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C.O.O.K~暗黒騎士だけど、可愛い吸血鬼のためにデザート作るよ!~  作者: RINSE
Dessert.4「バースデー・マカロン」
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第81話「Rainy_To_Meet」

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 冒険者達は役に立たない。

 そう判断すると、ゾディアックはキャラバンを頼ろうとした。

 扱い方を間違えれば、冒険者よりも金をせびられる危険性があるが、嵐の中でも力になってくれそうなのは、悪路に慣れているキャラバン達の方だと考えた。


 ゾディアックは、以前賠償金を渡したキャラバン団体である「グランド・オール」の団長を探した。

 だが、タイミングが悪く、2日ほど前から団長含む主力チームはサフィリアを出立していた。嵐が襲うサフィリアでの商売は、売上が期待できないとして、違う都市に行ったのだろう。


 仕方なく、近くで露店を開いていたキャラバンに話しかける。

 露店にいた男性にこれまでの事情を説明すると、男の顔がみるみる曇り、


「断る」


 という無慈悲な一言が告げられた。


「そういうのは集会所でやれよ。冒険者の問題をこっちに持ってくんな」

「そんな言い方ないだろ。こっちだって贔屓にしてるじゃないか。キャラバンが大変な時は、冒険者が手伝ったことだってある」


 レオンが諦めず食い下がると、男は鼻で笑う。


「こっちは手伝ってくれ、なんて一言も頼んだ覚えはねぇな」

「なに?」


 食ってかかろうとするが、にやけた面を崩さない。


「だいたい。どっかで見たガキだと思ったら。お前、ナイフ商店で客の予約品横取りした奴じゃねぇか。お前の対応した店長、どうなったか知ってるか? 殺されて亜人の餌にされたぞ」

「……え?」

「ツルキンピカの坊ちゃんが、これまた我儘なクソガキでな。一人称は「ボク」だ。「ボクが予約していたのに、この人が意地悪した!」」


 小馬鹿にするような口調で、口をすぼめて声真似をし始める。


「「殺してパパ! ボクは凄くて偉いんだってこと知らないんだ! だから殺して!」だってよ。鼻が潰れていて鼻水垂れ流し、口元には食べカス付けてたデブで低身長なガキンチョでな。いやもう、思い出すだけで殴りたくなってくる。超ムカつく豚面だ」


 よほど情けない顔をした相手だったのだろう。心底馬鹿にするような声で、吐き捨てるように言い放つ。

 その言葉を、レオンはほとんど聞いていなかったが、構わず男は喋り続ける。


「とにかく。おめぇの手伝いしたら、うちのキャラバンも危ない目に合うかもしれねえl。おまけに冒険者を殺せる殺人鬼を探してくれ、だと? 悪いけど、流石に荷が重すぎるぜ。他を当たってくれ」


 キャラバン達は、冒険者のように戦えず、魔法も満足に使えない者達が多い。そのため、冒険者達が自分達よりも、圧倒的に強い存在だと認めている。

 ゆえに、拒否反応を示すのは当然だった。


「だいたい、Jランクがいるんだから、そっちを酷使させろよ」


 そう言って、虫を払うような手の仕草をする。男の言い分はもっともだった。ゾディアックとエリーはこれ以上の問答は無意味だと判断し、踵を返す。

 だが放心状態のレオンは動けない。

 雨に打たれ、口を開けて呆けているレオンを見て、男がフッと笑う。


「覚えておけよ、にぃちゃん。悪いことしたら、”自分に”罰が当たるとは、限らないんだぜ」


 レオンの目が見開かれる。その時、空で轟音が鳴り響いた。男はわざとらしい悲鳴を上げて、店を撤去しようとその場を後にする。雨が更に激しさを増し、眼前の景色すら見え辛くなってきた。南地区の大通りから、賑わいの声が消えていく。

 雨に打たれながらレオンは灰色の空を仰ぎ見る。そして、静かに笑う。


「死ねば、いいのに」


 詫びるかのようなか細い声を発し、目を閉じる。瞬間、誰かの手がレオンの手を握った。先に歩いていたエリーが戻ってきたのだ。ひとりになるのを防ぐように、力強く手を握りしめる。そして、ゾディアックの背中を追うようについていった。レオンは引きずられるように歩く。


