第63話「いっぱい食べるロゼが好き」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
朝が来た。部屋の中が太陽で照らされ明るくなる。
ロゼと思いを伝え合ってから、1日が過ぎた。ゾディアックは、まず”両目”の具合を確かめる。失明したと思っていた右目は無事で、視界が広くなる。ピントが合っていないなど、不具合は生じていない。
それを確認するとベッドから起き上がり、右足の調子を確かめる。ちゃんと感覚があり、足首を動かしても問題ない。
軽く跳躍する。特に問題なし。軽くストレッチを行いながら、次は右腕を動かす。痛みはないがまだ動きは固い。骨自体はくっついていると魔道士から言われている。変に動かさなければ、明日には完治するだろう。
そういえば、黒魔道士のアスクレピオスと、獣使いの麒麟は何処に行ったのだろうか。この宿にはもういないらしい。まさか、2人も逃げ出したのか。
ゾディアックは頭を振る。まだ軽い会話しか交わしていない2人だったが、あれは相当な実力者である。簡単に言えば、底が見えないというやつか。
あの2人はいったい何が目的だったのだろう。あの行動はまるで、自分を助けようとしていたように、ゾディアックは感じていた。
その時、背を向けていた扉が音を立てて開く。
「あ、コラ!!」
音を聞いて「やばい」と思った時にはもう遅かった。エプロン姿のロゼが姿を見せる。唇を尖らせて距離を詰めると、人差し指をゾディアックの鼻先に突きつける。
「まだ安静にしていないとダメだって言われただろう!」
「けど、もう動けるぞ」
「けどじゃない。まったく。今日の朝ご飯抜きにするぞ」
「……悪かったよロゼ」
「ふん」
そう言って両手を広げる。
「ん」
「なに?」
「動けるって証拠を見せろ。しょーこ」
ゾディアックは左腕だけでロゼの体を抱きしめる。ロゼは足の爪先を立て、ゾディアックに抱きつく。
「……いい匂い」
「変態。嗅ぐな」
首元に顔を埋めていたロゼが首を動かし、ゾディアックの顔を見つめる。そして唇を重ねた。身長が低いロゼは、ゾディアックが大きすぎるのもあり、必死に背伸びをしないと立ちながらキスが出来ない。
ゾディアックは自然と前屈みになり、キスをしやすくする。
たっぷりと唇を押し付け合った後、どちらからともなく顔を遠ざける。
「おはよう、ロゼ」
「おはよう、ゾディアック」
太陽すらも敵わない眩しい笑顔のロゼを見て、ゾディアックは軽くめまいを引き起こした。
♢◆♢◆♢◆
「俺も何か手伝いますよ、モナさん」
「いいのよ! ゾディちゃんは休んでて!」
テーブルの上に広げられた名簿から視線を外し、モナは優しい声色でそう言った。
せっせと宿泊施設の掃除を行い、次に来る客の準備を行うモナは忙しそうだった。ただ、ロゼが手伝っているため、それほど苦労はしていないように見える。
「モナ。3階の部屋傷だらけだ。冒険者が防具とかそのまま床に置いたっぽい」
「もう!! 次は出禁ね!」
ゾディアックとモナは従業員用の控え室におり、そこにロゼがひょっこりと顔を出して報告をした。ゾディアックはロゼの出で立ちを見て目を疑った。
大き目の白いシャツに生足を曝け出しているショートパンツという、普段のゴシックドレスからはかけ離れた恰好をロゼはしている。
色白の肌が大胆に露出しており、ゾディアックは目のやり場に困っていた。特に胸だ。身長が低く、腰が括れていることしか分からない服を着ていたため、勝手に貧乳だと思っていたのだが、中々どうして、立派な物がついている。
下着を付けていないのか、動くたびに揺れているのがわかるし、谷間もハッキリとわかる。このままでは行けないと思い、ゾディアックは注意をしようとする。
「ろ、ロゼ。その……」
「今忙しいから後にしろ!」
が、そう言ってさっさと次の業務に向かってしまう。
