある言葉を吐き出した。




「俺も大好きだよ……アイリ」




 飛竜は、黄金の空に、飲み込まれていった。




Dessert4 Finished!!


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