 ゾディアックは背を向け、何も言わなかった。

 やはり自分達だけで犯人を捜すしかないのか。

 この広いサフィリアを3人で。

 そう思うと、ゾディアックはきつく目を閉じた。アイリの楽し気な表情が脳裏に浮かんでは消えていく。


 息を吐き出し、雨に打たれながら、ゾディアックは自分の家へと向かった。


♢ ♢ ♢


「あら。ずぶ濡れですね。早く中へ入ってください」


 ドアを開けたロゼが全員を招き入れる。

 最初にエリーが中に入り、フードを脱ぐ。


「すいません、ロゼさん。こんな日にお邪魔して」

「気にしないでください! この家広いので、お客様が多いと嬉しいんです」


 ロゼが笑顔をふりまく。そして全員を中に入れ、タオルを渡していく。


「どうでしたか? 進捗(しんちょく)は」

「芳しくは、ないかな」


 鎧を自室に置いてリビングに戻ってきたゾディアックは、そう答えてタオルを受け取る。

 濡れた首から上を拭きながら経緯を説明すると、ロゼの表情が曇る。


「役に立ちませんね。冒険者」


 少し、怒気が混じる声だった。

 そう言って部屋を見渡すと、頭にタオルをかけ、椅子に座ってうなだれているレオンに近づく。髪から零れ落ちる雨水が、床を濡らす。


「風邪、ひいちゃいますよ。レオンさん」


 手を動かす気力もないレオンにそう言って、タオルを取ると、優しく髪の毛を拭いていく。撫でるような優しい手つきだった。


 されるがままのレオンは何も言わない。


「レオン」


 ゾディアックが呼びかけると、肩がわずかに動く。ロゼは動作を止め、後ろに下がる。


「もう、やめるか?」


 レオンが顔を上げる。


「……やめません。やめてたまるかよ。何があっても、何が何でも、たとえ俺ひとりになったとしても、犯人を見つけ出してやる」


 ゾディアックに鋭い目が向けられる。憎悪で燃えた瞳は、レオンの覚悟の表れでもあった。


「私も、同じ気持ちです。罪を償わせます」


 エリーが力強く同調する。

 ゾディアックはふたりを見て頷く。


「俺も、同じだ。相手がなんだろうと、しっかり捕まえなきゃな」

「ゾディアックさんがいるなら、百人力っすね」

「勝ったも同然です!」


 レオンの顔に笑みが戻る。力はまるで入ってないが、少しだけ元気を取り戻したように見えた。


「あれ? 私は仲間外れですか?」


 すねたような口調でロゼが言う。


「パーティは4人からですよね? どうでしょうか。私を入れるのは。こう見えても結構強いんですよ?」


 胸を張るロゼを見て、レオンとエリーが目を丸くする。ゾディアックは、静かに眉をひそめた。


♢ ♢ ♢


「いいのか? 手伝いをするなんて言って」


 リビングにふたりを残し、ゾディアックは扉を閉め、廊下でロゼと話す。

 ロゼは腕を組んで、すんと鼻を鳴らす。


「当然です。あなたが困ってますし、アイリさんとは一応仲良くしていた間柄ですから。多少は怒りを感じております。犯人にも、冒険者にも」


 少し前までは餌としか思っていなかった人間のために、吸血鬼であるロゼは働こうとしている。ゾディアックは胸が熱くなる思いだった。


「ありがとう、ロゼ」

「どういたしまして」


 ロゼを抱きしめ、リビングに戻る。

 まずは作戦会議だ。大口を叩いたはいいが、4人でサフィリアを捜索するのは限界がすぐに来る。


「殺人事件の犯人を追うなんて、情報無しでは厳しいですよね。任務とは訳が違いますし」

「漫画とかでも、まずは情報収集からだよな。それと、なんかこう、専門の知識を持つ協力者がいるとか」

「……やっぱり、4人じゃ厳しいですかね」

「泣き言いうなって」

「だってぇ」

 

 レオンとエリーは顔を見合わせて溜息を吐く。外の雨音が強くなる。

 すぐに動きたくても動けない。なんとももどかしく、時間だけが過ぎていく。

 ゾディアックも同じ気持ちであり、どうしようかと思案する。重苦しい空気が徐々に蔓延していく。


 その時、視界の片隅に情報誌が目に入る。何か殺人鬼の情報が手に入らないか、空気を変える何かがないかと思いながら、ゾディアックはそれを手に取り、パラパラとページをめくっていく。