ロゼはゾディアックをここに運んでから、自分もここにいさせてほしいとモナに頼んだ。しかし、宿泊するには冒険者、または市民であることの証明が必要だ。ロゼは当然持ち合わせていない。それでも素性を隠してモナに頼み込むと、仕事を少し手伝うことを条件に、ここに宿泊することが出来た。
必死にゾディアックをここまで運んでくれた女の子が、悪い子であるはずがない。
と、モナは言っていた。ゾディアックはそれが嬉しかった。ますますロゼが好きになっていた。
ただあの恰好だけはいただけない。その旨を伝えると、モナは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「可愛いわよねぇ」
「可愛いとかじゃなくて。あの恰好はちょっと」
「あら。どうして」
「目のやり場に困るというか」
「悪い虫がいっぱい寄ってくる?」
ゾディアックが口を曲げる。先日、ロゼ目当てで村にいた冒険者が押し寄せてきた。痛む体を引きずり、ゾディアックは抵抗の意思を示していたのを覚えている。
「俺の女を見るなー、だっけ?」
「そんなこと言ってない。見世物じゃないから散れって言っただけだ」
冒険者達のにやけ面を思い出す。ボロボロに魔物にやられて、自分の女に介抱されている凄腕の暗黒騎士。ゾディアックの姿はいったいどのように映っていたのだろうか。
「あそこで下手なこと言ったらもっとやばくなる」
「そうか? 私は言ってほしかったぞ」
再びロゼが姿を見せた。手には工具箱を持っている。
「床。直しておいたぞ、モナ」
「本当優秀ね。もうここで働いてほしいわ。うちの看板娘として」
「魅力的だが……」
チラとゾディアックを見る。
「私の男が、それを許してくれそうにない。諦めてくれ」
ゾディアックは顔を赤らめて目を伏せると、モナの笑い声が耳に届いた。
♢◆♢◆♢◆
「え!? 酒場で取り返したのか!?」
夜、自分の部屋で夕食をとっていると、目の前に座ったロゼからそう告げられた。
驚いた声で聞き返すと、パーカーを来たロゼはコクリと頷く。
丸テーブルの上に、サラダに豚ロースカツ、スモークチキン、赤魚の煮つけ、モナの得意料理である海鮮パエリアが置かれ、テーブルを彩っている。
ロゼと一緒にそれらを食べ始めると、ゾディアックは金品をどう取り返したのか聞いた。するとロゼは「酒場で賭け事をして勝った」と、生足をブラブラとさせ、余裕だと言わんばかりに告げてきた。
正直、聞いていて気が気ではなかった。
「一歩間違えれば大惨事だったかもしれないぞ」
「その時はその時だろ」
対面に座るロゼはあっけからんとそう答える。頭を抱えそうになった。
「頼むから無茶しないでくれ」
「無茶するさ。お前のためならな」
「怖いもの知らずだな。嬉しいよ、ありがとう」
「ん」
フォークで魚の身を崩し口に運ぶ。
「それ、私が作った」
「本当か」
「モナに作り方を教わってな。どうだ?」
「美味しい。ロゼが作ったって聞いた瞬間3割増しになった」
「なんだそれは。私の名がついてなければ3割不味いってことか」
「まぁ100点から下がることはないけども」
「う」
2人の視線が重なり、笑みを交わす。
「ゾディアック、全部食えるか?」
「余裕。ロゼは?」
「こう見えても大食いでな。スモークチキンは私が頂く」
「ずるいぞ。俺にも半分くれ」
「そこはおおらかな心で、彼女の言葉を聞く場面だぞ」
自然と”彼女”という言葉を口から出すと、ロゼは一瞬呆けたような顔になって、頬を朱に染めた。
「……いいよ。チキン食べて。彼氏だから、おおらかな心で許す」
「やめろ」
「食いしん坊の彼女でも全然かまわない」
「本当にやめろ。ぶっ飛ばすぞ」
「いっぱい食べるロゼが好き」
「ようし、わかった。今日の夜はイタズラしまくってやるからな! 覚悟しろよ!!」
それから楽しげに2人は夕食を平らげていった。
空から2人を照らす満月は、太陽以上に輝きを見せていた。