 そしてある広告を見て、その指が止まる。

 同時にひらめいた。まさかこんな形で会いに行くとは思わなかったが、悪い考えではない。


「みんな、聞いてくれ」


 全員の視線がゾディアックに集まる。


「専門の知識を持った協力者が得られるかもしれない」

「ま、マジっすか!?」


 テーブルに情報誌を置く。全員がそれを覗き込むと、ゾディアックはある部分を指差す。


「ここだ。情報を持っている可能性も、手伝ってくれる可能性も高い」


 指を差した先には。


「冒険者では対応できない様々な依頼、請け負います。まずはご相談ください。

 探偵事務所「ビヨンド・タイガー」」


 そう書かれた広告があった。


♢ ♢ ♢


 サフィリアは4地区を分けるために、それぞれの境目に特徴的なモニュメント等が置かれている。

 その事務相は、東地区と南地区の境目にある”鉄塔”の近くに存在していた。黒く、そして錆びた鉄塔は12階建ての建物の高さに相当し、サフィリアの中でも異質な存在感を放っている。


 ゾディアックは初めてそれを見たとき、不気味だと思った。鉄塔はサフィリア宝城都市が「国」と呼ばれる以前から、存在している物らしい。

 つまり、地区などと分けられていない時期から存在していたのだ。

 誰が何の目的で作ったのかわからないが、今はただのモニュメントとして機能している。


 大雨が降る中、装備を整えた4人は目的の場所にたどり着く。ぎりぎり南地区に含まれている、白塗りされた4階建ての建物だ。この中に、事務所を構えているらしい。


 エントランスに入ると、広々とした空間が出迎える。奥に、閉ざされたガラス扉が存在している。

 全員フードを脱ぎ、ゾディアックは近くにあった集合ポストと各階層の案内板を見る。


 「ビヨンド・タイガー」は3階にある。まだ新しい表札が、光沢を放っていた。

 同時に妙だとも思う。ポストと案内板には、「ビヨンド・タイガー」以外の記載が一切無い。この建物には探偵事務所以外、人が住んでいないらしい。

 どこか怪しさを感じながらも、ガラス扉にゾディアックは迫る。近づいても、開きはしなかった。


「あれを使って開くんですかね?」


 エリーが近くにあった、数字のボタンが付いた銀色の板を指差す。それを見たこともない4人は、顔を見合わせる。


「なんでしょうか、これ」

「……呼び鈴、か?」

「ゾディアック様、お願いします」

「なんで俺だ」

「爆発するかもしれないじゃないですか!」

「するわけあるか」


 鼻で笑い、"呼出"と書かれたボタンを押す。無反応だった。

 303を押すが無反応だった。

 逆かと思い、番号を入力してからボタンを押すと、甲高い電子音が流れた。

 驚いたレオンが腰に手を伸ばす。何度か電子音が鳴り響くと、音が止まり、次いで声が聞こえてきた。


「はい」


 女性の声だ。


「……あ、あの」

「? はい」

「い、依頼? 仕事を、頼みたいのですが」


 掠れた声でそう頼むと、息を呑む音が聞こえた。


「お仕事ですか!? ぜひ聞かせてください! 今開けますね。あ、303でもう一度インターホン鳴らしてください!」


 どこか、聞き覚えのある声だとゾディアックは思った。

 女性は言い終えると、「ガチャン」という音と共に、ガラス扉が開く。4人は警戒心を緩めず歩を進めた。


 上へ行く手段は階段以外ない。3階まで上り、指定された扉の前で立ち止まる。

 灰色と青が混じった大きな扉だった。そして、横にあったインターホンなるもののボタンを押すと、部屋の中から声が聞こえた。


 駆け寄ってくる音。そして扉が開くと同時に、”銀髪”が躍り出る。


「いらっしゃいませ、お客さ……」


 目の前に現れた笑顔の女性を見て、ゾディアックとロゼは目を見開く。

 女性も言葉を止め、引きつった笑顔を見せながら固まっている。


「「……な、なんで?」」


 ゾディアックと女性の声が重なる。ゾディアックの目の前に現れたのは。




 ギルバニア王国、騎士団副団長。

 リリウム・ウィンバー・ハーツだった。




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